60.ペンダント
食事をとっている間にだいぶ辺りも明るくなってきた。
そう言えば全然、他のプレイヤーに会っていないな。
昼の森では遠目にチラホラ見えた時もあったが、夜の海ではほとんど見ることもなかった。
この島がとんでもなく広いのか、何か別の場所で発見があったのか。
もしかしたら俺が見つけた小屋の残骸のようなものがそれなりにあるのかもしれない。
ペンダントを見つけられたらハルとラピスさんに相談してみるのもいいだろう。
さすがに実物が無いまま相談するのも気が引ける。
食事も終わったので、また小屋の中を捜索してみよう。
俺は木の実や果物を片付けると再び小屋の捜索に入る。
前日に大きな瓦礫は撤去できているのでだいぶ捜索は楽なはずだ。
……………………。
「チュウーーー!」
しばらく捜索しているとハーメルが声を上げる。
声のした方を向くとハーメルが床の下から出てくる。
その口には汚れてはいるが確かにペンダントのようなものが咥えられていた。
どうやら天井などが崩れた時に床を突き抜けて下に落ちてしまったらしい。
ハーメルを掬い上げ、ペンダントを受け取り、確認する。
想い出のペンダント 古いデザインの銀色をしたペンダント。青い宝石が一つ付いている。
※イベントアイテム。他プレイヤーに譲渡不可及び破棄不可
どうやらお目当てのペンダントで間違いないようだ。
詳しいことは鑑定スキルで見てみないとわからないが、このアイテム名で違うという事は無いだろう。
つまりこれを渡す相手もいる可能性が高くなった。
フレンド通信でハルとラピスさんにメールを入れる。
日誌の内容を掻い摘んで説明し、その日誌に出てくるペンダントも見つけたことを書いておく。
おそらくドンハールさんはラピスさんと一緒にいると思うのでメールは送らなかった。
すると、間髪入れずにハルとラピスさんから返信が来る。
すぐに会いたいから最初の地点に来てほしいと。
俺はそこまで離れていないはずだが2人のパーティーはそこまで戻って良いのだろうか?
というか示し合わせたように同じところを指定してきたな。
多分確実に合流できそうなのがそこという事なんだろうが。
俺は了承のメールを送信し、最初の地点に向かうことにした。
……………………。
最初の地点まで戻ってきたが、やはりというか俺が一番近い位置にいたようで一番乗りだ。
俺は持ち物の整理をしながら他の2組のパーティーの到着を待つことにした。
「お兄ちゃん、1日ぶり! さぁ。話してもらうよ。あのメールで書いてあったことの詳細を!」
「まぁ、待て。ラピスさんにも連絡しているから全員そろってから話すよ」
ハルが自分のパーティーとともに森の中から出てくる。
そして、開口一番に詳細を聞いてきたのでラピスさんも来ることを伝え、落ち着かせる。
他のパーティーメンバーもそれで納得してくれたようで、思い思いに装備の点検を始めた。
「それより他のパーティーメンバーの了承は取ったんだろうな? 結構すぐに返信来たけど」
「それは事後承諾だよ! というかお兄ちゃんも今の状況知らないの?他のプレイヤーと会っていれば何かしら情報が入ってくるはずだけど?」
「ん? 俺が戦闘してた時にはほとんど周りにプレイヤーとは会わなかったぞ。この島はそんなに広いのかと思ったが」
「お兄ちゃん……。そんなわけないでしょ! どんだけ人の少ない場所で戦闘してたの? 森の中に大きめの広場があってそこを休憩所代わりにしてるパーティーがほとんどだよ。その方が情報交換や物資のやり取り楽だからね」
「そ、そうなのか。でもそれだとレベル差が激しいグループが同じエリアにいることになるよな? それで問題ないのか?」
「それがね、どうやらこの島には小規模なダンジョンが点在していてるみたいなの。今プレイヤーたちが休憩場所にしている空き地を中心に行動すれば比較的多くのダンジョンに挑戦できるんだよ」
ハルの話によれば最初はみんなバラバラな場所で、自分のレベルにあった狩場で戦っていたようだ。
しかし、小規模ダンジョンが見つかり、その中からイベント限定アイテムが手に入るという情報が広がってからプレイヤーたちはダンジョン捜索に躍起になった。
すると自然とダンジョンの分布からその空き地にプレイヤーが集中するようになったのだとか。
ダンジョンにはそれぞれ適正レベルが存在し、様々なレベルのプレイヤーが混在していても問題なく狩りができる様だ。
昼間、海辺に来ていたプレイヤーはもしかしたらダンジョンを探すために来たのかもしれない。
「どうやら私たちが最後みたいですね」
俺とハルが話していると、ラピスさんが声をかけてくる。
ラピスさんとドンハールさんのパーティーも到着したようだ。
