51.ボス戦決着
ゴブリンキングが泥固めによる足止めを破る。
「グガーーー」
足止めをしていたハーメルを狙ってきたので俺が盾を使って守る。
「ぐぬっ」
さすがにボスだけあって他のモンスターの攻撃とは威力が違う。
盾で防いだのに少しばかりダメージを受けてしまった。
ハーメルと俺でゴブリンキングの注意をひいている間に、エラゼム達に後衛職のゴブリンたちを倒してもらう。
ハーメルは泥鎧で体を覆っているので一撃くらいなら耐えられるだろう。
「グ、グガ」
俺たちが交互に攻撃や足止めをしているので、ゴブリンキングは翻弄されている。
先ほどのは仕方なかったが、できるだけ正面から攻撃を受け止めるのは避けたい。
足止めするにしても今のように翻弄しながら時間稼ぎがベストだ。
「グギャ、ギャ」
それなりの時間が経過して、後ろからの喧騒がなくなりゴブリンの弱々しい声が聞こえる。
どうやら後衛ゴブリンたちを倒したようだ。
すぐにやってこないところをみると、それなりにダメージを受けているようだ。
「エラゼム!ポーションをヌエに飲ませてくれ。ヌエは回復次第こちらの援護に!」
俺はエラゼムがいるだろう所にポーションを投げる。
「グガーーーーーーー!」
「チュウーーー!」
俺が目を離した隙にハーメルがゴブリンキングの一撃を受けてポリゴンに変わる。
「なっ。ハーメル!」
そちらを見るとゴブリンキングの体から赤いオーラのようなものが出ていた。
どうやら周りのゴブリンが倒されたことで激昂状態になったようだ。
特定の条件を満たすと激昂状態になるモンスターがいる。
ゴブリンキングは仲間の全滅がトリガーだ。
見境がなくなる代わりに筋力が大幅にアップし、状態異常にもなりにくくなる。
本当の筋書きではヌエたちがすぐに合流して、1人と3匹でタコ殴りの予定だったのだが、予想以上にハーメルのダメージが大きかったようだ。
初めての従魔の死亡であるが、気持ちを落ち着かせる。
以前のことで動揺すると状況が悪化することは学んでいる。
ハーメルの為にもここでゴブリンキングを倒す。
ヌエたちとも合流できたので3対1でタコ殴りだ。
俺とヌエでゴブリンキングにバインドをかけるが、効果が出ないのではじかれたようだ。
予想以上に状態異常耐性が強化されている。
予定を変更して俺の魔法とヌエの空中からの奇襲で牽制しつつ、エラゼムの攻撃でHPを削る作戦をとる。
エラゼムがゴブリンキングの攻撃にさらされるので、回復しながら攻撃してもらう。
こちらの回復手段が尽きるのが先か、相手のHPが無くなるのが先か勝負だ!
……………………。
結果から言えばこちらの勝利で終わった。
ハーメルを失ったのは大きく、効果的な足止めの手段を失ったのは想像以上に大変だった。
ポーションのほとんどを使い切り、医療知識のアーツである応急手当を使うところまで追いつめられてしまった。
ヌエもくたくたになって寝そべっている。エラゼムはいつも通りに見えるが甲冑に傷が沢山ついていた。
リビングアーマーの甲冑の傷はHPを回復すると徐々に消えていくらしい。
それでもこれだけの傷が残っているという事はかなりの回数の攻撃を受けたという事だ。
やはり何かしら装備品を考えた方がよかったかもな。
一応、従魔用の装備も露店にあったのだが、値段が高いわりにそこまで効果がなかった。
どうやらNPCの売り物は需要と供給で値段が変わるらしい。
需要があり数打ちができる剣や槍は比較的安いが、従魔の装備は個体差が大きい為かオーダーメイドであることが多い。
NPCでもさすがにオーダーメイドは高くつくらしく手が届かなかった。
従魔の装備ならプレイヤーメイドの方が安いかもしれない。
しかし、俺には作成を頼める伝手が無かった。
ハルを呼び出すのも気が引けるし、今回は見送った。
リビングアーマーは人が装備する装備品をつけることができるが、最初に持っていた斧も性能がそれなりだったので変えなかった。
