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227.この本の由来?

 視界が暗転する。

 また場面が切り替わるのかと思いきや、視界が暗闇に包まれたまま声が聞こえてきた。


“それは己の正体を自覚した。”

“それは己が己では無い事を自覚した。”

“それは己の願いが叶わない事を自覚した。”

“その願いすら間違いである事を自覚した。”


 男性とも女性とも言えない声は、なおも語り続ける。


“己が不完全である事はわかっている。”

“己が戻る事が出来ないのもわかっている。”

“戻れぬならば、己の存在意義はない。”

“それは己を終わらせる事を考えた。”


 ……何かが見ている。

 どこからどのように見られているかはわからない。

 だが、視線というか気配のようなものを感じる。

 これは転生クエストで創造神インフに会った時の感覚に近い。

 しかし、存在感はこちらの方が弱いと思う。


“お前は終わらせられるか。”

“お前は戦えるか。”

“お前が戦える場所を用意しよう。”

“お前の物語を終わらせろ。”



 そこまで聞き終わると、いつの間にか図書館ダンジョンの中へ戻ってきていた。



≪条件を満たしたことにより知識の国のワールドクエストの情報が開示されました。

ログにワールドクエストの情報が追加されます。≫

≪条件を満たしたことにより、称号エピローグの条件及び報酬を開示します。

 エピローグクエストの内容はログより閲覧する事が出来ます。≫

≪ログにエピローグの項目が追加されました。≫



 戻ってくると同時に怒涛のアナウンスが襲った。

 アナウンスの内容も気になるところだが、確認しておかなければならない事がある。

 俺は慌てて図書館ダンジョンを脱出した。



 ……………………。



「あれはどういう事ですか!」

「ウイングさん。図書館ではお静かにお願いします」


 トーザさんは俺が飛び込んでくるのがわかっていたかのように、冷静に返答した。

 その言葉に逸る気持ちを抑えるように深呼吸する。

 俺が落ち着いてきたと判断したトーザさんに案内される形で個室へと移動した。


「ウイングさんが聞きたい事は大体わかります。質問は多々あると思いますが、ひとまず私の説明をお聞きください」

「……わかりました」


 トーザさんが言うにはこの4冊目の『読む人で内容が変わる本』で見たダンジョンの生成は、あの図書館ダンジョンで間違いないそうだ。

 なので、それまでに見た映像も事実に基づいていると予想される。

 

 『読む人で内容が変わる本』の原本が3冊。

 館長の目録に記録されていた事で、4冊目としてカウントされた目録

 そして、大図書館に保管されている『まとめ』の役割がある5冊目。

 その大図書館に保管されている1冊は、あの危険な魔導書である可能性が高いそうだ。


 どう考えても気軽に読み進めて良い代物ではない。

 危険図書として保管されているのも納得だ。

 なんなら図書館ダンジョン発生の根本原因の可能性があるので、管理が甘いまである。

 しかし、トーザさんは問題ないという。

 

「話されている、記されている言語は共通語になっていますが、舞台となった街や地域、組織には記録に無いものが多いです。なのに図書館ダンジョンの誕生が描写されていることから、原本は別の世界の物で図書館ダンジョンの生成と共に、この世界に適合したのではないかと推察されています。そして……」


 最後のメッセージから、あの魔導書には強大な存在の一部ないし分け御霊が封じられていたと考えられる。

 それには意思があり、本体に戻りたがっていた。

 だが、他の世界に流れ着いた事でその望みは叶わなくなる。

 どうしようもなくなったそれは、己の消滅を願っているのではないか。

 それが『読む人で内容が変わる本』の本質だと思われる。


「最後の語りでもそれが終わりを望んでいると言っています。そこへ導くために用意されたのがこの形式だったのではないかと思われます」


 トーザさんは俺に『選択の栞』を確認してみるように促す。

 俺は言われるままに選択の栞を取り出した。

 栞はどす黒く変色しており、表記も見たことのない言語に代わっている。

 その文字に『言語』スキルが反応して、『序?』『破?』『急?』『転?』と書いてあるように見えた。


「序破急転結と読めましたか? いえ、まだ結はありませんね。そんな5幕構成あるわけないと思うかもしれませんが、その状態で間違いありません。どういうわけか読めなくても意味は分かるそうですよ」


