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249.司書の上位職③

 現実に戻ってきた俺は、さっそく春香に今後の予定を告げる。


「ほほう。つまりゲーム内で2ヶ月の旅路をクリアすれば、オールOKっと言う事だね」


 俺の話を聞いた春香は何かに影響されたのか、芝居がかったようなセリフとポーズで返答してきた。


「ゲーム内で2ヶ月とすると、現実世界だと3ヶ月くらいで見た方が良いか?」

「ん~。それこそお兄ちゃんの進捗次第じゃない? クエスト次第だけど、転移の扉でショートカットする事もできるでしょ」


 確かに行きはクエストをクリアしていかなければならないが、帰りはクエスト次第で転移の扉を使うのもありだ。

 ただ目的の為に姑息な手も辞さないトーザさんが転移の扉を想定していない事があるのだろうか。


「まぁ、3ヶ月くらいで見といていいんじゃない? 遅れるようならまた連絡してくれればいいよ!」

「そうか。一応次のログインで詳細を詰める予定だが、それとなくクランメンバーと山狩さんに連絡を入れておいてくれるか?」

「りょうかーい」


 ……………………。


 次の日。

 ログインした俺は大図書館の一室でトーザさんと打ち合わせをする。

 あの職員は上司と日程を調整しているらしく、席を外していた。


 予想通りというか、トーザさん達の作った予定表では転移を全力で利用している。

 どうやら司書ギルド独自の転移装置があるらしく、一定条件を満たせば利用可能との事。

 詳しく聞くと職員以外の利用には面倒な手続きが必要らしく、そのあたりの作業を現地の職員に押し付ける算段らしい。

 長らく放置されていた塩漬けクエストを受ける事を盾にして、各地にある司書ギルドの職員をこき使うのだと悪い笑みをしていた。


 どの程度面倒なのかは不明だが、一番苦労するのは各地を飛び回る俺ではないだろうか?

 その手続きを引き受けてでも良いと思えるほどのクエストが待ち受けているのだから。

 トーザさんにその辺りを確認してみると、視線を逸らされる。


 ジト目を向け続けると、観念したのか簡潔に説明してくれた。

 今回の予定表に書かれているクエストのいくつかは転職にも貢献度的にも関係ない。

 向こうの交換条件に提示されたものが含まれているとの事。

 徒歩というよりカレルに乗って移動するよりも、それらのクエストを受けてでも転移装置を使った方が早いらしい。


「ウイングさんが頑張ってくださったので、貢献度的にはこの長期遠征クエストさえやれば問題ないと思います。行きは転移できない区間も多いですが、帰りは大幅にショートカットできる想定です。帰りの予定で数日滞在する支部で依頼を受ける事になると思います」


 行きが1ヶ月半、帰り半月。

 行きはともかく、帰りはクエストを達成しては転移を繰り返す弾丸旅である。

 半月のほぼ全てをクエストで消費する計算だ。


 資料には受けるクエストの概要も書かれている。

 長期遠征クエストは情報集系であり、手順通りの調査をすれば良いようだ。

 それ以外のクエストは、主に雑用系のクエストが多い。

 しかも誰でもよい仕事ではなく、一定以上の信頼できる者か貢献度の高い人物に限られるようなクエストばかりという。

 要するにある程度信頼でき、かつ使い勝手の良いプレイヤーが来るので、面倒くさい仕事をまとめて押し付けようということだ。

 ……やはり一番大変なのは俺なのでは?


 他の人が受けたがらないクエストばかり集められると、この帰還時期の予想も怪しい。

 このスケジュールは予定通りに進んで2ヶ月弱という計算になっている。

 今まで通りにログインできたとして、3ヶ月を少し超えるくらいで見ているが、もう少し余裕を持っていた方が良いかもしれない。


 それに既に学校は自由登校だとはいえ、遊び続ける訳にもいかない。

 先日AO入試の結果が返ってきており、合格通知をもらった。

 試験勉強する必要はないが、入学までに終わらせる必要のある手続きや課題がある。

 入学直前に慌ててやるつもりは無いので、少しずつ進める予定だ。

 やはり3ヶ月の猶予では心許ない。

 4ヶ月を超えるくらいで見ていた方が良いだろう。


 俺はトーザさんに断りを入れて直ぐにハルに連絡を入れる。

 ログイン前にハルに話した期日を訂正するためだ。

 この時間ならログインしているはずだし、まだ連絡を入れていない可能性もある。


 大まかなスケジュールを添えたメールをハルに送信した。

 するとすぐにハルから返信が来る。

 ちょうどクランメンバーに話し始めたところだったようで、ギリギリ間に合ったようだ。

 とりあえず、その予定で進むとの事。

 ルリさんにもそのように伝えると付け加えられていた。


 ハルとのやり取りを終えたところで、もう一人の職員が戻ってくる。

 職員の話では、彼の上司は今週中ならいつでも時間を作れるらしい。

 忙しいらしいが、時間の融通はきくそうだ。

 俺は現実世界で次の日の夕方にログインした時の時間を指定する。


 …………………………。


 次の日。

 所用を済ませた俺は夕方ごろにログインする。

 約束の時間には少し余裕があるので、雑貨や食料の補充を行う。

 連日クエストをこなしていたおかげで資金は潤沢だ。

 ノーレッジまでの旅路を思い返しながら、必要そうなもの、あったら便利なものを買っていく。

 しばらく物色していると、そろそろ時間になりそうだったので買い出しを切り上げて大図書館へ向かう。


 大図書館ではトーザさんと男性職員がカウンターのそばでソワソワしているのが見えた。

 男性職員が俺の姿を見つけると、トーザさんと共に俺の方へやってくる。


「まだ時間になっていませんが、私の上司は既に部屋で待っています。早速ですが、このまま会っていただけますか?」

「自分は大丈夫ですが、何か注意する点はありますか?」

「おそらく大丈夫だと思います。転職の意思とウイングさんが持っているカギについて話すだけと聞いております」



 先導される形で、大図書館を進む。

 クエストなどで利用している個室が並んだエリアではなく、さらに奥のエリアへと進んでいく。

 しばらく歩くと、複雑な彫刻が彫られた赤鉄色の扉の前で立ち止まった。

 ……俺はなんとなくトーザさんの方へ視線を向ける。

 トーザさんは落ち着きなく周囲を見渡していた。別に含むところもないのですぐに視線を外す。

 気まずい雰囲気を感じたのかどうかわからないが、微妙な空気を換えるように男性職員が声をかけてきた。



「こちらの部屋で私の上司がお待ちです」


 扉に向き直った男性職員はトーザさんの時のように所属と目的を伝え、扉を開けた。


 

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