ハルの話ではトップパーティーはピリピリしているという話だったが、ラピスさんたちのパーティーはそうでもないな。
そんなことよりメールの内容について話さないとな。
「全員そろったみたいなのでメールで書いたことの詳細を話そうと思います」
俺はここにいる全員に小屋でわかったことについて話していく。
俺は日誌の内容について話していき、ペンダントを見せる。
その話を聞いていた全員が驚くと同時に何やら思案顔になる。
「どうしたんだ? 全員、急に黙ったりして?」
「それはね、お兄ちゃん。その日誌に出てくる館に心当たりがあるんだよ」
「何! どこにあるんだ!」
「落ちついてください、お兄さん。今ほとんどのプレイヤーが休憩に使用している空き地のそばに館があるのです。プレイヤーがそこに集まっているのもその館が目印になっているというのも関係あります」
「やっぱり無人島って最初に説明があったのに明らかに人の手でつくられた建物があったらみんな気になって近づいて行っちゃうよね。……でも中に入るのはオススメできないかな」
「なんでだ?あぁ、建物の状態がひどいのか?」
確かにあの小屋の状態から考えるにひどい状態なのだろう。
だが、ドンハールさんが待ったをかける。
「違う。そういうわけじゃないんだ。どうやら館そのものがダンジョンになっていてな。いたるところに罠があるんだ。1階はそうでもないんだが2階はすぐに1階に落とそうとするトラップばかりなんだ」
「そうなんです。ダメージを与えるわけではないので危険察知の効果で見つける事もできませんし、発見スキルでも見つけきれません。おかげで皆一度トライしたらあきらめて他の所に行ってしまいます」
何かあるとはわかっていても手を出せないわけか。
それにイベントの時間制限もある。
館にかかりきりになるとレベル上げの問題が出てくるから今は挑戦するべきではないという事か。
せっかくイベント期間中は取得経験値が多いのにダンジョン一つにかかりきりになれないのだろう。
そういえばここにいる人たちは大丈夫だろうか?
俺はそう思って聞いてみたのだが。
「そのことなら問題ありません。もうレベルキャップに到達するのも時間の問題ですし、それよりも面白そうな話を聞いて飛びつかないゲーマーはいません」
「そういう事だよ、お兄ちゃん。私たちもこんな話を聞いてしまったらレベリングに集中できないよ」
ハルの言葉に全員が頷く。
その後にラピスさんが続ける。
今、話に出ている館以外にもそれなりの数の場所に小規模のダンジョンが見つかっているのだがどこも先に進めていないらしい。
どうやら最深部らしきところまで行くとその先に扉があるようなのだが、どうやっても開けることができないそうだ。
プレイヤー間ではその扉はイベント最終日のミッションが発生した時に開くのではないかという事だ。
そう言われているのには理由がある。
どうやらダンジョン最深部の壁に扉の先に何があるか説明した文章が書いてあったそうだ
それによるとこの世界ではない別の世界から来たモンスターが封印されているらしい。
そのうえ、どこの扉も創造神インフの教会に書かれていた紋章があった。
このことから最終日のミッションはこのモンスターの討伐なのではないかという事らしい。
「大体、どこのダンジョンも4パーティーまでレイドを組んで挑めるタイプのダンジョンのようです。最初に4パーティー指定できた理由はこれもあるかと思われます」
「でもそうすると、ダンジョンを攻略しないと最終日のミッションに参加できない可能性が高いんだよ!」
「なので、ミッション発令時にダンジョンにプレイヤーが殺到することが予想されるため、できるだけ攻略できるダンジョンを増やしておきたいのです」
なるほど、そういう事か。
ミッションがその通りなら最終日にダンジョンに人が殺到するだろう。
そうなれば、簡単に攻略できるダンジョンには長蛇の列ができるはずだ。
列に並んでいたせいで最終日のミッションへの参加が遅れるのは避けたいのだろう。
もし、俺が持っているペンダントがその館の攻略アイテムなら最終日にだいぶ有利になる。
俺とレイドを組んだパーティーだけ、館からミッションに挑むことができるのだから。
「図々しいお願いになるのですが、私たちと一緒に館を攻略しませんか?」
「お兄ちゃん、お願い!」
もともと、ペンダントをペットに届けるのに助力を頼もうとしたのはこちらなのでお願いされるまでもない。
というか、こちらからお願いするのが筋だろう。
「お願いするのはこちらの方だ。このペンダントを届けるために協力してほしい」
こうして俺たちは件の館がある場所に向かうことにした。
……………………。




