215.図書館ダンジョン
知識の国目前、最後の関門。
何故、戦闘とは無縁そうな知識の国に向かうのにダンジョンランクでBランク相当の戦闘力が必要なのか。
他の勢力から貴重な本を守るために人が足を踏み入れるのが困難な辺境の地にあるというのもある。
しかし、最大の要因は今目の前に佇んでいる建物にあった。
この建物は、かつて知識の国に運び込まれる前の本を保管するために建てられたものである。
点検する前の書籍である為、一般公開はされていなかったものの司書ギルドが管理する図書館だった。
しかし、この建物は現在図書館として運用されていない。いや、出来ていないと言った方が正しいだろう。
何故かと言えば、この図書館が疑似的なダンジョンとなってしまったからである。
かつて知識の国ができた当初。
司書ギルドには、現在のように曰くつきの本を現地で管理するというルールが無かった。
文字通りあらゆる本を、総本山たる知識の国に集めていたらしい
しかし、膨大な本を見分するには相応の時間がかかる。
その全てを知識の国に運び入れるには途方もない労力が必要だろう。
見境なく集められた書籍の中には当然ダブりや状態の悪い物。最悪、曰くつきの本が紛れている事もあった。
知識の国の手前で見分する場所を作ったのは、至極当然の流れである。
ある時、この図書館に曰く付きの本が大量に持ち込まれた。
意図的に集められたわけでは無く、偶々同時期に曰く付きの本が各地から持ち込まれたらしい。
そしてこの偶然がある事故を引き起こす。
大量に収められた曰く付きの本から溢れる魔力が作用して、この建物の中を異空間……疑似的なダンジョンへと変貌させてしまったそうだ。
図書館が疑似ダンジョンとなった時に、中には多くの人が閉じ込められたという。
しかし、長旅をする人々が多く立ち寄る建物であった為、ギルド職員が多くの食料を持っていた事と各地を回る為に高い戦闘力を有していたギルド職員が巻き込まれていたことが幸いした。
事故が起こってから1週間経過した頃には、職員達は自力で脱出を果たしたという。
それから長い間、この建物は司書ギルドによって調査が行われた。
その結果、この疑似ダンジョンは今の状態で安定してしまった事が発覚する。
この図書館を今まで通り使用する事が出来なくなっただけでなく、中にあった書籍群もダンジョンのギミックとして取り込まれてしまった。
ダンジョン内で読む事は可能らしいが、持ち出す事ができない。
叡智の結晶たる書物を補完する事を使命としている司書ギルドは、この事実を重く受け止めた。
魔力を持った本は一部の例外を除き、現地の図書館で厳重に管理するルールが作られる。
このルールが現在の危険図書の部屋、そしてそこへ入る為のギルド職員の紹介状というルールの原型となった。
似非ダンジョンは司書ギルドに教訓を刻み込むとともに、一つの恩恵を与えた。
この図書館は知識の国の出入り口にある。その為、知識の国に入国する人々の中継地点としての側面もあった。
この事が影響したのかわからないが、このダンジョンをクリアすると、図書館の裏口……知識の国手前に抜ける事ができる。
ダンジョンの調査をしていく中で、このダンジョンの攻略法も確立していった。
これによりある程度実力のある人物は、問題なくダンジョンを攻略できるようになる。
そこで当時の司書ギルドはある事を思いついた。
この似非ダンジョンを知識の国へ入国する為の試練として使おうと……。
元々知識の国は過酷な環境に囲まれており、現在俺のいる似非ダンジョンのあるエリアくらいしか落ち着ける場所がない。……落ち着けると言っても、険しい地形ではないというだけあってモンスターは普通に出てくる。
その辺りを利用しつつ、似非ダンジョンを迂回するルートを別の建物を建てるなどして潰したのだ。
これでさらに外部からの干渉を受けにくくなった。
そして、司書ギルドのギルドランクをAランク昇格する為の登竜門としても使っている。
非戦闘職である司書でもAランクになると、過酷な場所にある書物の調査や曰く付きの本を分析するようなクエストが受注できるようになるらしく、最低限の戦闘能力を求められる。
