238.孵化
マイルームに戻ってきた俺は、さっそく2つの卵を取り出した。
モンスターエッグ「ハチ」 イベント・クエスト等で手に入るモンスターエッグ。
魔力を込めることで孵化する。ハチ系モンスターの卵。
0/800
最初にもらったヌエの卵より少ないMPで孵化できるようだ。
ヌエ、カレルの時は何回かに分けてMPを供給する必要があったが、今や複数の卵を一度に孵化でできるほどのステータスになっている。
俺は2つの卵に触れながら、必要分のMPを充填した。
≪フォレストワスプ ♀(幼虫)のテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
≪フォレストワスプ ♀(幼虫)のテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
ハーメルよりも小さい蜂の幼虫。
とはいっても現実のようにグロテスクさは感じない。
横倒しになった米粒の先端が黒くなっており、つぶらな瞳が2つ付いている。
NAME「」
種族「フォレストワスプ ♀」LV1 種族特性「飛行」「昼行性」「器用貧乏」
HP 30(-20)
MP 40(-20)
筋力 5(-1)
耐久力 1
俊敏力 5(-4)
知力 12
魔法力 4(-3)
スキル
「牙術LV1」「運搬LV1」
状態 「幼虫」
NAME「」
種族「フォレストワスプ ♀」LV1 種族特性「飛行」「昼行性」「器用貧乏」
HP 40(-20)
MP 30(-20)
筋力 4(-2)
耐久力 1
俊敏力 6(-5)
知力 10
魔法力 6(-5)
スキル
「牙術LV1」「運搬LV1」
状態 「幼虫」
ハチ系のモンスターは大まかに分けて3種類に分類できる。
ビーの名を持つ種類は俗にいうミツバチだ。
戦闘力は低いが生産系の種族特性・スキルを持っていることが多く、ハチミツや蜜蝋を作らせると金策や食料の確保ができる。
次にホーネットの名を持つモンスター。こいつらは大型のものが多い。
凶暴で戦闘力の高い種類が多く、戦闘員として人気の種族だ。
そして今回のワスプの名を持つ種類。
ビーより大きくホーネットより小さい。
特段戦闘力が高いわけでもなく、ハチミツを作れる種族特性も持っていない事が多い。
端的にいえば不遇な種族と言われている。
ただし覚えられるスキルは多いらしく、発見されている進化先も他の2種類より多い。
とはいえ体の構造や特性上、覚えられるスキルはある程度制限されるので、テイマーが進化先を増やすためにはスクロールなどの外的要因が必要である。
……後からスキルを付与できるオラズ・テイマー向きのモンスターかもしれない。
それをふまえて孵化した2匹のステータスを確認する。
ハチ型モンスターとして『飛行』と『昼行性』、ワスプ系統の説明通りスキルの覚える幅が広くなる『器用貧乏』を持っている。
初めて見る特性である『昼行性』は明るい場所では敏捷力にバフがかかり、暗い場所ではデバフがかかる種族特性だ。
元々の敏捷力が高いほど、効果が大きくなるので俊敏力を鍛えるなら昼間専用の従魔と見た方がいい。
ステータスは知力が高く、耐久力が低い。そして、他のステータスは平均的に割り振られている。
通常モンスターは尖ったステータスの方が活躍できるので、もう少し極端な割り振りでもよかったがLV1から育てるなら誤差だろう。
スキルは『牙術』と『運搬』の2つ。
『運搬』はカレルも持っているスキルで、物を運ぶ時に補正が付く。『牙術』は文字通り牙で攻撃するスキルだ。
どちらも先輩従魔達が持っているスキルなので、新たなフォロー・オラズは種族特性の『昼行性』くらいだろう。
ハチ系モンスターには先ほどの3種以外にも、女王バチや雄バチ、働きバチの区分があり、ステータスやスキルに違いがある。
ただ90%以上は働きバチらしく、この2匹も特質するようなステータスではないことから働きバチなのだろう。
「かち……かち……」
「……カチ」
ステータスを確認しているとテーブルの上から微かに物音が聞こえた。
視線を向けると、生まれたばかりのフォレストワスプたちが俺を見上げている。
シラノ達のように名前を要求しているのかと思ったが、どうも不安げというか居心地が悪そうだ。
「明るい。広い。不安? だって(。´・ω・)?」
「……あっ」
俺は食器棚の一番下の扉を開け、空いているスペースに2つの空き箱を横倒しで設置する。
テーブルの上にいる2匹をそっと持ち上げて、先ほど設置した箱の中にそれぞれ置く。
すると、2匹は安心したようにゴロゴロし始めた。
見た目ままハチノコである2匹は、ハチの巣のような狭いスペースにいる方が安心できるのだろう。
NAME「マリア」
種族「フォレストワスプ ♀」LV1 種族特性「飛行」「昼行性」「器用貧乏」
NAME「フローラ」
種族「フォレストワスプ ♀」LV1 種族特性「飛行」「昼行性」「器用貧乏」
2匹にソーセージを与えながら、それぞれの名前を決める。
改めて蜂を題材にした小説や物語を思い返すと、女王バチや雄のハチより働きバチの主人公が多いように思う。
今回の2匹は働きバチだと思われるので、わかりやすく働きバチが主人公の物語から名前をもらった。
ソーセージに夢中な2匹の孵化まで待つ間に、大図書館へ顔を出すことにする。
『お気楽』のクランルームでそれなりに時間を使っていたので、読書を楽しむのは難しいかもしれないが、昇格試験の日程を確認できるかもしれない。
日程が分からなくても簡単なクエストくらいは達成できるはずだ。
大図書館のカウンターへ向かい、トーザさんを呼び出してもらう。
数分待った後、幽鬼のように草臥れたトーザさんがやってきた。
「あの……。大丈夫ですか?」
「い、いやー。大丈夫じゃないかもしれません」
未だ罰が続いているのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
トーザさんの話では、俺の昇格試験を早めに行えるよう働きかけていたところ、問題が発生したらしい。
どうやら、大図書館の管理をしている上層部の1人が俺に興味を持ったらしく、俺の試験の試験官をしたいという話が出てきた。
トーザさんは慌てて止めに入ったようだが、早めに試験ができるのだからいいだろうと押し切られたそうだ。
どんな試験になるか完全にわからなくなった事に加え、上層部との打ち合わせを繰り返す必要が出てきたため、精神的に疲弊しているそうだ。
試験を受ける俺以上にプレッシャーを感じているらしい。
「なんとか⁉ なんとか、合格してください。ここまで頑張ってきてAランク試験不合格でお預けだけは! どうか。どうか!」
「……」
俺はトーザさんの懇願に苦笑いを浮かべる事しかできなかった。




