219.TRPG? ③
調理場や用具入れ、資料室を回りながら様々なものを調べていく。
先ほどの失敗があったので慎重に進んでいくが、罠らしい罠は今のところない。
おそらくだが、参加者が館の外に出るような場所に罠を仕掛けているのだろう。
その中で手に入れたアイテムは主に3つ。
一つ目は、自分の客室で手に入れた像の石。これは神学の判定結果から期待は薄い。明確にハズレと表記されていないので、他に選択肢がなければ選ぶかもしれない。
二つ目は、最初の倉庫で手に入れた本。この本を調べている最中に判定が発生したが、高い数値が設定されており判定に失敗してしまった。
もしかしたら、その先にさらなるアイテムへの示唆があったのかもしれない。
その場合はこの本自体の価値はとても低い事になる。
最後に小鳥の置物。
白色の木材で作られた小鳥の置物である。この置物自体は特別なものではないだろう。
しかし、この置物は隠された金庫の中に入っていたのだ。
難易度的には高めのはずなので、それなりに良いものが貰えるとは思う。
「一通り案内しましたが、いかがしますか?」
自分の客室傍まで戻ってきたところで、アテーさんから声がかかった。
館を一周してきたようで、もう一度見たい場所があるか確認したいようだ。
気になる箇所はたくさんあったが判定に失敗したり、自分の持ってないスキルが必要そうなものばかり残っている。
詳しく調べればもっと見つかるだろうが……。
図書館ダンジョンの探索中にこのクエストを始めてしまったため、ログイン時間が気になる。
途中退出できるクエストだが、明確な時間制限がないのでログイン時間を目安にするのもありかもしれない。
ログイン時間を確認すると、残り時間が1時間を切っていた。
ちょうど潮時のようだ。
俺はアテーとともにパンタソスの元へ向かう事にする。
「やぁ、やぁ。待っていたよ。思ったより早かったかな? 僕らの催しは楽しめたかな?」
「はい。こういったゲームに参加したことがなかったので、新鮮でした。……ちなみに複数人参加した場合はどういう予定だったのですか?」
「大まかには一緒だよ。まぁ、アイテムごとに点数を決めていたからランキング形式で発表する予定だったんだ」
本当ならランキング報酬もあったそうだが、一人ではランキングも何もない。
景品を2つにしたのはそういった理由もあるという。
「さぁ、さぁ。それでは君の成果を見せてくれ!」
俺はパンタソスに像の石と小鳥の置物を提出する。
パンタソスはそれらを見て、笑顔で頷く。
「なるほど、真っ当に宝探しをしてくれたみたいだね。ただ、何でも持ってきていいというルールだったから、何の変哲もないアイテムが高得点という可能性を探ってほしかったかな。まぁ、次は頑張ってね!」
俺が「次?」と思っていると視界が真っ白に染まる。
≪特殊クエスト 運営の遊び心(1114)をクリアしました。報酬をアイテムボックスに送信しました。お受け取りください。≫
≪特殊クエストをクリアした時の状況から以下の報酬を獲得しました。
①卓上遊び大全Ⅰ(別紙にて簡易ルールブック6・10・100面サイコロ付き)
②卓上遊び大全シリーズ用キャラシート及び作成キット
・特殊条件達成報酬
③今回作成したキャラクターのキャラシート
④偽装のペンダント(LV3)
⑤召喚契約の本(小鳥)
≫
気が付くと図書館ダンジョンへ戻ってきていた。
クエストクリアの時のアナウンスが長く、全てを聞き取れなかった俺は慌ててログを確認しようとする。
「キューーーーーー!」
「チュー!」
「……」
「ウォン!」
ログを確認している俺を中心に従魔達が集まってきた。
特殊クエストの為に別エリアに飛んだので、従魔達からすれば突然俺が消えたように見えたらしく、かなり驚かせてしまったらしい。
俺は従魔達に状況を説明しながら、憤っているジェイミーを宥める。
ジェイミーは俺の背中で待機していた為、俺が突然消えた時のショックが大きかったようで、他の従魔が心配しているのに対し猛烈な抗議を訴えて来たのだ。
逆に俺の手の中にいたグリモはジェイミーの下敷きになったらしく、驚く余裕すら無かったらしい。
図書館ダンジョンは能動的に動くモンスターやギッミクが殆どないので、ゆっくりログや報酬を確認できるかと思ったが、一度仕切り直した方が良いかもしれない。
俺は従魔達を引き連れて図書館ダンジョンを後にする。
…………。
一度マイルームへ戻った俺はジェイミー達と戯れながら、先程のクエスト報酬の確認をしていた。
最初にもらった「卓上遊び大全Ⅰ」は辞典や辞書を思わせるほど分厚い本である。
ページをパラパラと捲り簡単に内容を確認すると、この本で遊べるTRPGの世界観とゲームとして遊ぶ時のルール。キャラクターの作り方等が載っていた。
その後のページでは、いくつか遊ぶためのシナリオが綴られている。
ここまでは普通のTRPG用の本であるが、シナリオのタイトルが記載されているページの下半分に魔法陣のようなものが描かれていた。
少しページを戻りゲームとしてのルールを確認すると、魔法陣に触れる事で先ほどのような物語の中に飛び込む形でTRPGを遊ぶことができるとの事。
もし複数人で遊びたい場合は、先にパーティーを組んでおくと良いらしい。
パンタソスの言っていたのはこれか。
ただ、この本で遊んだ場合は報酬が出ないので、リベンジできるといえるかは微妙だ。
という事はだ。パンタソスは外側の世界を理解していた?
