217.TRPG? ①
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PN「ウイング」様
このクエストを作成したチームのリーダーをさせていただいた尾午河 蛍市です。
あなたには、これから我々が用意したゲームをしてもらいます。
「ウイング」様はTRPGをご存じでしょうか?
TRPGとはVRはおろかコンピュータゲームでもない。
サイコロや文房具などを用いて、プレイヤー同士の会話と既定されたルールに従って遊ぶ対話型のRPGです。
今回はそのTRPGをVRゲームに落とし込んだものをプレイしていただきます。
本格的に始めると長くなりますので、クエスト内ではショートストーリーのものをプレイしていただきます。
ルールについては以降のページを参照してください。
なお、このページは何らかのスキル、特性、称号ないしアイテムの効果で本来の作成者を認識したプレイヤーのみ確認する事が出来ます。
”
最初のページにはクエストを作成した人物からメッセージが添えられていた。
何となく予想していた事だが、ゲームの中で別のゲームが展開されるらしい。
TRPGはやった事は無いが、どういった物か何となく知っている。
ページを捲ると、本来の1ページ目と思われるページが現れた。
‟
私の友人は昔から不思議な夢を何度も見ていた。
それほど不快なものではないそうだが、身に覚えのない事が次々と起こる夢だ。
友人は何かの病気ではないかと怯えていたが、私は友人の夢の内容にとても関心があった。
私は彼に頼み込んで、夢の内容を詳細に記録する事にした。
彼も夢の内容をまとめる事で何かわかるかもしれないと、積極的に協力してくれる。
覚えている限りの内容を書き留めていると、ある程度法則がある事がわかった。
どうやら起点となるシーンがあり、そこから数刻に分けて連続性のある場面が進んでいく。
そして、物語で言うところの「結」と思われるような場面の夢を見るとしばらくは夢を見なくなるという。
短くて2,3時間。永くて数時間経つとまた、起点となるシーンが始まるらしい。
起点のシーンはほぼ一緒なのだが、その後の行動はかなり自由が利くらしく毎回違った「結」に辿り着くようだ。
面白いのは意識して同じ道を辿ろうとしても、ほとんど同じ展開にならないという。
それゆえに同じことの繰り返しで気が滅入る事が無いのが、救いと言えば救いだと友人は言っていた。
私は彼から聞いた内容を小説としてまとめようとしたが、小説という形式ではこの話の面白さを伝えられないと思い、遊びの要素を加えた遊戯本という形式で残そうと考えた。
この本を手に取った方へ。
不思議ではありますが、友人は不幸ではありません。仮に何かの病気や呪いの類だとしても、この遊戯本から感染するなどありえない。存分に楽しんでいってください。
シファンズ・ミタグ・フルッス
”
どういった本かわかったところで、次のページを読み始める。
次ページからはこの世界でのルールについて書かれていた。
まず、例のチェーンクエストと違い、自分が物語の中のキャラクターとして行動できる様だ。
そして自らの選択で物語の展開が変わるわけだが、ここで運の要素が発生する。
行動が上手くいったかどうかをサイコロの出目で判定されるらしい。
判定の仕方はその都度変わるようだ。
サイコロは自分で振るのではなく、勝手に振られた結果が視界に入るという。
この時の判定基準は俺のステータスで変動するらしい。
そのステータスであるが、アバンデントのステータス・スキルに依存するという。
詳細を確認するとこの世界での能力は、身体能力、知識・情報処理能力、特技に分かれている。
自分の能力が記されたページを確認すると、ウイングとしてのステータスを基準に計算されている為か、身体能力系が低めで知識系の能力が高めに設定されていた。
先の二つがステータスであるなら、特技はスキルに当たるものらしい。
持っている特技に応じてサイコロによる判定に補正が入るようだ。
特技は職業絡みと思われる読書、生物懐柔。称号・スキル絡みと思われる雑学、神学。
あとはどの部分を元にしているか不明なファンタジー知識が並ぶ。
世界観がどのようなものか分からないので、このステータス・特技が良いのか悪いのかは不明だ。
状況把握がすんだところで、もう一度辺りを観察する。
薄暗く鬱蒼とした森の中、目の前には外壁に苔が生えている大きな洋館。
これから何か起こりますよと言わんばかりの状況が揃っている。
まるでミステリーやホラー小説の舞台のようだ。
しかし、先程の説明文ではあまり暗い印象を受けなかった。
何か他に情報は無いかと辺りを探す。すると、先程の封筒とは反対側のポケットに紙切れが入っている事に気づいた。
‟ウイングさま
この度は我々の招待を受けていただき誠にありがとうございます。
改めて自己紹介させていただきます。我々は催し・パーティーをこよなく愛するクラン「オネイロイ」。
人を変え、タネを変え、様々な催しを行ってきましたが、今回の催しでは不特定多数の人物に招待状を送り、あるゲームに参加してもらおうと思っております。
ゲームの結果によって豪華景品も用意してあります。
ウイング様のご来訪を心よりお待ちしております。
クラン「オネイロイ」副マスター モルペウス
”
なるほど、俺はこのゲームに参加する為に訪れた招待客というポジションか。
この招待状を探す為の判定が出なかったという事は、これくらいは自力で気づけという事かな?
