248.司書の上位職②
次の日。
早速大図書館へ向かった俺は3人の職員を探した。
小説エリアに女性職員がいたので声をかける。
他の2人を探してもらった結果、最初に声をかけてくれた男性は休みだったようで大図書館にいなかった。
あの男性職員が説明できる内容はもう一人の男性職員でも話せるそうなので、そのまま個室で話し合いをすることにする。
「昨日確認し忘れた事があるのですが、皆さんの上司って会えたりするんですかね?」
「会えますよ。というか、転職の用意が始まった時点で一度面談があります」
女性職員の話では忙しくとも、同業が増えるのなら時間を割いてくれるとの事。
俺はさらに踏み込んだ話をすることにした。
「自分は司書ギルドの上層部の方に質問したい事があります。ちなみにお二方はこの鍵に見覚えはありますか?」
そういって禁書庫の鍵を取り出す。
俺の手のひらにある鍵を見て首をひねる職員2名。
やはり、一般職員はこの鍵についての情報は持っていないようだ。
「この鍵について司書ギルドの中でも、上層部の方なら知っていると聞いたのですが?」
「……少しお待ちください。確認したいことができたので、一度上の者と相談させていただきます」
「えっ。ちょっ。すいません。おそらくそんなに時間はかからないと思いますので、しばらくお待ちください」
そう言って個室を後にする男性職員。
女性職員も慌てて後を追っていく。
取り残される俺。
それから30分か1時間程たった頃、俺がいる個室の扉が開かれる。
入ってきたのは男女の職員とトーザさん。
男性職員は得意げで、女性職員の方が悔し気な表情を浮かべている。
困惑している俺に男性職員が説明を始めた。
どうやら男性職員とトーザさんは同じ班に属しているらしい。
なので、チェーンクエストの件のトラブルについても知っている。
その為、俺が転職に躊躇する理由に気づいた。
逆にいえば、そのデメリットを考慮しても他2つと悩んでくれている。
あと一押しがあれば、こちらに傾くと判断した。
「トーザさんと進めている件と先ほど見せてくれた鍵の件について、便宜を図れると思います。どうでしょう。私の勧める上位職に転職しませんか?」
その言葉を聞いて、トーザさんと女性職員の様子をうかがう。
トーザさんは力強く頷き、女性職員は諦めたように両手を上げた。
「ひとまず詳細を伺いたいのですが?」
その言葉を聞いた男性職員は笑顔を深め、女性は頭を下げて個室を後にした。
俺は男性職員ことトレンさんとトーザさんから詳細を聞く。
賢護区に入るには、あと少し貢献度が足りないらしい。
その為、今回の転職クエストと同時に貢献度の高いクエストを受注して両方達成しようとの事。
大図書館から歩きで遠方に向かうクエストがあり、時間や経費がかかるので誰も受けたがらないクエストを受注する。
この実績を元に賢護区へ入区する権利と鍵の話を知っていると思われる上層部との面会の約束を取り付ける計画だ。
渡りをつける上層部についてはトレンさんの上司に心当たりがあったそうで、俺が旅に出ている間に約束を取り付けてくれるという。
「この計画なら今後の予定が確定するので、ウイングさん的にも協力者を集めやすいんじゃないですか?」
計画の全容を聞いたところでトーザさんがそんな話をする。
もうトーザさんの中ではこの計画で進める事になっているのだろう。
まぁ、俺としても都合の良い計画なので半分以上気持ちは傾いているのだが。
よほどのイレギュラーがない限り、現実世界で2ヶ月後くらいに大図書館に戻る計算だ。
そして、戻った頃にはエピローグクエストの条件もほぼ達成できる。
上層部の知己を作る事もカギについて知っている人物も紹介してもらえる。
チェーンクエストを達成すれば、そのまま達成だろう。
……なんだか感慨深い。
思えばこの鍵を手に入れて1年以上経つのか。
クローレン・オリコットからメッセージを受け取ってから、少し意識を変えつつ旅を続けてきた。
失敗しながらも、なかなか充実した旅路だったと思う。
俺が今までの事を思い返している間に、トーザさんとトレンさんが転職クエスト中にクリアできる通常クエストを精査していた。
偶にこれまで訪れた国々での活動を確認されながら、少しでも早く大図書館に帰ってこれるように知恵を絞る2人の職員を眺める。
自分ごとなのだが、チェーンクエスト関係と知識の国ノーレッジ以外の地域はノーマークだったので大した意見が出せない。
余程の事がない限りプロにお任せだ。
…………………………。
「大体決まりましたね。それでは資料の作成と上司の許可をもらってきます。……おそらくですが、このスケジュールの認可が下り次第、私の上司と面談となると思います」
「わかりました」
そう言ってトランさんは個室を後にした。
残される俺とトーザさん。
「いやー。ようやくあの本に挑戦する事ができますね! 私が考えたスケジュールから少し遅れているとはいえ、かなり早く辿りつけましたね!」
「あのレポートには大分助けられました。イレギュラーなものはともかく普段受注するクエストはかなり参考になりました」
その言葉にトーザさんは大きく頷く。
「当然です! 私の研究が1日でも早く進められるように考えたものですから! ――まぁ、賢護区まではともかく上層部の知己を得る事は考慮されていませんでしたが」
最後の方の言葉は聞かなかった事にしておく。
そういえば、気になる事があったので聞いてみる事にした。
「トレンさんの上司ってゾーナさんですよね?」
「えっ? あ~。先ほどまで話していた上司の事であれば違いますよ。普段の業務を行う班の他に研究内容や職業関係で集まっているグループがあるんですよ。トレンさんの言っている上司はそちらの方かと」
「なるほど」
確かにトーザさんも“読む人で内容が変わる本”の研究の他に、雑務もしていた。
まぁ、詐欺未遂の罰としてやっている場面しか見ていないが、見えないところで通常業務も行っているのだろう。
俺はトーザさんと情報交換をした後、大図書館を後にする。
転職クエストが承認され次第、また連絡するとの事。
1週間以内には、申請が受理されるだろうと言われた。
それまでに物資の買い出しと、レイド戦参加メンバーに今後の予定が決まった事を連絡しておこう。




