235.坑道ダンジョン②
坑道ダンジョンの入り口を抜けると、すぐに視界が開けた。
今まで降りてきた坑道の深さを考えると、明らかに高すぎる天井と広すぎるフロア。
岩石でできた壁には何か埋まっている様子はなく、一面焦げ茶色が広がっていた。
入口の反対側の壁には、ゆっくり下るような大きな通路が続いている。
このエリアには複数のパーティーがおり、モンスターが沸いたそばから駆逐されていた。
ちらりと見えた限りでは、俺より一回り小さいほどのゴーレムや蛇は確認できた。
戦闘していたパーティーは周囲を確認し、モンスターの出現を確認するとそちらへ移動する。
他のパーティーも似たようなもので、過剰戦力と言えるメンバーでモンスターを蹂躙していた。
ユグドラシルに行くためのクエストかほしい素材があるのか、ドヴェルグ連邦国周辺の事情に疎いので判断はできない。
どちらにしろ、このフロアでは1匹残らず駆逐されているので、俺たちが戦闘するのは難しい。
他のパーティーの邪魔にならないように、反対側にある下り坂へ向かう。
下り坂を進むと先ほど抜けたフロアと同じような場所にたどり着いた。
違う点としては、反対側にある下り坂が2つ存在している事だろう。
しかし、ここでも他のパーティーが戦闘を繰り広げており、俺たちが割り込む余地はなさそうだ。
俺たちは黙って左の下り坂へ足を向ける。
……………………。
その後も広いフロアにいるパーティーの数を確認しては、下っていくを繰り返す。
このダンジョンの構造はまさにアリの巣のようになっており、大きなフロアを通路が繋いでいるような構造をしている。
基本的には広いフロアでモンスターが湧く。通路でも出てくるが1匹から2匹程度、プレイヤーが通過する度に駆逐されるので、いないも同然である。
しばらく下っていくと、ようやく1パーティーしかいないフロアにたどり着いた。
見渡したところプレイヤーは5人。
従魔らしきモンスターもいないので、1人足りない。
プレイヤー達の様子を確認すると、全体としてどんよりしている。
少々声を掛けづらいが、確認せずに戦闘を始めるとトラブルになりかねない。
俺は遠慮がちに声を掛ける。
「……あの、ここで戦闘しても大丈夫でしょうか?」
「うん? あぁ、かまわない! というか、もう離脱するから好きにしてくれ!」
「わかりました」
多少乱暴な物言いだったものの、中心人物と思われるプレイヤーから許可が出た。
どうやら仲間の1人がやられたので、帰還するところのようだ。
このダンジョンはCランクであり、そこまで強いモンスターが出現するとは聞いていないが自分も気を引き締める必要があるかもしれない。
出ていくパーティーを視界の端に捉えつつ、従魔達に戦闘準備を指示する。
先ほどまでモンスターを駆逐していた人手がいなくなったためか、最初に確認した時よりモンスターの密集度が上がったように感じる。
モンスターはゴーレム系、虫系、爬虫類系が多い。後はチラホラ霊障モンスターも確認できた。
とりあえず、近場のモンスターから相手しよう。
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「指揮」がレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュの練度が一定に達したため、スキル「爪術」がレベルアップしました。≫
≪従魔ジェイミーがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「光魔法」がレベルアップしました。≫
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戦闘を始めてしばらくして、あのパーティーが失敗した理由が分かった。
基本的には近くのモンスターと戦闘することになるのだが、空中を漂う霊障モンスターからかなりの頻度でデバフが飛んでくるのだ。
1つ1つはそこまで効果は高くないが、長時間戦闘を続けると無視できない影響が出てくるだろう。
もしくは1人に集中してデバフを受けると、一気に追いつめられるかもしれない。
先ほどのパーティーもそのような形でパーティーメンバーがやられたと思われる。
俺は種族スキルである「使徒化」を発動する事にした。
「使徒化」は闇魔法をはじめとする一部のスキル、種族特性を無効化したり、弱体化する。
これは味方だけでなく敵のモンスターにも適用される。
従魔達が俺の周りで戦闘している限り、デバフ系のスキルが弱体化するうえ霊障モンスターが近づかなくなるのだ。
俺が「使徒化」を発動してからはとてもスムーズに戦闘が進むようになった。
元々、Bランクに挑むようなメンバーで来ているので戦力過剰であるうえに、このダンジョンで一番苦戦するポイントを潰しているので当然である。
問題があるとすれば「使徒化」中は継続的に俺のMPが減っていくので、MPの残量がそのままタイムリミットであることだ。
≪熟練度が一定に達したため、スキル「遠見」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪習得度が一定に達したため、スキル「耐呪」を習得しました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「魔力上昇」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「MP回復速度上昇」がレベルアップしました。≫
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「一旦、戦闘を終了! 通路まで戻ってドロップ品の確認をする!」
俺のMPが1割を切ったところで、一度戦闘を切り上げる。
時間的には2時間超えたくらいだろうか。
「使徒化」を使用した長期戦闘は初めてだったが、長いとみるか短いとみるか……。
今のところ不都合は発生していないが、今後足枷になりそうなクエストがある。
チェーンクエストの最後、レイドボス戦だ。
誰に協力を仰ぐかは未定だが、最初のイベントで経験したレイド戦を考えるに2時間で終わる事はないだろう。
……先に協力してくれそうなプレイヤーに相談した方がいいかもしれない。
とりあえずハルあたりに相談するとして、今はドロップ品の確認だ。
「……うわ」
ドロップ品はモンスター由来の素材の他に、宝石や装飾品がいくつかあった。
その全てが装備するとデバフがついたり、不利になるスキルを付与するものばかりだ。
一部のマニアやコレクター、もしくはクエスト等で必要でなければいらないものばかりだろう。
不利なスキルを付与する物に関しては、従魔の進化先を増やすのに取っておくとして他は売却だな。
ドロップ品を確認した俺は従魔達の様子を確認する。
先ほどまでは久しぶりの戦闘を楽しんでいたため、シラノを筆頭に張り切っていた従魔達も休憩を挟んだことで幾分かクールダウンしたようだ。
とりあえず、リフレッシュという目的は果たせただろうか。
ログイン時間は残っているので、この後どうするかを従魔に聞いてみる事にした。
「今回はMPが足りないから、さっき程のサポートはできないけどもう一回やるか?」
「チュウ」
「やる(/・ω・)/」
「キュー」
「ウォン!」
「くーん!」
多少テンションに差はあれど、まだまだやる気はあるようだ。
俺は苦笑しながら立ち上がると、もう一回フロアへ向かうことにした。