俺の所持金で買える斧の中で、エラゼムの攻撃力を底上げできるほどのものが無かったのだ。
ゴブリンキングを倒したことで出てきた宝箱の中身を回収すると、帰還用の転送陣に乗る。
アイテムの確認は後回しにしてハーメルを迎えに行く。
従魔が死亡するとプレイヤーと同じように最寄りの教会にリスポーンする。
従魔にもデスペナが発生し、ゲーム内で半日の間HPとMP以外のステータスが1になる。
それに装備品をしていた場合、確率でロストするらしい。
初級ダンジョンから帰還し総合ギルドを出る。
ラビンスの教会は総合ギルドのすぐ近くにあるので、急いでハーメルを迎えに行く。
教会は総合ギルドを出てすぐに見える位置にある。
見た目はザ・教会という感じだ。わかりやすくて助かる。
教会も中に入ると様々な人がいるのでおそらくプレイヤーの人たちだろう。
「キャーーーー。かわいいーーー」
「こんな可愛いモンスターいたっけ?」
「ここに現れたってことは誰かの従魔かな?」
「どこかで見覚えがあるのよねー?」
「ヂュウーーーーーーーーー!」
何やら騒がしい声が聞こえてきた後に、聞き覚えのある声が聞こえる。
少し躊躇するが仕方ない。
おそらくあの騒がしい一角にハーメルがいるようなので迎えに行く。
「チュウ、チュウ!」
ステータスが下がっている影響で抜け出せないようだ。
「すいません。そこにネズミのモンスターいませんか?」
俺が声をかけると一斉にこちらを向いてくる。
少し恐怖を覚えるがその中心にハーメルがいるのを見つける。
「チュウーーーーーー!」
ハーメルも俺を認識したようで助けを求めてくる。
「この子。あなたの従魔?」
「ああ、俺のミスで倒されてしまったから迎えに来たんだ」
「そう、この子を融通してくれる気はない?」
「無いな。俺はこいつを気に入っているし、助けられてもいる。譲る気はない」
俺がはっきり言うと話していた女性は、なおも食い下がろうとしたが周りに止められる。
「あんまり無理言うとまた称号がついちゃうよ!」
「さすがにまたとばっちりは受けたくないわ!」
「うっ。それはさすがに避けたいわね」
どうやら以前にも騒いで不名誉称号がついてしまったらしい。
すぐにハーメルは開放された。
ハーメルは解放されると俺の頭までよじ登りペシペシと俺の額を叩く。
俺が迎えに来るのが遅いと言いたいようだ。
「そうだ思い出した! あの時、チャラいエルフに絡まれていたテイマーだ!」
何やら考え事をしていた女性が突然声を上げる。
……そういえばここにいる女性たちにうっすらと見覚えがある。
あの時チャラエルフが所属していた男性パーティーと口論していた人が何人かいた。
全員を覚えているわけではないがまず間違いないだろう。
「そういえば、あのエルフに絡まれてたやつの頭に何かのっかってるのはわかったけど、あの時はそれどころじゃなかったからなー」
どうやら相手も思い出してきたようだ。
「ネズミちゃんはわからなかったけど、そこの黒い鶴は特徴的だったから何となく覚えていたわ」
なるほど、今のところナイトクレインを従魔にしているのは俺以外見かけないのでそれで気づいたようだ。
相手がハーメルのことについて聞いてきたので、ハーメルの種族であるマッドラットの情報と引き換えに衛兵に連行された後のことを教えてもらった。
どうやら女性たちのパーティーは事情説明後、チンピラの称号を解除されたようだがチャラエルフのパーティーはそうはいかなかったようだ。
チャラエルフが騒ぎまくり反省しないとわかると他のパーティーメンバーは更生プログラム送りで、チャラエルフはアカウント停止処分になったようだ。
一体何をやらかしたのやら。
俺は女性パーティーと別れて教会を出る。
多少、予想外のことも起こったが、これで初級ダンジョンは攻略完了だ。
まだ総合ギルドに報告していないのでダンジョンランクがアップしていない。
とりあえず、ボス戦の戦利品を確認してから報告に行こう。




