216.図書館ダンジョン攻略中
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「盾術」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノの練度が一定に達したため、スキル「爪術」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「杖術」がレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエの練度が一定に達したため、スキル「遠見」がレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
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もうゲーム内で1ヶ月以上、図書館ダンジョンに挑戦し続けている。
俺が来た時に一緒に潜っていたパーティーは誰も残っていない。
それどころか後から来たパーティーも次々と攻略していく。後から来たパーティーは俺に申し訳なさそうに試練へ挑んでいくのがいたたまれなくなった。
分かっていた事だが、このダンジョンは今まで挑戦してきたものと大分毛色が違う。
今までのダンジョンはその性質を理解すれば、ある程度効率的な攻略法を確立できた。
しかし、図書館ダンジョンにはそれが通じない。
まず、図書館という建物がダンジョンとなっている事。
建物なので鍵がかかっている裏口はともかく、入ってきた正面の扉はいつでも出入り可能だ。
また、二階建ての建物内は階層という概念はなく、いつでも階段の上り下りができる。
図書館らしからぬところも当然ある。
まず、飲食をしてもいい。なんなら、騒いでも暴れてもいいしペット(従魔)も入館可能だ。
これには図書館ダンジョンの特性が関係している。
図書館がダンジョン化した時、中にあった書籍もギミックとして取り込まれた。
これが影響してか、ダンジョン内の本は損傷してもいつの間にか修復されているらしい。
そして、館長の目録が発見されランダム配置される時は確実に修復されるそうだ。
これだけなら図書館内のルールが維持されていても良さそうだが、そうもいかない事情がある。
図書館ダンジョン内の本には、特殊効果を持つ物が存在する。
本を手に取るとモンスターが発生したり、特殊な空間に閉じ込められたりと多種多様だ。
司書の目録は背表紙で選別する事は出来るものの、似たような本も多いので手に取ってみないとわからない。
目録以外の本を手に取った時、手に取った人物のみに不幸が降り注ぐ本ならマシな方だ。
グリモを凶悪にしたモンスターだったり、多くの人を巻き込むような天災を引き起こしたり……。
無限とも思えるモンスターを召喚するような本が出てきた場合は、その場にいる全員で対処したりもした。
地味に嫌だったのはその場にいる全員の立ち位置を入れ替えるものや、中にいる全員を図書館から追い出すような効果を持つ本だ。
これらをされてしまうと自分がどこまで確認していたかわからなくなってしまう。
俺は経験したことは無いが、本棚に納められている本の位置をランダムに入れ替えてしまう本も存在するらしい。
そして、最も例外的な部分はクリア条件だ。
裏口から出る事ができればクリアとなるが、それには扉にかかっている鍵を開ける必要がある。
鍵を入手するには並び立つ巨大な本棚から一冊の本を見つけ出し、その本を開く事で受けられる試練を突破する事で裏口を開ける鍵を入手できる。
このような苦難を乗り越え、何とか目録を見つけ出した他のパーティーはこのダンジョンをクリアしていった。
俺が他のパーティーより出遅れている理由は分かっている。
俺のパーティーが特定の本を探すのに向いていない。
ジェイミーは言わずもがなカレルに至ってはそもそも入る事が出来ず、ヌエも飛べないので行動範囲が制限される。
シラノとベルジュ達は梯子を上る事ができない上、館長の目録は他の本と匂いが同じらしく臭覚による捜索は難しい。
戦力になっているハーメルとエラゼムも問題を抱えている。
エラゼムも体躯が大きすぎて、据え付けの梯子を上る事ができない。
