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246.エピローグクエストに向けて⑦

 中へ入っていくと、真っすぐ続く廊下に等間隔で扉が並んでいる。

 警戒しつつ、一番手前の扉を開けてみると人ひとりが寝泊まりできそうな小さな部屋があった。


 ベッドに机だけ設置された部屋は、かつて図書館ダンジョンのシークレットクエストで訪れた個室よりも質素だ。

 加えて長い年月放置されているようで、机の上に置いてあった物はどれも風化が進んでいる。


 もし資料があったとしても、果たして読める状態だろうか?

 しかし、ここ以外にヒントがあるような場所が思い当たらない。

 通路の入り口をフローラとハーメルに警戒してもらいつつ、奥の部屋を確認していく。


 突き当りまで行くと、床が湿り気を帯びている事に気づいた。

 俺は奥の方を光魔法で照らす。

 天井辺りに鉄格子のようなものがあり、そこから水気の多い土砂が流れ込んできていた。

 おそらくこの通路は居住区のようなスペースで、あの鉄格子は通気口だったのだろう。

 今は土砂で埋まっているので、空気を取り入れる事は出来なくなっている。


 通気口近くにある最後の部屋を確認したが、結局何も見つからなかった。

 隠し通路を見つけた時は、攻略の糸口を見つけたと思ったが……。


 クエストの注意事項に本を触らない方がいいと書かれているだけある。

 手詰まりの状態で警戒していてもしょうがないので、ハーメルとフローラにも戻ってきてもらう。


「ハーメルは目の前の泥を固めてくれ。エラゼムは固めた泥をどけてほしい」

「チュウ!」

「……」


 残るは通気口から溢れた泥で塞がっている突き当りだけだ。

 どれほど時間が残っているかわからないので、急いで泥を退ける。

 ハーメルとエラゼムに協力してもらって泥を撤去した先にあったのは壁だった。

 仕掛けのようなものは無く、壁を叩いても反響するようなこともない。


「……ん?」


 ここまでかと思ったその時、足元の床に何か傷のようなものを見つけた。

 光魔法を近づけてみると、何かで削って書かれた文字らしい。


“あの炎を消火できれば”


 それだけ書かれていた。

 これがヒントなのだろうとは思う。

 しかし、あの超高温の火球をどうやって消火できるのだろうか。


 ゲーム内の事なので若干違うかもしれないが、消火するためには可燃物、熱、空気(酸素)のうち一つを取り除かなければならない。

 このうち可燃物は取り除くことは不可能だ。


 魔力か他の何かを燃やしているかもしれないが、実体のない物が燃えているのは確認している。

 何が燃焼しているかわからない以上、取り除く術は無い。


 次に熱であるが、これも難しい。

 少なくとも俺たちの持つ手段では熱を奪う事は不可能だ。


 最後に空気であるが、あの炎を密閉空間に閉じ込める必要がある。

 ハーメルの泥では抑え込むことはできなかった。

 あとできる事があるとすれば……。


 考え込んでいると、室温が上昇している事に気が付いた。

 俺は慌てて、ハーメルに遺跡の出入り口を確認してもらう。

 予想より早く帰ってきたハーメルによると、熱すぎて出入り口に近づくことすらできなかったという。

 おそらく出入り口から侵入してくるだろうとの事。


 何が切っ掛けかはわからないが、火球が反転して遺跡に戻ってきたようだ。

 敵意を認識できるかは不明だが、俺達を追ってきた可能性が高い。

 このままならあの螺旋回廊を下ってきて、俺達を焼き払うだろう。

 

