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229.大図書館にて

 簡単な条件とは言えないが、知識の国に滞在していれば達成できそうな内容だ。

 トーザさんの話では、賢護区に入ること自体はそこまで難しくない。


 知識の国の上層部と知己になるという条件は、おそらくその次にある“禁書庫の鍵”を知る人物と接触するために必要なのだと思われる。

 上層部の人物に“禁書庫の鍵”を知る人物を紹介してもらえるのか、上層部内で“禁書庫の鍵”の情報を秘匿しているのか……。

 どのような理由にせよ、条件に組み込まれている以上、上層部をスルーして“禁書庫の鍵”についての話を聞いても禁書庫にはたどり着けないようになっているのだろう。


 レイドクエストについては発生済み。後は攻略するのみである。

 最後の条件は他の条件を満たしていけば、そのまま達成されそうだ。

 オラズ・テイマーのエピローグクエストもそうだが、最後の条件は達成項目というよりは最後の手順の意味合いが強いのだろう。


 よってこれからの予定としてはこれまでと変わらず、読書をしつつ司書ギルドのクエストを受ける。

 ギルドの信頼を得て、賢護区にある“読む人で内容が変わる本”を読む。……今回はレイドクエストの達成か。

 

 加えて称号エピローグの達成と知識の国で拠点を手に入れる。

 特に拠点を手に入れるのは必須事項だ。

 ゲームとして楽しむのも大事だが、元々このゲームを始めた目的は心置きなく読書をする為なのだから。


 いつでも戻ってこられるように知識の国で拠点を手に入れなければならない。

 本を保管する場所は確保してあるので、最悪転移するスペースがあればいいのだ。

 トーザさんの態度から見てそれすら難しいようだが、意地でも達成する。


 とはいえ、すぐにできる事はほとんど無い。

 トーザさんが作成した資料を読むのも良いが、ようやく知識の国に辿り着いたのだ。

 大図書館を利用してみる事にしよう。


 ……………………。


 大図書館を利用してみた感想としては、ただただ蔵書の多さに圧倒されたといえる。

 基本的には今までゲーム内で利用してきた図書館と同じだ。

 しかし、蔵書が多いゆえに目的の本ないし情報を探すのは大変な重労働だろう。

 小説や図鑑など大まかな分類の区画へ向かうのは難しくないが、区画1つ1つが各国最大の図書館がかわいく見える程の大きさがあるのだ。

 そのうえ、同じ内容・タイトルの本でも転写や修復の過程で少しでも内容が変化していた場合、別の本として保管されている。


 例えば、薬草図鑑では研究が進むにつれて記載される種類が増えたり、新たな用途が追記されたものが新たに出版される。

 普通の図書館なら最新の図鑑だけ閲覧できる事が多いのだが、この大図書館では年代順・内容を考慮などして全て本が収められているのだ。


 基本的には最新の書籍を読めば問題ないだろうが、めったに使わない情報などは省略されている場合もある。

 そのような情報を一人で探すなら、その全てを虱潰しに探さなければならない。

 正直現実的ではないだろう。


 なので、必要な情報ないし本がある場合は最初のホールにいる職員に相談するのが基本だ。

 専門的な情報が必要ならトーザさんのようなその分野を研究している人物を紹介され、話を聞く事も可能である。


 今回は特に情報収集が目的ではないので、当てもなく小説が保管されているエリアへ向かった。

 この小説エリアはこの大図書館で最大の大きさを誇る区画だ。

 

 小説エリアはジャンル別ではなく作者別に整理されている。

 かつてはジャンル別の整理をするべきだという議論もあったらしい。

 しかし、ジャンルを定義する事が出来ず、見送られたという。


 なんでも作者の思惑と読者が受ける印象が違う物語をどう位置付けるかで大論争があったそうだ。

 他にもいくつかのジャンルを内包した小説を何処におくのか、同じ作者でもジャンルが違うものはかえって探しづらくなる等、様々な問題が噴出した。

 最終的に“確実に定義されている範囲で整理しよう”という結論に落ち着いたらしい。


 俺は区画の入り口からざっくりタイトルを確認した。



『作者 ア 』

 あいあれど 〇〇〇年 写本(写本②)

 あいあれど 〇〇〇年 〇〇〇年重版 写本(原本より)

 アイあれど 〇〇〇年 〇〇〇年挿絵追加 『絵 オベラーゼ(推定)』 


『作者 アイ・アンテ』

 最先端科学妄想 〇〇〇〇年 写本(写本③)

 最古魔術妄想 〇〇〇〇年 写本(原本より)

 古今魔科妄想  〇〇〇〇年 写本(原本より)



 本棚には仕切りが設置されており、飛び出ている部分に作者名が書かれている。

 なんとなく古本屋で並べられている古書を想像してしまった。

 

 基本的には写本が並ぶ。写本が多いのは、原本を貸し出して破損すると大問題になるからだろう。

 そしてなんの表記もないものは、原本と思われる。

 原本で置かれている物は、写本にする必要のないほど出回っている本だ。

 コピー機の無さそうなこの世界で、どのように出版しているかは興味深いところである。

 


『作者 イータ』

 アバンデント旅行記 〇〇〇〇年 

 ん~まいグルメ旅  〇〇〇〇年 

 ん~まいグルメ旅  〇〇〇〇年 イニシリー王国第一図書館 写本(写本①)



 タイトルを確認しているだけでも楽しいが、そろそろ何か読もうかと思った頃。

 なんとも懐かしい小説を見つけた。

 イニシリー王国始まりの町。あのクローレン・オルコットからメッセージを受け取る事になったシークレットクエスト。

 そこで現実の新人作家が書いている小説がキーアイテムとなっていたが、その中の一つが目に付いた。


 あのクエストで使われた『ん~まいグルメ旅』だが、原本と写本の両方が本棚に収められていた。

 しかも、ご丁寧に“イニシリー王国第一図書館 写本”と表記されている。

 手に取り最後のページを確認すると、確かにあのシミのような文字が書かれていた。

 逆に原本の方には、シミのような文字のページが無い。

 

 あそこの職員はシミのページを無くす事は出来ないと言っていたが、模写できないとは言っていなかったな。

 ……司書ギルドの総本山である大図書館の職員がこのページを知って何も調査しなかったのだろうか?

 

 個人が誤魔化す事は難しいはずだ。

 司書ギルドの上層部が握りつぶした?

 握りつぶさないまでも、このシミを含めてアバンデントの共通語以外の言語を忌避していたように思う。

 その割にアールヴ皇国では、エルフ語の解析には許可が下りたが……。

 知識の国ノーレッジで活動していけば、その辺りの事情も分かるのだろうか。


 考察はさておき、今日読む本は決まった。

 『ん~まいグルメ旅』を書いた著者はクエスト用の小説以外にもう一冊書いているらしい。

 タイトルはシンプルに『アバンデント旅行記』。

 今回はこれを読むことにしよう。

 俺は『アバンデント旅行記』を手に取り、テーブルのあるフロアへ引き返した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何かフラグ建った気がする(´゜д゜`)
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