ハーメルは行動に制限は無いものの、体が小さいために一冊一冊を確認する事に時間がかかる。
シャーロット師匠がテイムしていたウッドドールの様に、探す戦力になるような従魔を増やす考えも浮かんだ。
だが、最後の試練を突破する時に戦闘力が必要なので、非戦闘要員を入れるのは難しいと判断し見送った。
普通のパーティーが6人で探しているのに対して、こちらは実質2.5人分の能力で探しているようなものだ。
しかもテイマーの性質上、アイテムは俺しか持っていけない。
補給が俺一人に委ねられる関係上、他のパーティーより離脱回数が多いのも非効率である。
他のパーティーに先を越されるのは自明の理なわけだ。
しかし、現在図書館ダンジョンに挑戦しているパーティーは俺達だけになった。
……他のパーティーに置いて行かれたともいえる。
静かな図書館で目当ての目録を探している俺は疲れた表情をしている事だろう。
他のパーティーがいなくなった事で前よりは探しやすくなったが、俺の精神には疲労が蓄積していた。
ただ本を探すだけならここまで疲労する事は無かっただろう。正に司書の仕事なので、嬉嬉として取り組んだかもしれない。
しかし、この図書館ダンジョンでは不用意な行動をとると身の危険がある。
その為、無意識のうちに緊張しているのだろう。ログアウトする頃にはヘトヘトになっているのが常だった。
最近は読まない本を探す事に徒労感を感じてきている。
そんな精神状態で気になる本を見つけたら、手に取ってしまうのは仕方ない事だった……はずだ。
今日も今日とて巨大本棚を確認していた俺は、ある本に目が留まる。
その背表紙は、司書の目録とは似ても似つかない真っ赤な色に金色の装飾が施されていた。
最初は放置していたが、一度気になってしまうと探すのに集中できなくなってしまう。
集中力を切らしていた俺はこれくらい良いかと思い、その本を本棚から抜き出す。
取り出した本の表紙を確認すると、このように書かれていた。
『卓上遊び大全Ⅰ 賽は投げられたⅣ 作成班代表 尾午河 蛍市 』
それを見た俺はダンジョン攻略の中断を決める。作成した人物が浮かび上がって見えたからだ。
タイトルはそのままだったので、スキル「言語」ではなく称号「物語の旅人」が反応したのだろう。つまり、これは運営側の人物が用意した本という事になる。
タイトル的にどういった本かある程度予想できる。
こんなタイトルの本が図書館ダンジョンにあるのだ。唯の本であるはずがない。
危険な事は分かっていたが、久しぶりに現実の作者がいる本を見つけたのだ。開けないという選択肢はない。
従魔達が集合した事を確認した俺は、恐る恐る本を開く。
≪シークレットクエスト 運営の遊び心(1114) を受けました。それでは頑張ってください。≫
拒否する間もなくクエストの開始が告げられ、俺の視界を光が覆う。
気が付くと古びた洋館の前に立っていた。日は沈みかけており辺りを森に囲まれている。
そして、近くに待機していた従魔達はいなくなっていた。
どうやら、ページを開いた人物のみに適用されるクエストだったようだ。
そういえば、まだ他のパーティーがいた頃に1人だけどこかに消えたと騒いでいた事があった。
ギミックにやられたのではなく、特殊なエリアに飛ばされていたらしい。
話を聞いた感じだと何か物語の登場人物にさせられたという。
このギミックは司書ギルドで貰った冊子に書かれていた。なんでも本に取り込まれるという現象が発生する事があるとか。
多くは元になった本の内容に沿ったクエストが発生するらしい。
ものによっては、小規模のダンジョンを攻略するものもあるそうだ。
周囲を確認していた俺は、自分の体が軽い事に違和感を覚える。
確認してみれば戦闘用の装備ではなくなっており、白い司書服の装備に変わっていた。
そして、コートのポケットに何か入っている事に気づく。
ポケットからそれを取り出すと厚めの封筒だとわかった。
取り出した封筒は封がされていなかったので、中を確認してみる。
中には紙束が入っていたので、取り出して書かれた内容を確認していく。
「……ふぅーー」
全てを読み終えた俺は心を落ち着けるべく、大きく息を吐いた。




