55.最初の狩場
ハルたちと別れた俺は森の中を進んでいた。
とりあえず、食料の確保と拠点になりそうなもの探しが必要だ。
ハーメルたちに辺りの警戒を頼みつつ辺りを確認していく。
辺りにはたくさんの木々があるがいくつか見覚えのあるものがある。
その木の周りにはハーメルの好物であるエイコンの実が沢山転がっていた。
それを見た俺は読み通りであるとほくそ笑む。
普段から存在する植物もあるとは踏んでいた。
持ち込めるアイテムが無いこのイベントでイベント用アイテムばかりでは鑑定スキルが必須になってしまう。
さすがに第一回イベントでそんなイベントはやらないだろう。
仮にそういうイベントなら最初から告知しているはずだ。
あまり詳しくなくても食用アイテムに使われているものもチラホラあるので完全に詰むことはないだろう。
俺達は食べ物や回復に使えるアイテムを回収しながら進んでいく。
「クウォーン」
しばらく進んでいくと前方よりモンスターの鳴き声が聞こえてくる。
声からしてウルフ系だろうか?
戦闘態勢を取りながら前進していくとモンスターの姿が顕わになる。
見た目は二足歩行の白い毛並みの犬だろうか?
特徴から推測するにコボルトのようだ。
コボルトは戦闘力的にはゴブリンの上位互換と言えよう。
ゴブリンより力は無いが察知能力と器用さに長けており、集団戦になるとかなりの脅威となる。
以前、初級ダンジョンでやった戦法はゴブリンが力任せで不器用なところがあるため通用した戦法だ。
コボルト相手だとうまく盾の間を狙ってくるので俺の付け焼刃の盾使いでは厳しかったことだろう。
今回遭遇したコボルトは3匹で全員こん棒を装備している。
どうやら役職の無いただのコボルトのようだ。
だいぶ距離が近づいてきたところで戦闘に突入する。
戦闘は意外とすぐ終了した。
コボルトに牽制で放ったウォーターボールだったのだが一番前にいたコボルトに直撃し、後ろの2匹を巻き込みながら倒れこむ。
そこをハーメルの泥固めで固定し、全員でタコ殴りにして終了だ。
コボルトは迷宮都市のDランクダンジョンで出現するモンスターなのでもう少し手こずるかと思っていたのだが拍子抜けだ。
もしかしたら初期地点付近だから強いモンスターは出てこないかもしれない。
全員参加のイベントだからいきなりどうしようもない状況にはならない仕様なのだろう。
もう少し先に進まないと俺たちのレベル上げには難しいかもしれない。
ただ、あまり周りを気にしなくても大丈夫そうなので、休憩するときにはこの辺りに戻ってくるのもありだな。
俺たちは何回かの戦闘をしながら森の中を進んでいく。
何回か戦闘してわかったことだが、どうもモンスターのドロップ品に消耗品の類が混じっているようだ。
おそらくイベント限定の処置だろう。
ただ、かなりのモンスターを倒しているが20体に、1つくらいの頻度で初級ポーション系がドロップしてくる程度だ。
ギリギリ一人で行動しているプレイヤーが詰まないぐらいの量という事だろう。
今のところ初心者エリアにいるのか、ダメージをほとんど受けることなく進んでいるので消費はしていない。
ここでできるだけ蓄えておけば後が楽だろう。
俺たちはできるだけポーションの類を使わないように、ダメージを受けにくい戦法をとりながら進んでいくことにした。
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
≪テイマーのレベルが上がりました。≫
現在、コボルト・ゴブリン・スライムなどファンタジー定番の初級モンスターとしか戦っていないが、全員がレベルアップしてしまった。
最初の説明にあった通り、普段より取得できる経験値が多いようだ。
そんなことを考えながら進んでいくと前方の方から磯の匂いがしてきた。
どうやら無人島の端の方に進んできていたようだ。
森が終わるとそこには海岸線が続いていた。
どうやら森エリアを抜けたらしい。
「チュウーーーーーーー!」
辺りの捜索をしていると、
いきなりハーメルが鳴いた。
俺は慌てて森の茂みに舞い戻る。
すると、先ほどまで俺たちがいた場所に水の球が飛んできた。
どうやらモンスターが辺りに潜んでいるようだ。
ヌエに上空を飛んでもらい、囮になってもらい敵をあぶりだす。
すると、砂浜の中からヤドカリのようなモンスターが現れてウォーターボールを放とうとするのが見えた。
あれはおそらくシー・ハウスというモンスターだろう。
ラビンスの資料室に情報があった。
普段は砂浜のようなさらさらした砂のある海岸線付近に潜んでおり、少し離れた位置から水魔法を飛ばしてくるらしい。
本来はDランクダンジョンに出てくるモンスターだが、コボルトの事を考えるとダンジョン基準に考える事はできないだろう。
どの程度の強さかは戦ってみないとわからない。
「ハーメルは近づいて泥固めで動きを封じろ! ヌエは牽制、エラゼムは周囲に気を付けながら敵に近づけ!」
今回は砂浜の関係上、湿った砂、土が沢山あるのですぐに泥固めを使える。
だいぶ有利のエリアであるが、先ほどのシー・ハウスの出現の仕方を見るに警戒を怠るわけにはいかない。
いつなにが砂浜から飛び出てくるかわからない。
エラゼムはレベルアップで多少早くなったとはいえ、まだ俺たちの歩くペースに追いつける程度なのだ。
早い敵に遭遇したら逃げることは難しいので戦うしかないだろう。
それならできるだけ先に見つけて対処できるようにしたい。
エラゼムに感知系のスキルは無いが、周囲を警戒するに越したことはないだろう。
ヌエに気を取られているため、隠者スキルを持つハーメルはシー・ハウスに気づかれることなく近づき泥固めを発動する。
泥固めで固められたシー・ハウスは動きを止めるが、そのままウォーターボールを放ってきた。
しかし、狙いもつけずに放たれたウォーターボールはヌエに当たることなく明後日の方へ飛んでいく。
後は、俺の魔法とヌエの牽制でじわじわHPを削ったところをエラゼムが止めを刺して戦闘は終了だ。
さっきまで戦っていた森エリアのモンスターと違い、シー・ハウスとの闘いではそれなりに時間を取られたので、おそらく初心者エリアは抜けられたものと思われる。
このエリアはハーメルの泥固めが存分に生かせるので俺たちにはちょうどいい狩場かもしれない。
モンスターの強さもほどほどなので、初日はこの辺で戦いながら仮拠点になりそうな場所を探していく感じで行こう。
俺はハーメルたちの状態を確認した後、海岸沿いに足を運ぶのだった。




