224.大図書館のルール
「しっ、失礼しました。あの本については後程話をするとして……まずはここ、大図書館の利用法について説明させていただきます」
話の合間を見て声をかけるとトーザさんは我に返り、大図書館の利用について説明を始めた。
まず、一般区については今まで利用してきた図書館でのルールとさほど違いはないらしい。
ルールといえるか微妙だが、入り口から同じ部屋が続く回廊には魔法陣や魔法具を利用した侵入者のチェックが行われているという。
「もし、問題のあるもの……例えば従魔や大図書館の蔵書などを検知すると転移によって排除するか、アイテムを全て没収する処置がなされます。高ランクの司書ギルド所属者なら多少優遇処置はありますが、罪によってはギルドからの除名及び知識の国からの追放・入国禁止処置もあり得るのであしからず」
一般人が利用する場合は、この回廊をスルーする事自体に重い罰則が発生するらしい。
逆に言えば、大図書館内に個室を与えられている人物はギルドから格別な信頼を得ているといえる。
「ウイングさんは司書ギルドのランクがBランクであるため、高位のギルド所属者となります。しかし、上位職の中でも職員として扱われるギルド指定の職業や国が人柄を保証してくれている国定司書ではないので大図書館を利用する場合は一般人扱いとなります」
司書ギルドのクエストを受けている間は職員として扱われるが、アルバイトのようなもので自分が利用者の場合は客……一般人としての利用となるらしい。
一応、アールヴ皇国の国定司書になる事はできるが、義務を伴う職業なので転職は見送っている状態だ。
「ちなみにギルドでの試験で転職できる高位司書は、その職だけでは職員扱いの利用はできません。条件については後に質問する時間を設けているので、ここでは割愛させていただきます。続いて賢護区についての説明になります」
続いて俺が追っているチェーンクエストの本があるだろう賢護区。
ここは他の図書館にある危険図書に分類される書物も保管されているが、他にも門外不出の古文書、歴史書、聖典等も保管されている。
「常態的に賢護区への入室は一般職員も制限されており、入室が必要な事柄が発生した際は目的の区画への入室が認められます。職員としての入場を目指すなら様々な前提条件を達成しているうえで入場資格を得る為の試験に合格する必要があります」
トーザさんはそこまで答えると、ニンマリと笑みを作る。
「ウイングさんはあの本を読み進めていく為に3ヶ国で紹介状を受け取っています。その中でもアールヴヘイムでの貢献には目を見張るものがありますね。そのため、賢護区へ入る為の前提条件はかなり達成されているといえますね。……職員として入るのであればですが」
そこでトーザさんはアイテムボックスから取り出したであろう大量の資料を俺の前に積み上げる。
「実は賢護区そのものに入ること自体は、左程難しいものではないのです。もちろん危険を伴うフロアは厳重ですが、大きな危険がない書物に用がある場合は指定された職員の同席があれば入室可能なのです。とはいっても最低限の信頼は勝ち取らなければなりませんが……。今回あの本に関わる研究に協力するという立場で入室していただく事が可能です」
トーザさんが言うには、俺が今までチェーンクエストで選択してきた結果にもよるが、報告の限りそこまで危険な事はおこらないはずとの事。なので、そこまで厳しい条件は必要ないらしい。
……あの本に危険な事象を発生させる可能性があったのだろうか。
「あの本が危険図書に指定されている理由ですが、あるルートを辿った職員があの本を開いた時にあの本から魔物が飛び出してきた事があったそうです。それゆえにほとんど危険はないものですが、不特定多数に見せるのは危険という事で今の形式となっています。魔物が封印されているでもなく魔物を生み出すために作成された魔導書でもない。そんな書物が外界へ魔物を生み出すほどの力を持つ。それゆえに研究対象として面白い!」
多少脱線を挟んだものの、トーザさんが挙げたチェーンクエストの本があるフロアに入るための条件は以下の通り。
1.司書ギルドのランクをAランクにする。
2.大図書館で依頼を一定数達成するか、司書を上位職にする。
3.指定職員に話をつけておく(トーザさんが同行するから問題ないとの事)。
基本的には他の国で危険図書へ入るための紹介状をもらう時と条件は変わらない。
読書を楽しみながら司書ギルドのクエストを達成していけばいいし、時間がかかるようなら上位職に転職するのは簡単だ。
指定職員はトーザさんが買って出てくれるそうだ。
「もし、チェーンクエスト以外の理由で賢護区へ入室する場合は条件が変わりますので、その都度担当の職員が説明させていただきます。……さて説明は以上となりますが、如何しますか? 私といたしましてはあの本のフロアへ入るために最短のスケジュールを組んできましたので、そちらの説明をさせていただきたいのですが!」
「いえ、確かにあの本が気になるところではありますが、いくつか確認したい事があります」
俺がそういうと、わかりやすく肩を落とすトーザさん。
急ぎたい気持ちは理解できるが、こちらにも予定がある。
「その本も気になるところですが、もう一つ気になる事があります」
「……何でしょうか?」
「司書ギルドやノーレッジに貢献した人物に一般区の個室が与えられる事があると聞いたのですが、どれほどの貢献で与えられるのでしょうか?」
その言葉に納得すると同時に気を取り直すトーザさん。
「ええ。確かにそのような制度があります。確かにウイングさんのような方ならそのような希望が出るのも当然です。この制度にいくつかパターンがありますね」
個人に与えられる部屋は以下の通りらしい。
1.報奨として用意された個室
2.何も整備されていない部屋
3.部屋といえないようなスペース
4.司書ギルド・知識の国ノーレッジが把握していない部屋・スペース
まず、報奨として用意された部屋は目標にするには現実的ではない。
司書ギルドが報奨用に整備している部屋であり、だれもが納得するほどの功績をあげる必要がある。
少なくとも今のプレイヤーに達成できる貢献度では夢のまた夢なので今回はスルーが無難。
何も整備されてない部屋は用途の決まっていない部屋。
事務室や新たな大図書館の一室として使われる可能性もある。
最初の部屋ほどではないが、功績をあげた者が個室を欲しがった時に与えられるらしい。
これでさえ現在のプレイヤーには厳しいそうだ。
プレイヤーが目指すなら後の2つになる。
まず、部屋とも言えないスペース。
これは大図書館が増改築を繰り返した事でできた部屋とも言えない空間。
トイレの個室のような空間ならマシな程で、人ひとり入れないスペースしかない場所も多い。
こういった場所はそれなりの貢献度でも、信頼を勝ち取れれば貸与される可能性がある。
一応所有登録できれば、転移の扉やマイルームから飛べるようになるので個人プレイヤーからすれば狙い目だ。
次に未発見のスペースであるが、当然不法占拠するわけではない。
未発見と思われるスペースを発見した場合、司書ギルドに報告する事で発見者に与えられる事がある。
ただし、信用が足りなかったり、好き勝手されると困るエリアだった場合は、別に報奨をもらえるそうだ。
発見するのも稀であり、使いやすいスペースとは限らないので、狙って探した結果徒労になる可能性が高い。
クエスト等をしている時に、たまたま見つける事を期待する方が精神衛生上よさそうだ。
「説明は以上になります。それではこの後どうしますか?」
説明は終わりとばかりに今後の予定を聞いてくるトーザさん。
「それは……………」




