41.初級ダンジョンへ 初戦闘
ログインした俺は従魔たちと役割の確認をしていた。
「いいか。まずヌエが敵を引き寄せてくる。引き寄せられた敵を俺の闇魔法とハーメルの泥で動きを封じる。最後にエラゼムが止めだ」
全員が頷く。
「よし、じゃあ初級ダンジョンに入るぞ」
ダンジョンの入り口は総合ギルドの建物の中にある。
そもそもこの建物はダンジョンを管理するためにできたようなものらしい。
入り口と反対側に向かうと沢山の石でできた門が立ち並ぶエリアにやってきた。
俺は一番左の門へ向かう。
分かりやすく他のダンジョンの門とは少し離れた位置にある。
門の前まで来ると近くにいたギルド職員が声をかけてきた。
「初級ダンジョンに挑戦しますか?」
「そうですね。そのつもりです」
「それでは門の前にギルドカードを掲げてください。そうすれば門が開きダンジョンに挑戦できます」
俺は言われた通りにギルドカードを掲げる。
すると少し門が光ったと思ったらゆっくりと開き始めた。
開いた先にはキラキラと光の粒子が渦巻く空間が広がっていた。
……ここに入れということか。
じたばたしても仕方ないので、俺は意を決して飛び込んだ。
光が視界いっぱいに広がったと思ったら景色が一転して煉瓦造りの壁が覆う空間に立っていた。
俺はあたりを確認し従魔が全員いることを確認する。
ほっとした後、周囲の状況を見てみると正面以外の全てが煉瓦の壁で覆われていた。
レトロなゲームに出てくるダンジョンそのものといったフロアのようだ。
……厄介だな。うまく戦えなかったときにすぐに逃げることができない。
それに事前に打ち合わせした役割が使えない。
ヌエが飛べないうえ、煉瓦造りの壁なのでハーメルの泥も使えないのだ。
……相性の悪いフロアに来てしまったらしい。
可能性はあったがいきなり引き当てるとは思わなかった。
仕方ない。急いで次のエリアに行く階段を探そう。
「このフロアは先ほど決めた役割分担ができない。ハーメルが隠れながら先行して敵や罠があったら教えてくれ。ヌエはハーメルが見つけた敵を戦いやすそうな場所まで連れてきてくれ。俺が動きを封じるからエラゼムが止めを刺せ」
「チュウーーー」
「クーーー」
「・・・」
「チュウーーー!」
しばらく道なりに進んでいくとハーメルが鳴いてくる。
どうやらモンスターがやってくるらしい。
とうとう初戦闘だ。ここは横道がないので前方だけに集中できる。
後方からやってくる可能性もあるが1本道で、今まで遭遇していないのですぐにやってくることはないだろう。
「グギャーーー」
偵察に出ていたハーメルが戻ってきたところでそんな鳴き声が聞こえる。
現れたのはファンタジーでお馴染みゴブリンだ。
緑色の小人のような姿に粗末な服を着て、棍棒を持っている。
他のゲーム等ではかなり醜悪な顔をしていたりするが、このゲームではやや抑えめだ。
一応、全年齢対象のゲームだからな。
ゴブリンの数は2匹だ。
これなら十分対応できるだろう。
「ハーメルとヌエで1匹を足止め。俺が1匹をエラゼムの前まで連れてくる!」
指示を聞いたハーメルとヌエが片方のゴブリンに向かって突っ込んでいく。
それを確認した俺はもう1匹のほうに向き直ると、右手を突出し
「ウォーターボール」
と唱えて水魔法の最初のアーツを発動する。
すると、右手から人の顔くらいある水球が現れる。
そしてゴブリンめがけてそこそこの勢いで放たれる。
「ッギャ、ギャ」
それを見たゴブリンは回避しようとしたが、間に合わず水球が当たる。
しかしダメージは受けているものの、まだ元気そうだ。
体勢を立て直し攻撃をした俺に向かって突っ込んでくる。
俺はあえて後方に下がる。
ゴブリンが追いかけてくるのでギリギリまで引き付ける。
ゴブリンは棍棒を振り上げて攻撃しようとするが、すんでのところで横に跳ぶ。
すると、俺の後ろにいたエラゼムが待ってましたとばかりに斧をゴブリンめがけて振り下す。
俺に気を取られていたゴブリンは急に振り下されてきた斧に反応できず、頭に斧が直撃する。
その一撃でゴブリンはポリゴンとなって消滅した。
喜んでばかりはいられない、もう1匹のゴブリンを引き付けているハーメルたちの様子を確認しなければ。
そう思ってハーメルたちに視線を向けると、ちょうどゴブリンをヌエの嘴術で倒すところだった。
どうやらヌエの攻撃力でも問題なく倒せるらしい。
これでようやく一息つけるな。
俺はハーメルとヌエに周囲の警戒を任せて今回の初戦闘について考える。
……溝掃除の虐殺やリーンの悪癖修正は戦闘に含まれないだろう。
余計なことはおいて、現状について考察する。
初級ダンジョン1階のモンスターならそこまで苦戦することなく戦えそうだ。
慢心はだめだが慎重すぎて進まないのも考え物だろう。
今回は様子見で終わらせるつもりだったが、あと何回か戦って問題がなければ下のフロアに行ってみてもいいかもしれない。
俺はそう思い先に進むことにした。
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪テイマーのレベルが上がりました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「調教術」がレベルアップしました。≫
何度かの戦闘を経験したが今のところ問題なく対応できている。
最大で4匹のモンスターの集団と遭遇したが、俺のバインドとハーメルの攪乱でごまかせている。
このフロアのモンスターはファンタジーで定番のゴブリンやスライム、スケルトンのほかにビーやイーグルといったものも出てきた。
比較的小型のモンスターが多いのはこのフロアの構造のせいだろう。
フロアとの相性は良くないがくる場所を限定されているので、最初に思ったほど苦労はしていない。
これなら下のフロアを覗いていくのもいいかもしれない。
ただ、予想はしていたがエラゼムの移動速度は遅い。
俺を含めたこのパーティーは比較的おっとりしたやつばかりなので苦ではないが、早く進みたい奴には耐えられないだろうな。
それに他の2匹はレベルアップしたのに対してエラゼムだけはしなかった。
おそらくリビングアーマーの能力が高いため(当社比)にレベルアップに必要な経験値が多いのだろう。
俺やハーメルたちがレベルアップしたことでこのフロアでの戦闘はだいぶ楽になった。
戦闘にかかる時間が減ったのでどんどん進んでいく。
曲がりくねってはいるがあまり分かれ道は存在しない。
間違えて行き止まりについてもすぐに引き返せば問題ない。
それにハーメルを先行させているので、俺たちが行き止まりに到着する前に引き返せるのも大きいだろう。
しばらく歩いていると通路より少し大きなエリアがあり、そこに階段の入り口と魔法陣が現れる。
……少し他のフロアの様子でも見てみるか。
俺は従魔を連れて階段を下りていく。




