225.図書館ダンジョン・リターン
トーザさんとの話し合いを終え、大図書館を後にする。
自分の研究がかかっているからか、快く引き受けてくれた。
スペースを確保する事も含めて、おすすめのクエストもまとめてくれるらしい。
……利害の一致があったとはいえ、ここまで協力してくれると申し訳ない気持ちも出てくる。
無理ない程度に急ぐことにしよう。
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムの練度が一定に達したため、スキル「刀術」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪従魔シラノの習得度が一定に達したため、スキル「臭覚」を習得しました。≫
≪従魔ベルジュの習得度が一定に達したため、スキル「嗅覚」を習得しました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「火魔法」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「暗黒魔法」がレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
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現在、俺は図書館ダンジョンに戻ってきている。
理由はチェーンクエストの本を探すためだ。
イニシリー王国で手に入れた“読む人で内容が変わる本”の資料では、5冊あるとなっている。
そして大図書館に保管されている1冊は最後に読まなければならない。
しかし、現在までに俺が読んだ本は3冊。
1冊足りない。
では、どこにあるのかという話になる。
その答えがここ図書館ダンジョンだ。
ただ、その本を4冊目というには少し語弊がある。
厳密にいうのであれば、4冊目“という扱いになった”本がこの図書館ダンジョンに取り込まれたのだ。
これについてはかなり最近判明したらしい。
とはいえ、プレイヤーが登場する前の話という事だが……。
それでも知識の国の歴史の中ではごく最近だ。
発見が遅れた原因は盲点というか、事前に条件を知らなければスルーしてしまうような条件だ。
しかも、1度失敗すると2度と挑戦できなくなってしまう。
その条件とはズバリ“館長の目録をもう一度見つける”である。
この図書館ダンジョンの攻略の為に探した本をもう一度探し出す必要があるのだ。
しかも、かなり意地の悪い仕様となっている。
そもそも“読む人で内容が変わる本”のシリーズは4冊しかなかった。
『序』『破』『急』で物語が完結し、『まとめ』となる最後の本にその人が選んだストーリーが記録される。
そして、歩んだストーリーによってクエストの栞に効果が付与され、装備品になったり、便利アイテムになったりする。……普通であれば。
しかし、そこへ変化をもたらす存在が生まれた。それが図書館ダンジョンの“館長の目録”だ。
裏口の鍵を手に入れる為のボス戦でもわかるように、目録には記録された危険図書を再現する効果がダンジョンのギミックとして付与されている。
そして、ここの館長だった人物は“読む人で内容が変わる本”を読んでいた。
当然目録には、“読む人で内容が変わる本”が記録されている。
“館長の目録”がダンジョンのギミックとして“読む人で内容が変わる本”を再現する事で、ありえないはずの4冊目として機能することになったのだ。
しかし、このギミックを機能させるにはいくつかの制約がある。
まず、図書館ダンジョンを1度攻略する事。
館長の目録は図書館ダンジョンのギミックとして取り込まれている。
裏口の鍵を持っていない状態では、ボス戦が優先されるらしく他の条件を満たしていてもあのボス戦が開始されるらしい。
次に“読む人で内容が変わる本”を1冊でも読んでいる事。
厳密にいえば、選択の栞を持っている事だ。
本来、館長の目録は攻略した後にページを開くと、ランダムに危険図書の能力が発現する。
しかし、選択の栞を持っている場合は、4冊目としての機能が優先的に発現するそうだ。
そして、最後。発見が遅れた最大の原因。
『まとめ』の本を読んでいない事だ。
どうやら選択の栞を持つ者が『まとめ』の本を読んでしまうと、どこまで読んだかに関わらず完結扱いとなるらしい。
たとえ『序』だけ記された栞でも『まとめ』を読んでしまえば、完結扱いとなる。
そうなってしまえば、後から他の本を読んだとしても物語が更新される事は無くなるのだそうだ。
この仕様については『まとめ』以外の本が3冊と思われていた頃から判明していた。
「序」「破」「急」まで読んで、続きがあると思う人物がどれほどいるだろうか?