それを確かめる為にも、昇格条件に自力で図書館ダンジョンを攻略する事が含まれているそうだ。
俺は厩で従魔達をマイエリアに送ると、図書館ダンジョンに隣接している司書ギルドの建物へ歩を進める。
建物の中へと入った俺は、その室内の様子に驚く。
まず、室内にはいくつかテーブルとイスが置かれているのだが、全て黒い石造りであった。
見るからに重厚なそれらは、多少手荒く扱ってもびくともしないだろう。
奥にはカウンターがあり、数人のギルド職員と思われる人たちが並んでいる。
しかし、その後ろに並べられている物が異質だった。
カウンターの奥に並ぶ棚には、ジャーキーやカンパンのような保存食とポーションや砥ぎ石のような消耗品が陳列されていた。
確かに本を保管するための建物ではないが、ここまで家具や陳列されている物が違うと別のギルドにでも来たのかと錯覚してしまう。
「……すいません。今、お話よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「司書ギルドBランクのウイングと言います。知識の国へ入る為に図書館ダンジョンへ挑戦しに来ました。ここへの挑戦が初めてになるので説明をお願いします」
「成程。分かりました。そちらのテーブルで説明しましょう」
異様に感じる室内に気後れしつつも、カウンターにいる職員に声をかける。
俺が声をかけた司書ギルドの職員はこのやり取りに慣れているのか、淡々とテーブへ案内してくれた。
俺がイスに腰かけると、ギルド職員もイスに座る。
「司書ギルドのギルドランクがBという事はAランクになる為に来たという事でよろしいでしょうか?」
「それもあります。あと、ここでしか読めない本を目当てに来ました」
「成程。Aランクになる事も目的という事は、ここのダンジョンを攻略する必要がありますね。図書館ダンジョンは特殊なダンジョンになりますので、攻略のルールや攻略法について説明させていただきます」
職員の人はそう言うと、冊子を渡してきた。
この冊子はこのダンジョンを攻略する人たちには全員に配っているそうだ。
「ここのダンジョンは2階層しか存在せず、かつて裏口として使われていた扉を潜る事でクリアとなります。ただし、この扉には鍵がかかっており、そのまま開ける事ができません。そこで……冊子の最後のページを見てください」
俺は言われた通り渡された冊子の最後のページを開く。
そこには、一冊の本が絵付きで紹介されていた。ものすごく見覚えのある“目録”が……。
「このダンジョンのどこかに、ここが図書館だった頃の館長が所持していた“司書の目録”があります。その目録を見つけ出し試練を突破する事で、裏口の鍵を入手する事が出来ます。この目録はダンジョンにある本棚の何処かにあり、誰かが発見し試練を受ける度にランダムな位置に戻ります」
同時期に数グループが挑戦している場合は、同じフロアに数パーティーが存在するタイプのダンジョンらしい。
この場合は早い者勝ちになるそうで、争いは起こさないようにと忠告された。
「現在は司書ギルド関係者が2パーティー、その他が1パーティー挑戦しています。今のところ問題行動しているパーティーはいないので安心してください。これらを踏まえてここの司書ギルドについて説明させていただきます」
職員の説明は図書館ダンジョンから、この支部の説明へ移る。
「先程説明したダンジョンの性質上、攻略の為に長い期間拘束される事になります。その為、この支部には消耗品の販売を始め、総合ギルドにあるような転移の扉も存在します。もちろん本来の司書ギルド業務も行っています」
支部以外の施設も宿泊施設も充実しており、俺の様に大型の従魔で騎乗してくる人物の為の厩も存在するそうだ。
その他、細かいルールや図書館ダンジョンのギミックについては渡された冊子に書かれているので、必要に応じて確認してほしいとの事。
どうやら、この冊子はそのままもらっても良いらしい。
俺は職員に礼を言うと、転移の扉でマイエリアへ転移した。