とりあえずこの話は置いておこう。
もちろんこの本を使い、TRPGそのものとして遊ぶ事も可能だ。
その場合は付属品の簡易ルールブックを使うといいらしい。
作成者には申し訳ないが、実際のTRPGとして遊ぶ事は無いかもしれないな。
……そもそもクエストと同様の形式で遊ぶ可能性も低いのだが。
ただ、卓上遊び大全「Ⅰ」という事は他にも似たような本があるはずなのでコレクションとしては欲しい。
この図書館ダンジョンに他の本もあるのか、はたまたどこかに探しに行く必要があるのか。
今回の様に現実の作成者が表示されるのかも不明なので、気長に探していこうと思う。
次に卓上遊び大全シリーズ用キャラシート及び作成キットであるが、見た目は両手で抱えるほどの木箱だ。
簡素ながら赤と金色の装飾が施されており、中ほどから上蓋が開くその様はアンティークのオルゴールを思わせる。
蓋を開けて中を確認すると、ずらりとボタンが並んでいた。
ローマ字や数字が刻印されたボタンが並んでいる様はタイプライターを思わせるが右端に見慣れないものが付いていた。
‟00”と並んでいる横に‟判定”と刻印されたボタンがある。
取り扱い説明書が無いかと作成キット確認してみると、底の部分を手前に引くことができた。
中には冊子のようなものがあり、簡単な使い方が書かれていた。
底の部分にA4程度の紙を入れ、タイプライターの要領で必要事項を記入。
能力値はランダムで決定しなければいけないようだが、数値の決定は先程見つけた判定ボタンで適当な数字が記入されるようだ。
これに加えてものぐさな人向けに名前と性別以外をランダムに決定してくれる機能もあるとか。
そして、残りの2つ。
記載内容からクリアとは別に何らかの条件を満たした為に手に入れたと思われる。
まず、今回クエスト内で使用していたキャラシート。
クエストのクリア報酬では無く特殊条件の達成報酬となっている事から、何らかの条件を満たして手に入れることができたのだと思われる。
おそらく、最初に「物語の旅人」でこのクエストがTRPGを基礎としている事を理解していたかどうかという事だろう。
次に「偽装のペンダント」
これはかなり有名な“残念”アイテムだ。
赤色の宝石がついたペンダントなのだが、装備している間はスキル「偽装」を付与してくれる。
スキル「偽装」は他者がステータスを見るようなスキル・アイテムを使用した時に、事前に設定した偽物のステータスを見せることができる。
これを使用すれば賞罰系の称号も消す事が可能だ。
ただし、スキルレベルが低いと看破されてしまう可能性があるらしい。
これだけ見ると悪さをしたプレイヤーに人気が出そうだが、大きな落とし穴があった。
この偽装のペンダントは目立つように装備する必要があるのだ。何かを被せて見せないようにすると、効果が無効化される。
そして、偽装のペンダントは警備をするような人々(兵士や自警団)の間では有名な装備だった。
つまり、このペンダントを装備していると何か隠していますとまるわかりだが、隠すと偽装効果そのものがなくなるのだ。
普通に使用するのは不可能に近い。
変則な用途としては、テイマーが従魔にこのペンダントを装備させて新たな進化先を探るくらいだ。
なのでテイマーである俺にはやや当たりだが、特別なクエストの報酬としてはハズレかもしれない。
最後に「召喚契約の本(小鳥)」。
「abundant feasibility online」を始めてすぐの頃に「召喚契約の本(低)」を手に入れたが、今回は小鳥のような見た目の召喚獣を呼び出す事ができるようになるアイテムのようだ。
能力では無く見た目による選定の為、強力な召喚獣を選ぶ事もできるらしい。
職業「召喚師」ないし召喚系のスキルを持っているプレイヤーには垂涎ものの一品だろう。
「召喚契約の本(低)」同様、書物として読む事もできるので一先ずキープしておくことにした。
……一瞬これを売って今後の資金に変える案が思いついてしまったが、資金難に陥ってしまったその時は検討することにしよう。
「キュー……zzz」
「チュー……zz」
報酬の確認を終えて従魔達に視線を戻すと、ジェイミーとハーメルはいつの間にか寝ており、他の従魔も思い思いに過ごしていた。
……これから図書館に戻るのは無理だな。
俺は苦笑を浮かべながら、俺の膝に頭を乗せて寝ているジェイミーの頭を撫でるのだった。




