32.真のプロローグ
俺は人型の前まで歩いていき、問いに答える。
「ああ、受ける」
「承認した。これより図書館の試練を始める」
光の人型が宣言すると同時に、今までの雰囲気をぶち壊すようなベルの音が深夜の図書館に響き渡る。
なっなんだいきなり……。
「これより図書館の小説にまつわるクイズを50問出題する。お手付きは1回までで失敗すると現実世界で1か月たたないと再度受けることはできない。引き返すなら今だけだ」
運営の遊び心とかいうクエスト名だったが完全に悪ふざけだったな。
しかも現実世界で1か月も再チャレンジさせないとは。
おそらく何度も何度もチャレンジして問題を暴きながらのクエストクリアをさせないためなのだろうが、ゲーマーとかなら1回挑戦してやる気が失せるのではないかと思う。
しかし特にこだわりの無い俺は受けてみることにした。
それにここの小説エリアの本は大体読破したからかなりいいところまで行ける自信がある。
俺は人型に答える。
「その試練とやら、受けることにするよ」
それを聞いた人型は頷き手をたたく。
すると俺と人型の間にウインドウが現れる。
「それではこれより試練を開始する。準備は良いな?」
さて、どんな感じの問題が出るのかな。
……………………。
「次の問題 恋愛小説 ショルダータックルウゥゥ の冒頭に主人公がショルダータックルを決めてしまうのは次のうち誰? 1.学園のアイドル 2.学園のマドンナ 3.学院のアイドル 4.学院のマドンナ」
「2だ」
「正解!次の問題、ここにある本の中で……」
今すでに40問以上を答えていてノーミスだ。
このシークレットクエストの為の本以外の本についてもたくさん出てくるので、本当にここの本を読破していないと答えきることはできないだろう。
そしてついに最後の問題になった。
「いよいよ最後の問題だ。ここまでノーミスだから答えなくてもクリアになるがどうする?」
「ここまで来たら最後まで答えて満点をとるよ」
「ずいぶんな自信だな。いいだろう。では最後の問題、ファーストでのんびり暮らし の著者は次のうち誰?1.ヨーネン2.コーナン3.ヨーナン4.コーネン」
それは覚えている。なんたって最初にここで読んだ本だ。
「4のコーネンだ」
俺が答えると
「正解だ。おめでとう全問正解だ。」
人型の言葉と同時に、開始の時と同じような音が聞こえる。
達成感を台無しにする音を聞いてげんなりしていると
「試練は合格だ。この先へ行く権利を与えよう」
人型がそういうと人型の後ろで本棚が動き出し地下へと下る階段が現れる。
「この下に試練を超えたものへの報酬がある。進むといい」
そう言って道を開けてくる。
まだクエストは終わらないようだ。
俺は階段を下っていく。
……………………。
階段を下った先には机があり、その上に何か置いてある。
近づいてみると机の上にあるのは手紙が1通と1冊の本だった。
本も気になるところだがひとまず手紙を手に取って封を開けてみる。
俺は手紙の送り主の名を見て心臓が跳ねるのを感じた。
『 本が大好きなのであろう君へ
ここにたどり着いたという事はここにある小説をすべて読んだという事だと思う。
ここにある本はとてもつたない文章力だったり設定が甘かったりと、ゲーム内とはいえこんな本を置いていることに疑問を持ったことだろう。
しかしそれにはちゃんと理由がある。
そこにある本たちはまだ小説家になる前、もしくは小説家としてデビューしたての人たちが書いたものだ。
ここでNPCの名を借りて小説を書くことで経験を積んでいるんだ。
他にも僕のように財団に助けてもらった小説家や脚本家が書いた本がこの世界のどこかに眠っているはずだ。
僕もここに一冊、本を置いておくことにしたよ。
新しく書いた本じゃなくてね、僕が小説家を志して最初に書き上げた本なんだ。
ここまでたどり着いた君にならこれを読んでもらっても構わないと思っている。
最後に……このゲームは僕の夢を叶えさせてくれた人たちが全力で作ったゲームだ。
小説家がこう言うのもどうかと思うが、読書だけではなくゲームとしても全力で楽しんでくれることを僕は祈っている。
クローレン・オリコット 』
クローレン・オリコットは世界でも有名な小説家だ。
このゲームを作った財団がまだ無名だったクローレンの才能を見出し、出資したのは有名な話だ。
それに俺が読んでいた本たちはNPCが書いたものではなく新人たちが書いたものという事は、クローレンと同じように才能を見出され修行しているところなのだろう。
あの中から有名作家が生まれることもあるかもしれない。
俺は手紙を机に置くとそっと本を持ち上げる。
僕と犬 著者 クローレン・オリコット
俺はこの本を読み始める。
何の変哲もない主人公と1匹の犬とのハートフルコメディだ。
今のクローレンからは想像できないくらいつたない文章で、それでいて才能の片鱗を見せる内容に俺はクエストの事も忘れて読み続ける。
「ふう」
読み終えた俺は一息つく。
確かにクローレンが世に出そうとしなかったのは頷けるくらい未熟な作品だ。
だが、この人の原点というか若いころの情熱が伝わってくる素晴らしい作品だった。
本来門外不出になるはずだったこの作品を公開したのも財団への感謝からくるものだろう。
最後に、この手紙に書かれた作者の願い。
読書家が小説家の願いをこんな形で聞いてしまったら応えないわけにはいかない。
それに、この世界にはまだまだたくさんの本が眠っているらしい。
なら、このゲームを楽しみながら探していこうじゃないか。
≪シークレットクエスト 運営の遊び心(23)をクリアしました。報酬をアイテムボックスに送信しました。お受け取りください。≫
≪運営の遊び心(23)をクリアしました。称号「物語の旅人」を取得しました。≫
≪シークレットクエスト報酬としてスキル「読書」にアーツ「復元」が発現しました。≫
主人公が本当の意味でVRMMOを始めるというような話です。
読書家がVRMMOを始める話を考えた時、こういった話を絶対入れようと考えていました。
それまでの話はほとんど行き当たりばったりでした(笑)
不定期になりますが今後も更新は頑張っていきたいと思っています。