 この状態の栞をこの大図書館にある最後の1冊に挟むと、別の空間へ飛ばされる。

 そこで封じられた存在の“残滓”と戦う事になるという。

 数度実験が行われた結果、レイド登録をしておけば協力者も参加できるようになるそうだ。


「起こしてきた事象を考えると戦闘する相手が弱すぎるので、本が変質した時に封じられていた存在も変質ないし消滅してしまったと思われます。そもそもそれだけの力が残っていれば、その魔導書だけでダンジョンが発生していたでしょうから。幾度戦闘を繰り返しても強くならず、戦闘する事で魔力を蓄積するどころか減衰すら起こりません。そのため、戦闘する相手を“残滓”と呼称しています」


 そこで少し、溜めてから。


「以上の事からこの本はあの魔導書に宿っていた存在の最後の願いである“終わり”を再現しようとするものだが、それが叶えられる事はない。様々な人物が物語を紡ぎ、その終わりを体験し続ける事に終始するものと言えます」


 説明は終わりとばかりに、前に見たスケジュールの資料を出そうとするトーザさんを制止し、気になる点を聞いてみる事にした。


「今の説明は楽観的な憶測が多分に含まれていたと思うのですが、専門家としてどのように考えているのですか?」


 俺の質問を聞いたトーザさんは、目に見えてテンションを落とす。


「話した内容自体に嘘はありません。実際有力な説の一つです。ですが、全ての結末が集まった時に何が起こるかは不明です。図書館ダンジョンの件が判明してからのサンプルが少なすぎるのです!」


 ようは新情報に対応が追い付いていないのか。トーザさんの説明も、暫定的な内容なのかもしてない。

 ただ確定している事もあるそうだ。

 例えば同じ場所に4冊を保管する事が出来ない。近い距離に置いておくと、どこかへランダムに転移するそうだ。今置いてある各図書館の距離が限界だという。


「この性質と終わりたいという願望を結びつけるなら、挑戦者のやる気や戦闘力を試しているのではと言われています」


 冷やかしお断りという事だろうか?


「館長の目録をもう一度読む事で4冊目が読めるギミックも、戦闘力を見るという意思が働いている根拠となっていますね」


 その存在としてはわかりづらいギミックに意味があったのではなく、戦闘力を証明する事で初めて挑戦権を与える形だったといえる。

 ……早く倒してほしいはずなのに相手を選ぶとは、なんとも面倒臭い存在だ。


「危険があるのかどうかもあのシリーズを読み進めて、情報を集めるしかありません。なのに万が一の事態に備えて、このシリーズを危険図書のフロアで保管する事になりました。……危険図書の閲覧を勧める事は禁止されているので、挑戦者がいなくなりましたね」


 その言葉には何といえぬ悲哀が詰まっていた。

 と思ったら今度は声高らかに演説を始める。


「しかし! この度ウイングさんがここまで攻略していただいたおかげでまた新たな1ページを刻むことができる。あぁ、もしかしたら私が生きている間に立ち会えないんじゃないかとさえ思っていました! そこにプレイヤー様という劇薬が投下されました。危険に疎い……使命の為に果敢に挑んでいく彼らは我々の贄……救世主! さぁ、早く『まとめ』が読めるように私が手取り足取りっ」


 トーザさんの演説はそこから続かなかった。


「図書館では静かにしなさい」


 そういって初老の女性が俺たちのいる個室に入ってきた。


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― 新着の感想 ―
こいつ贄言うたぞ
プレイヤーという劇薬…危険に疎い…我々の贄(いけにえ)… トーザ、ちょっとは言葉を選べ(笑) こいつのジョブって、狂司書じゃないのかな?
[良い点] まあね、ゲームの住人がプレイヤーを認識するタイプの世界なら、そういう扱いになるよね。
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