53.レイド登録
昼食後、俺たちは自室に戻り再びログインする。
ログアウトした時点で集合場所付近にいるのでその場で集合を待つ。
ハーメルたちも好き勝手やっているので俺も読書しながら待つのだった。
「ハルのお兄さんですか?」
少しして声をかけられたので本から顔を上げる。
すると何となく見覚えがある顔があった。
「えーっと。る、ラピスさん?でいいんですかね?」
「そうですね。今回はよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく。ハルにも聞いたけど本当に誘うのは俺たちでよかったのか?」
「はい! 今回のイベント的には強いパーティーで固まる必要はないと思います。それに最初から同じくらいのレベルの人が集まると狩場の取り合いに発展する可能性が高いです。最悪、必要になったらゲーマー伝手を使えばある程度、人を集められると思います」
「そんなものか」
この辺はハルに説明してもらった通りだ。
まぁ、ラピスさんが問題ないなら別に気にする必要はないか。
フレンド登録をしつつ、一つ気になったことを聞いてみた。
「そういえば、イベントの詳細では4パーティーまでレイドを組めるとあったけど、俺とハルのパーティー以外にもう1パーティーあるよな?」
「はい。もう一つのパーティーには生産職メインの人たちを誘っています。護衛をする代わりに消耗品を作ってもらう手はずになっています」
確かに消耗品の供給は重要だ。
特に今回のイベントは持ち物をほとんど持ち込めないので、準備してくれるパーティーがあるのなら護衛を引き受けてでも協力を仰ぐだろう。
その話を聞いた俺はあることを思いつく。
「その生産職のパーティーの……」
「おにーーーーちゃーーーん」
俺がラピスさんに話そうとしたところでハルの声が聞こえてくる。
「ハルが来たようですね。行きましょう」
「あ、ああ。わかった」
ハルの所に向かうと近くにもう一人いる様だ。
見た目的には小人のような身長にずんぐりむっくりな体型。
毛むくじゃらのひげが特徴の顔。
おそらくドワーフという種族だろう。
「お兄ちゃんはラピスちゃんと合流してたんだね。こちらもドンさんと合流したところなんだよ」
「お前がハルさんのお兄さんか。俺の名前はドンハールだ。皆からはドンと呼ばれている。今回はラピスのパーティーに誘われてイベントに参加することにしたんだ」
「レイド登録にはパーティーリーダーだけいればいいから、このまま総合ギルドに向かおうよ」
ハルの提案で総合ギルドに向かう。
向かう道すがら、俺はさっきの思い付きを実行するためドンハールさんに声をかける。
「すみません、ドンハールさん。一つお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「実は俺はあまり生産職の伝手が無いんですが、俺や従魔の装備を作っていただけないかと思いまして。もちろんイベント後で結構です」
「すまないが俺たちが作るのは難しいな。これでも攻略組から声がかかるくらいにはそれなりに顔が知れているのでな。かなり待ってもらうことになるし、それなりにお金を取るぞ。特別扱いできないからな」
「そうですか」
ラピスさんは重度のゲーマーだという話だ。
そんな人が護衛を請け負うくらいには腕がいいはずだ。
予約もあるだろうし、それなりのお金もかかるだろう。
俺が考えを巡らしているとドンハールさんが助け船を出してくれた。
「イベント後でいいなら俺のところに来る新人でも紹介しようか?見た感じ攻略を急ぐようではないし」
「いいんですか!」
俺はドンハールさんとフレンド登録をしてイベント後に他の生産職を紹介してもらう約束をした。
これでようやくハーメルたちの装備を整えることができそうだ。
「お兄ちゃんたちなにやってるのーー。置いてくよーーー」
「先に総合ギルドに入っていますね」
ハルたちが先に総合ギルドに入っていくのが見えたので俺たちも急いで総合ギルドに入る。
ギルドのカウンターで4人の連名でレイド登録をする。
本来は巨大ボス討伐などで使うシステムらしい。
レイド登録をした後に分かれる。
一緒に行動するわけではないようで、特に打合せすることが無いのでこのまま一緒にいる必要はない。
それぞれイベントへの準備があるらしいので個々のパーティーに戻っていった。
俺もイベントまでにやることがあるので目的地に向かうことにした。
俺がやってきたのはファーストの図書館だ。
理由は二つある。
一つはイベントの内容がサバイバルのため、おそらくイベント中は読書ができないはずなのでギリギリまで読んでおきたいという事。
もう一つはサバイバルで役に立ちそうな情報の収集とスキルの習得だ。
今回のイベント中、読書できない可能性が高いので、それならここでできるだけレベルを上げておきたい
今後、できるだけ早く本を探しにいけるようにしておくためだ。
俺はイベントギリギリになるまで読書にふけるのだった。
≪習得度が一定に達したため、スキル「植物知識」を習得しました。≫
≪習得度が一定に達したため、スキル「土魔法」を習得しました。≫
植物知識についてはスキルを狙ったというよりはできるだけ植物の情報を入手しておきたかったのだ。
鑑定スキルがあればこんなことしなくてもいいのだが、鑑定スキルの取得方法がわからなかったので植物の情報を集めることにしたのだ。
理由は俺やハーメルたちのごはんを確保しやすくするためでもあるが、もう一つは回復手段を得るためだ。
錬金術と迷ったが覚えても道具を準備する必要があるし、レベル上げもできないのでそこまでメリットがない。
その後もスキルレベルを上げるために時間を割くこともおそらくしないだろう。
それなら素材のまま回復アイテムとして使えるものを的確に採れるように、情報を集めていた方が得策だと思ったのだ。
続いて土魔法についてだが、これはハーメルの泥術スキルを活かすためだ。
おそらくゲーム内の3日間でイベントをするのなら夜があるはずなので、視界を確保できる光魔法と迷ったが、火魔法で即席の松明を作れば問題ないと判断し土魔法を覚えることにした。
少し強引だが土魔法と水魔法で泥を確保できるので、岩場などでもなんとか泥を作りだせるだろう。
これで、やれることは全てやったはずだ。