 そこまで考えてある事を思いつく。

 これが成功すれば、このクエストをクリアできるかもしれない。

 しかし、それにはある前提条件が必要だった。

 俺は急いで通気口のある場所まで戻る。


「エラゼム! これであの鉄格子壊せ!」

「……!」


 俺はエラゼムに斧を渡す。

 エラゼムは斧を受け取ると、アーツを発動しながら斧をぶん投げた。

 斧が直撃した鉄格子は破壊されないまでも、大きく拉げて床へ落下する。

 それに合わせて、多くの泥も流れ込んできた。


 ある程度泥が流れ込んだあたりで、通気口から仄かに光が差し込んでくる。

思った通りの状況に口角が上がった。

 湿気た泥が入り込んできていたので、この通気口の先はそれほど離れていない地表に繋がっていると思ったのだ。


 通路に流れ込んでいた泥は床を濡らすほど湿っていた。

 地下水が流れ込んでいるなら、遺跡内に水が溜まっていないとおかしい。

 ならば、この水は雪解け水が由来だと思われる。

 火球の熱気で溶けた雪の水を含んだ泥が俺達の戻る前に流れ込んできたのか、既に積もった泥を雪解け水がさらに湿らせたのかは不明だが、ここから地表まではそれほど離れていないと考えたのだ。


 俺はハーメルに指示し、流れ混んできた泥で土台を作った。

 これがあればエラゼムでも通気口を上ることができる。

 準備を終えた俺は、その時を待つことにした。


 待つこと数分か、数十分か。

 いよいよここにいる事が辛くなるほどの熱気が襲ってきた頃合いで移動を開始する。

 エラゼムを先頭に通気口の中を進み地上を目指す。

 出口付近まで来ると、通路側にあったような鉄格子があったので再びエラゼムに吹き飛ばしてもらう。


「全員いるな! ハーメル! 通気口を泥で塞げ! 終わったら待機!」

「チュウ!」


 全員出てきたのを確認したところで、ハーメルに指示を飛ばす。

 そして、ハーメル以外の従魔を引き連れて遺跡の出入り口へと走った。


 遺跡の出入り口は煤けているものの健在であり、周辺には良い感じに湿った泥が広がっている。

 俺は作戦のため、ベルジュのフォローオラズを付け替えた。

 取り付けたのはハーメルの持つ「泥沼術」。


「ベルジュ。泥沼術でありったけの泥を流し込め!」

「うぉん!」


 俺の指示のもと、周辺の泥という泥を遺跡の通路へ流し込んでいく。

 同時に「調教術」のアーツである「精神感応」でハーメルと連絡を取る。


「ハーメル。そちらから火球が出てくる様子は無いな?」

「チュウッ、チュウ」

「泥が乾燥している様子は無いって (≧ω≦)」


 通気口側から火球が出てくる様子はないようだ。

 これも予想通り。

 あの火球は公転するように回りながら、こちらに近づいてきた。

 降っている最中に俺が遺跡の出入り口に移動すれば動けなくなるのではないかと考えたのだ。

 もしかしたら逆転できるかもしれないが、移動速度はそれほど速くないので必要な時間は確保できるだろう。

 

 現在、通気口と出入り口を塞ぐことで遺跡内は密閉状態なはずだ。

 そんな場所に燃え盛る火球が入っていたらどうなるか。

 急速に酸素が消費されて真空に近い状態になれば、鎮火できると考えたのだ。


 しばらく放置していると、背中の方に引っ張られるような感覚を覚える。

 違和感に振り返ろうとした瞬間、この雪原に飛ばされた時のような浮遊感が襲う。

 

 ……………………。


 ダンジョンを脱出した俺は図書館ダンジョンの調査結果を司書ギルドに報告していた。

 雪原の業火ダンジョン? を攻略した事も伝えたら、どのように攻略したかも聞かれたので素直に答える。


「ずいぶん力技で攻略しましたね。あのダンジョンは正規の攻略法があるんですよ」


 その正規の手順を聞いてみたのだが、ギルドからあの本に関する依頼をされない限り教えられないという。


「個人のスキル依存ではありますが攻略をしているのは変らないので、報酬に情報料を上乗せしておきますね」

「ありがとうございます」


 報酬を受け取った俺はダンジョンでの疲れをとるため、一度ログアウトする事にした。


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― 新着の感想 ―
正規の方法でもなくても報酬をくれて尚且つ上乗せするのは融通ガ効いてますねぇ
あ、やっぱり正規の方法じゃないんだ……。
力技判定うけてる⋯ 正攻法が気になります(╹▽╹)
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