232.クランクエスト
「あの。昨日の今日なんですが?」
「そうだな。けど、来てくれたって事はOKって事だろう?」
次の日、なんとカイトさんから連絡がきた。
なんでも司書ギルドの貢献度を大幅に稼げるクエストに参加しないかとのこと。
大人数で受ける必要があるので、クランメンバーではないプレイヤーにも声をかけたという。
そのおかげか、約50人ほど集まったらしい。
「クエスト内容はずばり大図書館の備品整理だ。それも一般人が入れる区画の全部屋に設置、保管されているもの全てが対象だ!」
「……人数足りませんよね?」
大図書館の一般区といえば、建物の7割に及ぶ。仮に職員が使うエリアを省いたとしても5割から6割ほどは点検しなければならないはずだ。
備品整理がどこまでの事を指しているかわからないが、50人では焼け石に水だと思う。
「もちろんそんな事はわかっている。というか、このクエストは継続的にクランで受けているクエストなんだ」
「継続的にですか?」
なんでもクランができてからずっと継続的に受けているクエストらしい。
クラン単位でしか受けられないクエストである代わりに、貢献度や優遇処置が多いそうだ。
しかし、あまりにもクエストの対象範囲が大きすぎるため、クランメンバーだけでは難しい。
そこで司書ギルドに所属しているプレイヤーに協力要請をしているそうだ。
「クエストが達成されれば、外部協力者にも貢献度が加算される。それもクランメンバーよりも色を付けられるんだ。まぁ、クランメンバーが受けている優遇処置は受けれないんだけどな」
「ちなみにその優遇処置とは?」
「まぁ、一時的に部屋を貸し切りにできたり、上層部に話を通しやすくなったりみたいな感じかな」
貸し切りはともかく、上層部と話ができる権利は大きい。
司書ギルド系のエピローグクエストに大きく影響しそうな内容だ。
上層部に話を通しやすくと言っているので、どこまで有効な権利なのか疑問は残るが……。
「貢献度については少しでも参加してもらえれば、全部達成した時と同じだけの貢献度が付与されるからな。新たに知り合った司書プレイヤーは一度は声をかけているんだ」
「それはうれしい限りですが、終わりそうなんですか?」
俺の発言カイトさんは少し考えるそぶりをした後、こちらに向き直る。
「一応8割ほどは終わっているから、終わりは見えてるんだ。ただ参加人数はまちまちだし、昨日みたいに個人のクエストを手伝ったりもしてるからな。いつ完了するかと言われると難しい」
一応、カイトさんの予測としてはゲーム世界で3ヶ月後に達成するはずだという。
俺はカイトさんに断りを入れてからトーザさんのレポートを確認する。
レポートに書いてある攻略チャートでは、チェーンクエスト達成に最低4か月。遅くとも半年には達成できる計算だ。
ただし、チェーンクエストに全力を注ぐ事を前提にしているので、俺としては早くとも半年、遅くて1年くらいを考えている。
この予定ならチェーンクエストが達成されると同時にエピローグクエストの条件も達成されるはずだ。
元の予定では受ける意味がなさそうだが、俺の予定では丁度いいタイミングだろう。
俺がカイトさんに参加する旨を伝えると、嬉しそうに作業スペースへ案内される。
そこには、積み上げられた木箱とその真ん中に紙束を積み上げられた机。
司書ギルドがらみのクエストでは定番と言える光景に既視感を覚えていると、カイトさんが作業内容について説明してくれた。
この部屋に置いてある備品と帳簿の内容があっているか確認する。
また、数があっていても消耗が激しい物品があったら別に避けて、別途記録を取っておくようにとのこと。
その帳簿と記録用の道具は机の上に置いてあるので、それを利用する。
分別が終わった箱は定期的にクランメンバーかギルド職員が取りに来るので、分別だけしてもらえれば良いそうだ。
1回分のログイン時間参加していれば、外部協力者扱いになるらしい。
一通り説明を終えたカイトさんは他の参加者の確認に向かうとの事で、俺を置いて部屋を出ていった。
俺はひとまず机に向かい、帳簿を確認する。
この部屋に置いてある備品は、バインダーのみだった。
一応、使用用途ごとに区分があるらしい。
それを見て改めて部屋の中を見渡す。
天井に迫る箱の四方八方に並んでいる。これ全部がバインダーか……。
カイトさん達がいつからこのクエストを受けているかわからないが、新たに来た職業司書のプレイヤーを勧誘ないし協力要請している理由もわかる。
大図書館でのクラン用クエストはこういった雑用、それもマンパワーを必要とするものが多いのだろう。
こういった作業が好きな人はいいだろうが、こんなことをするためにゲームをしてるんじゃないと思うプレイヤーも多いはずだ。
だからカイトさんもクエストクリアの時期を明言できなかったのだと思う。
……アールヴ皇国での辞典作成もそうだが、国家規模のクエストは一筋縄ではいかないな。
俺は気合を入れて作業に取り掛かる。
…………………………。
「おやおや、ウイングさん。珍しいところで会いましたね」
いくつかの箱を確認し、傷んだバインダーをより分けているとトーザさんに班長と言われていた職員が台車を押してやってきた。
「あっ。えーっと……」
「あー。そういえば名乗っていませんでしたね。私の名はゾーナといいます。まぁ、皆には班長と呼ばれていますので、そちらで呼んでいただけると」
「……では、班長さんと」
挨拶もそこそこに、俺がより分け終わった箱を確認して回るゾーナさん改め班長さん。
俺が確認していた台帳と見比べて、問題なさそうな箱から台車に載せていく。
3段くらい載せたところで、箱を紐で固定する。
あとは持っていくだけといったところで、班長さんは俺に話しかけてきた。
「ここにいるということはクランに入った……いえ、協力者になったようですね」
「そうですね。昨日声を掛けられまして、貢献度を稼ぐために……」
話している途中で司書ギルドの職員に貢献度の話をするのもどうかと思い、だんだん声が小さくなる。
その様子を見て班長さんは微笑みながら、言葉を発する。
「気にしないでください。確かにトーザの作った資料にこのクエストはありませんが、効率的に貢献度を稼げるのは事実です。あれが資料の体をとった指示書になっていた方が問題ですから」
「そ、そうですか。そのトーザさんはどうしていますか?」
俺の質問に眉を顰める。
「あれから今に至るまで資料作成とクエスト発注の違いについて再教育中です。本人もわかっているとは思いますが、それでもあのような事をしてしまったのだから、みっちりやり直してもらう予定です。このクエストも本来はあの子が監督するはずでしたが、私が代役をしています。もちろん、あなたが気にする必要はありません」
班長さんはとてもいい笑顔でそう語った。




