44.準備とリトライ
本当はステータス表示は文の外のほうがいいのかもしれませんが、
自分がこちらのほうが見やすいのでこうしています。
修練場に金属同士がぶつかり合う音が響く。
今、俺はダナンディーさんの剣を受けながら、盾の扱い方を練習していた。
「ダメだぞ。今の攻撃は受け止めるのではなく、受け流すんだ」
言われている事を頭では理解しているのだが、思うように体が動かない。
受け止めれば勢いで突き飛ばされ、受け流そうとすればはじかれる。
最初、始めた時なんて盛大に吹き飛ばされていた。そしてダナンディーさんから、
「確かに、近接戦闘のセンスはなさそうだね」
と苦笑いされてしまった。
俺がダナンディーさんと盾の練習をしている横でハーメルたちは追いかけっこみたいなことをしていた。
遊んでいるというよりは攪乱と追跡の練習をしている感じだ。
あいつらも今回のことで思うところがあったようだ。
ちなみにエラゼムは追うことも、逃げることもできないので、体の向きだけでも常に相手に向けられるように練習していた。
しばらくダナンディーさんと練習していると。
≪習得度が一定に達したため、スキル「盾術」を習得しました。≫
というアナウンスが聞こえてくる。
俺の様子に状況を察したダナンディーさんは近づいてきて言う。
「どうやら盾術を習得できたようだね。それならここで初級コースは終了だ。また何かスキルを覚えたかったら声をかけてくれ。格安でやってあげるから」
俺はダナンディーさんに礼を言うとハーメルたちに声をかけて一度ログアウトした。
買い出しと昼食を終え、再びログインする。
ハーメルたちとご飯を食べた後、資料室に籠る。
前回はある程度の方針を決める為の下調べだったが、今回はもう少し詳しく調べることにする。下調べの時に読んだ本はガイドラインのような本で、よく出るモンスターは載っていたが、出てくることがあまりないものについては載っていなかった。
ダンジョン初挑戦の時にヌエを襲った黒い影については書いていなかったのだ。
今回は詳しく調べるので、今後そういうことは無いようにしたい。
調べてみるとあの黒い影はサンド・ロブスターというザリガニのようなモンスターであることが分かった。普段は砂の中を後ろ向きで移動し、敵が来たことを検知したらそのまま加速して突っ込んでくるらしい。
あの時、狙いが甘かったのも後ろ向きに飛んでいたからだろう。
≪習得度が一定に達したため、スキル「迷宮知識」を習得しました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「気候知識」がレベルアップしました。≫
大体、初級ダンジョンに関する本が読み終わったところでそんなアナウンスが聞こえてくる。今回増えたスキルはこんな感じだ。
「盾術」LV1 アクティブスキル
アーツ
・LV1 硬化 消費MP5 ・・・盾で攻撃を受ける場合、耐久力を倍にする。発動後30秒間効果を持続。リキャストは3分。装備の補正値は含まない。
「迷宮知識」LV1 パッシブスキル
・LV1 ダンジョン内の環境から受けるデメリットを低減する。効果は知力依存。
盾術のアーツは装備の補正値は含まないとあるので素のステータスを倍にするという事だろう。
迷宮知識は気候知識と重複している部分もあるのでこれでより探索が楽になるな。
思わぬ収穫もありホクホクしながら商店街に向かうことにした。
商店街に来た俺は消耗品の買い出しをすることにした。
前回のほとんど何も持たずに挑むようなことはもうしたくない。
しばらく歩いていると何やら周りからひそひそとしゃべり声が聞こえてくる。
・・・ラビンスに来てすぐの時も、それなりにジロジロ見られたがやはり俺の従魔たちは珍しいようだ。
見られる程度で済んでいるのはおそらく俺が来る前にあった、テイマーギルドでの件などが絡んでいるからだろう。
さすがに問題を起こして迷宮都市を出禁になるのは避けたいようだ。
少なくとも馬鹿にしたような感じではなく、物珍しさから来るものなので気にしないでおくことにする。
500ラーン -2700ラーン
ポーションや食品、従魔たちのエサ等の消耗品を購入した。
他にも水分補給のための水や長靴などの環境対策の物も買ったので金欠状態に逆戻りだ。
しかし、前回の失敗を繰り返さないための必要経費だと思う。
再びダンジョンに挑戦する前に、前回のダンジョン挑戦でレベルアップしていたので確認とSPの振り分けを行う。
NAME「ウイング」
種族「人族」 種族特性「器用貧乏」
HP 150
MP 450 100UP
筋力 20 10UP
耐久力 20(+28) 10UP
俊敏力 20(+2)
知力 65
魔法力 10
戦闘職「テイマー」LV4 2UP
生産職・特殊職「司書」LV11
NAME「ハーメル」 ウイングの従魔