単純に判定する技能が無いだけだったかもしれない。
洋館の外を一回りしてみようかと思っていたが、不用意に動くのはまずいかと思いなおす。
辺りを探って不審者扱いされれば、デメリットを被る事もありうる。
俺は素直に正面にある玄関へと向かう事にした。
黒く両開きの扉の上部には、ランタンのような照明が淡い橙色の光を放っている。
扉自体は簡素なものでほとんど特徴的な装飾は無いが、丁度俺の肩辺りの高さに何かの花をモチーフにしたドアノッカーが付いていた。
少し逡巡した俺は、恐る恐るドアノッカーに手をかける。
『判定 ドアノッカーのモチーフ 雑学 1d100(1つの100面ダイス) 50以上で成功』
『判定結果 70 成功 モチーフはケシの花です』
俺の些細な疑問に反応したのか、ドアノッカーのモチーフについて判定が行われたらしい。
視界の端にウインドウが表示され、判定の内容と結果が見えた。
ケシって現実世界にもある植物だよな……。
現実にある植物を元にした植物は多くあるが、名前がそのままだった物は無かった。
運営側が特別に用意したクエストだからとも考えられるし、同じ名前の別植物という可能性も捨てきれない。
情報不足で判断がつかないので、一先ずドアノッカーを叩く事にした。
2,3回叩いた後、しばらく待っていると中から足音が聞こえてくる。
両扉の片側が開き、出て来たのは使用人のような恰好をした中年の女性。
「お待ちしておりました。ウイング様ですね。既にゲームの用意は整っておりますが、一度客室へご案内します」
俺は女性に案内されるがまま洋館の奥へと進んでいき、等間隔で扉が並んでいる通路へ案内される。
女性は迷う素振りも無く、通路に入ってすぐの扉を開けた。
「こちらの部屋でお休みいただく事も出来ます。コートや帽子はあちらのハンガーポールにお願いします」
部屋は簡素なもので、シングルベッド・クローゼットとハンガーポールがあるだけだ。
ビジネスホテルの一室より簡素かもしれない。
本当に休憩する為だけの部屋ということだろう。
『このクエスト中に限り、この部屋でのみログアウトする事ができます。もし、クエスト途中でログアウトをした場合は、次にログインした時にこの部屋からスタートする事になります』
先程と同じような位置にウインドウが出現した。
同じゲーム内とはいえ違うルールのゲームを行うためか、ログアウトのやり方も変わるらしい。
クエスト途中に一時離脱できる事はありがたいが、パーティーで参加していた場合は外との連絡はできるのだろうか。
試しにフレンド通信を試してみたが、反応が返ってくる事は無かった。
まぁ、俺には関係ないか。グリモが多少心配だが、他の従魔が救出してくれるだろう。
「質問が無いようでしたら、会場へ案内したいのですがよろしいでしょうか?」
俺は女性の言葉に頷く。
いよいよ本題が始まるようだ。




