20.従魔の名前と他プレイヤー
横から声がかかったのでそちらを向くと背の高さが俺の胸ぐらいの少年がいた。
「今の何ですか! 急に光りだしたかと思ったら、黒い鳥が現れましたよ」
少年は興奮した様子でまくしたてる。
「少し待ってくれ、まだこちらの用事が終わっていないんだ。それが終わったら話に付き合うから」
少年はハッとした様子で。
「す、すいませんでした。近くで待っているので終わったら声をかけてください」
少年はそう言って俺たちから少し離れた位置でそわそわしながら待機していた。
横やりが入ったがこれで命名できるな。
「クーーー?」
なでるのをやめたことで首を傾げる鶴。
「よし、お前の名前はヌエだ」
「クーーーー」
≪従魔契約が完了しました。≫
≪テイマーに経験値が入ります。≫
NAME「ヌエ」 NEW ウイングの従魔
種族「ナイトクレイン ♀」LV1 種族特性「飛行」「夜目」
HP 40(-20)
MP 80(-20)
筋力 3(-1)
耐久力 2(-1)
俊敏力 5(-4)
知力 5
魔法力 7(-6)
スキル
「嘴術LV1」「闇魔法LV1」「迷彩LV1」
状態 「幼体」
名前の由来は「平家○語」などで出てくる鵺だ。夜の鳥から連想した。これでようやく2匹目だ。
他のテイマーはどれだけテイムしているのだろう?
実はこのゲーム、テイム上限は無い。まぁ、食費や場所のことを考えるとそれほど多くは飼えないだろうが。
パーティーの最大人数は6人だがテイムモンスターはパーティーの枠を圧迫するので、連れていけるのは最大でも5匹だ。それ以上テイムした場合は拠点に置いていくか、テイマーギルドの預り所(有料)に預けるかの2択となる。
あまりやりたくないが1匹契約を解除するという手もある。
これ以上待たせるのもあれなのでヌエを連れて少年に声をかけることにした。
「俺の名前はウイング、先ほど声をかけてきたのは君だよな」
「あっ、はい。僕の名前はコロと言います。プレイヤーの方ですよね?」
「ああ、そうだ。俺に聞きたいことがあるんだよな?」
「そうです。先ほどその鳥が出てきた現象について教えてください」
隠すことでもないので、掻い摘んで事情を説明した。
「へぇ~、アップデートの補償で手に入れた卵を孵したわけですか!そこに僕が通りかかったというわけですね」
「ところで君はなんでファーストにいるんだい?」
ほとんどのプレイヤーが迷宮都市に行く中、ここにとどまり続ける酔狂なのは俺みたいに通常とは異なった目的のためにゲームを始めたやつくらいだろう。
「えっと、それはですね……」
歯切れが悪そうにコロが話した内容を要約すると、本当はテスト明けに友達とプレイするはずだったのが、友達の選んだ種族がデメリットの強すぎる特性を持っていてうまく遊べず、ログインしなくなってしまったのだ。
ずっと、楽しみにしていたのを知っている彼はなんとか一緒に遊べる方法はないかと探し回っているうちに周りから取り残されていたというわけだ。
……俺はその解決法のヒントを知っている。確か総合ギルドの資料室にあった本に種族の特徴とデメリットの対処法も簡単に載っていた。
例えば、ハルの種族のデメリット「非力」だが筋力が増えないというかなりのデメリット特性だ。
対処法の1つとして装備に「妖気感応」を付与するというものがある。
獣人(妖狐)のもう1つの特性「妖気」か、それに準ずる特性がある種族が装備すると装備品の重量が魔法力に応じて軽減される。
筋力自体は上がらないが、装備できる重量の上限が上がるのだ。
だが、どうやって付与するかまでは載っていなかった。
おそらくあそこでヒントを得て自分で探せということだろう。
俺は総合ギルドの資料室に種族特性の大まかな説明が載っている本があることを伝えた。
デメリット特性の対策のヒントがあることとともに。するとコロは
「本当ですか! すぐに行って確認してきます。……あのまた相談したいのでフレンド登録していただけませんか?」
ゲーム初心者の俺に何を相談するというのだろうか?
まぁ、コロは礼儀正しいから別にかまわないか…………
……そういえばハル以外のフレンド登録は初めてだな。というかまともに他のプレイヤーと交流したのが初めてじゃないか?チャラエルフ? 知らん。
コロからフレンド申請が来たので許可しておく。
「ありがとうございます。あの、この情報を掲示板に挙げてもいいでしょうか?他にも困っている人が多いようなので」
掲示板の情報によるとダンジョンの攻略はそれほど進んでいないそうだ。一部の人間がようやく初級の迷宮5階層の中ボスを倒したところだそうだ。全10階とはいえ初級ダンジョンでだ。デメリットのない種族ばかりが活躍してデメリットのある種族を見下しているようであまりいい空気ではないようだ。
あとで春花に聞いてみよう。
「ああ、別にかまわないぞ。ただし資料室を出るときはちゃんと元の状態に戻すことも書いておいてほしい」
俺としては読書のついでに手に入れた情報なので別にどうこうしようとは思わないが、また荒らされるのは看過できない。レーナさんの話ではプレイヤーが来てすぐあの状態になってしまったそうなので、同じ状態に戻されたら堪ったものではない。
「わかりました。何から何までありがとうございます」
コロはそう言って走り出す。
その背中を見送って俺はログアウトした。