種族「マッドラッド ♂」LV5 2UP 種族特性「泥」
HP 50 20UP
MP 50 20UP
筋力 3
耐久力 5 2UP
俊敏力 10 5UP
知力 6
魔法力 6 3UP
NAME「ヌエ」 ウイングの従魔
種族「ナイトクレイン ♀」LV4 3UP 種族特性「飛行」「夜目」
HP 60 20UP
MP 90 10UP
筋力 6 3UP
耐久力 4 2UP
俊敏力 10 5UP
知力 7 2UP
魔法力 7
NAME「エラゼム」 ウイングの従魔
種族「リビングアーマー」LV4 1UP 種族特性「魔法生物」「鈍足」
HP 100
MP 50
筋力 25(+2) 5UP
耐久力 20
俊敏力 10(-9)
知力 5
魔法力 15
だいぶ強くなってはいるがエラゼムは戦闘スタイルからか、筋力にすべてのSPが行ってしまったようだ。
他の2匹はだいたい万遍なく上がっている。
俺は盾術を覚えたので、今回は近接戦闘に役に立ちそうなステータスに振った。
これで事前にできることは全てやったと思っていいだろう。
準備を整えた俺は再び、初級ダンジョンへと足を運ぶ。
今度は物資をしっかり準備してきたので前回よりは慌てず行動できるだろう。
俺はギルドカードを掲げ、門の中へ入っていくのだった。
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眼前にはうっそうと生い茂る森林が広がっていた。どうやら今回は森林フロアからスタートらしい。
ギリギリ、ヌエが飛べるスペースはあるようだ。
「ハーメルは前方を偵察、ヌエは後ろを警戒。それでエラゼムは俺と一緒に待機だ」
俺は指示をしながら辺りを見渡す。足元は腐葉土のような土で覆われており泥の心配はなさそうだ。
ただ、鳥の中でも大型なヌエはかなり動きを制限されそうだ。それにエラゼムの斧も注意しておかないと木に食い込んで抜けなくなったら大変だ。
しばらく進んでいくと早速とばかりにモンスターが出てくる。
「ウォーン」
以前リーンが殲滅したウルフ系のモンスターだ。
まだ少し離れた位置にいるようで数は3匹。
「ハーメルは以前のようにこちらが戦いやすい位置に誘導!ヌエはハーメルが連れてきた1匹を担当。俺とエラゼムで2匹を担当する」
そう言って各自、戦闘態勢に入る。
ウルフは木の間を抜けるようにして迫ってくる。
そのうち1匹の進路上にヌエが飛び出す。
「クーーーー!」
そうして1匹を引き付けている間に残りの2匹がこちらに迫る。
俺は1匹の前に立ちはだかり盾で受け止める。
もう1匹はウォーターボールで牽制しつつ泥になった土をハーメルの泥固めで動きを封じる。
動けなくなったウルフの頭上からエラゼムが斧を振り下ろす。
それで1匹は撃破することができた。
ハーメルをヌエのサポートに回しつつ、盾で受け止めたウルフにバインドをかけエラゼムがとどめを刺す。
そのタイミングでハーメルたちもウルフを倒し、戦闘は終了した。
森林エリアは周りの木の位置さえ注意しておけばそれほど問題はないようだ。
それに拾える木の実の中にエイコンの実があったのでハーメルのエサはここで取ればよさそうだ。
まぁ、フロアの環境はランダムみたいだから来れた時に沢山拾っておこう。
「チュウーーーーーーー」
何度か戦闘しながら進んでいくと突然ハーメルが上を見ながら鳴いた。
つられる様にして上を見上げると木の上に何かいるのが見えた。
俺たちが認識したのと同時にそいつは木の実をこちらに向かって投げてきた。
俺は盾で身を守りながら指示を出す。
「ヌエ!木の上にいるやつの近くを飛んで牽制してくれ。ハーメルとエラゼムは木の下で待機。俺がサルを突き落したら、ハーメルが動きを封じてエラゼムがとどめをさせ」
そう、上にいたのはフォレストモンキーというサルのモンスターだ。
資料によると常に木の上で暮らし木の実を食べ生活している種族だ。
そして戦闘の時は堅い木の実を相手に投げて攻撃してくる。
資料室で調べていた時に見つけていたので、今度はしっかり対応する。
ヌエがフォレストモンキーのいる木の周りを旋回することで、他の木に飛び移らせないようにしながら俺がウォーターボールで木の上から落とす。
「キーーーーー!」
水と一緒に落ちてきたサルをハーメルの泥固めで固定、エラゼムで止めだ。
今の俺たちの必勝パターンはこれだな。
ヌエと俺で敵を泥があるところまで誘導してハーメルの泥固めで動きを封じ、最後にエラゼムの斧で止め。これを基本として後は状況に応じて臨機応変に動けるようになるのがベストだ。
今は自分たちの戦闘スタイルの確立が目的だから、無理しない程度で引き返そうと思う。
一応、目安としては消費アイテムを使い出したら撤退するとしよう。
今は5階層にいる中ボスを倒せるように4階層までで修行することが目的だ。
そう思いながら森林エリアを進んでいく。