そして、3冊を読み終えた人物が図書館ダンジョンをクリアして最初に何をするのか。
まず間違いなく「まとめ」の本を読むだろう。
そうなってしまえば、もう一度図書館ダンジョンに挑んだところで幻の4冊目には巡り合えない。
このチェーンクエストを真面目に取り組むほど、4冊目にたどり着けないという恐ろしいギミックとなっている。
この事を発見した人物は真面目に取り組んでいた人物ではなく、『序』『破』の2冊までしか読んでいなかった。
その為、『まとめ』を読む前に最後の一冊を読む必要があった。
しかし、転移の扉が使用できない状況だったらしく図書館ダンジョンを通って引き返す事にしたようだ。
そして偶然にも、他のパーティーが発生させていたギミックに巻き込まれたことで、しばらくダンジョン内に閉じ込められる。
その中で再び館長の目録を開く機会に恵まれ、『急』の物語を綴る事となった。
その後の調査で判明したのが、先の3つの条件を満たしていれば館長の目録が4冊目として機能するという事だった。
しかしこの事実は、この本の研究をしてきた職員たちを絶望へと叩き落す。
そう、真面目に研究してきたからからこそ、この4冊目の研究は滞る事となったのだ。
興味のある人物は既に『まとめ』を読んでいるため検証できず、読んでいない人物はそもそも興味が無いうえ、この本の研究のために4ヶ国をまわり紹介状をもらうという重労働をするなんてしない。
結果、大発見ではあったもののサンプルがほとんどとれていないそうだ。
トーザさんが前のめりになりながら協力してくれるのも、久々のサンプルに舞い上がっているのだろう。
俺がまだ4冊目を読めていないと言うと、トーザさんは大粒の汗をかき俺を追い出すように「図書館ダンジョンへ! まずは4冊目を!」といってたたき出してきた。
職員が利用者にする行動ではないが、それくらい彼女にとって大事な事のようだ。
俺は必死な顔をしたトーザさんの顔を思い出し、苦笑しながら館長の目録を探す。
≪従魔メリーがレベルアップしました。≫
≪従魔メリーがレベルアップしました。≫
≪従魔ジェイミーがレベルアップしました。≫
≪従魔メリーがレベルアップしました。≫
≪従魔メリーの熟練度が一定に達したため、スキル「念動力」がレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムの習得度が一定に達したため、スキル「読書」を習得しました。≫
≪従魔メリーの熟練度が一定に達したため、スキル「掃除」がレベルアップしました。≫
≪従魔メリーがレベルアップしました。≫
≪従魔メリーの習得度が一定に達したため、スキル「指揮」を習得しました。≫
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何度か休憩を挟みつつ図書館ダンジョン内で捜索を続けていた時、ふとある事を思いついた。
今回はボス戦がないのだから、アールヴ皇国の屋敷にいる従魔に手伝ってもらえばいいのではないかと。
普段のメンバーはどうしても本を探すのに不向きな者がいる。
本の管理を任している屋敷の従魔の方が、目当ての本を探すのには適しているだろう。
霊象モンスターは難しいが、メリーとカルロなら探索の手伝いをお願いできるかもしれない。
早速とばかりにノーレッジの総合ギルドから屋敷へ赴き、手伝ってくれる従魔を募る。
予想通り、霊象モンスターは無理だと意思表示。俺も無理をさせる気はないので了承する。
意外だったのはカルロが及び腰だったことだろう。
すっかり屋敷での生活に染まりきっているようで、霊象モンスターほどではないもののやんわりとお断りされてしまった。
逆に腕まくりをしてやる気満々なのがメリーだ。
元々怯えるような性格では無いが、屋敷での生活が退屈だったのだろうか?
それならば、いずれ屋敷から戦闘パーティーに組み込んだ方がいいかもしれない。
「屋敷での生活は退屈か? メリーがその気なら戦闘パーティーに組み込むことも考えるが……」
俺が問いかけると、メリーは首を横に振る。
屋敷での生活に不満は無いが、戦闘は嫌いではないとの事。
腕まくりは久々の戦闘で気合を入れているだけらしい。
他のメンバーとも相談のうえ、一時的にメリーがパーティーに加わる事となった。
……………………。
そして現在。
俺たちはメリーの指揮のもと、館長の目録を探していた。




