210.ドリュアデス共和国①
「お兄ちゃんは剣闘士の国にいるんだね」
「まぁ、そうだが……。何で知ってるんだ? 」
夕食のさなか、春花がそんな事を聞いてきた。
確かにドヴェルグ連合を出た俺は、隣国である剣闘士の国にいる。
しかし、辿り着いたばかりでその話を誰かにしたことは無い。
不思議そうにしていると、春花が笑いながら説明し始める。
「お兄ちゃんのパーティーは特徴的過ぎるんだよ。フェンリル2頭に大きな地竜だもん。特に気にしてなくても自然と情報が集まってくるんだよ」
「目立つのは自覚しているが、それ程か?」
俺の返答に春花は少し考えるような素振りを見せる。
「有名って程じゃないかな? けど、特徴的なパーティーだからね。こんなテイマーがいたんだよー的な話には時々出てくるよ。特にアールヴ皇国では幽霊屋敷の主として知名度高めだけど……」
「は、はは」
あれは弁明のしようがない。
都合が良かったとはいえ屋敷の立地や雰囲気に加えて、中にいる従魔はお化けのような見た目のモンスターを集めてしまった。
外から見たら幽霊屋敷そのものである。
一度アールヴ皇国から注意を受けた時に近隣住人に謝りに行ったので、その時に覚えられたのだろう。
「……それでね。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんだ?」
春花が聞きたいのは、地竜ことカレルについてだった。
クランにいるテイマーが、ああいった大型の従魔が欲しいという。
似たようなモンスターをテイムする目途はついているようなのだが、実際一緒に旅していて注意点はあるか聞きたいそうだ。
特に俺が口の中に入っているのが気になるらしい。
俺は隠すことも無いので、カレルの体内空間について説明する。
「ふむふむ、結構便利そうだね。というか、クラン単位で移動するのにものすごく便利だよね。あの子のテイムしようとしているのは、そういった能力は無いと思うなぁ。大きさはカレルちゃんより大きいんだけどね」
夕食を終えて食器を片付ける。
皿洗いをしていると春花が何かを思い出したように、話しかけてきた。
「お兄ちゃんが剣闘士の国にいるって事は、知識の国に向かってるのかな?」
「そうだな。従魔達も十分育ったからな。ようやくだよ」
「そうだよね~。私はもう少し早く向かうと思っていたよ」
「それはあれだ。アールヴ皇国で……な」
「あはは……。ドンマイ、でもないのか。シラノちゃん達が仲間になったし大量の本と土地、屋敷まで手に入れてるもんね。ゲーマーからしたらうらやましい限りだよね」
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
≪オラズ・テイマーのレベルが上がりました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「無属性魔法」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「医療知識」がレベルアップしました。≫
≪従魔カレルがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュの練度が一定に達したため、スキル「牙術」がレベルアップしました。≫
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また数日して、俺は剣闘士の国の反対側にある関所に辿り着く。
この国はあまり本を重要視していないらしく、図書館が少なかった。
あったとして小規模で、精々剣闘士の武勇伝等をまとめた本や基本的な武器の使い方等の本しかない。
武術の道場には個別に秘伝書があると言うが、読む事が目的である俺が手にする事は叶わないだろう。
俺は国境の町で消耗品の補充と素材の売却をした。
剣闘士の国にはほとんど滞在しなかったので、道中で手に入れた物は手つかずである。
おかげで総合ギルドでの売却は時間がかかってしまった。
所用を終え、恒例の露店巡りを始める。
まだ、剣闘士の国だった事もあり期待はしていなかったが、意外にも本の類が多い。
そして、それ以上に木製の製品が多くあった。
新しい小説は無かったが、木工や木材関係の本で重複していない物を購入する。
ついでに家具の類を見て回ったが、なんと露店の人に購入は控えるように勧められた。
この辺りの家具は剣闘士の国に向かう人向けであり、見るからに文系らしい俺には合わないという。
そう言われて改めて見てみると、確かに武骨というかガッシリした造りの家具が多いように見える。
……というか、そんなに貧弱に見えるのだろうか?
一応戦闘用装備のままなのだが、店主に言わせると一目瞭然らしい。
少なくともここで買うよりは、隣国に入国してからの方が良い物が買えるだろうと言われた。
俺はお礼代わりに小物や大き目の掃除道具を購入した後、露店巡りを終了する。
総合ギルドからマイルームへ向かいアイテムの整理をした後、関所へ向かい剣闘士の国を出た。
「君のようなタイプが此方からくるのは珍しい。まぁ、通り抜けるだけなら早いかも知れないな。ふむ、問題なしだ。ようこそ、ドリュアデス共和国へ」
俺がやって来たドリュアデス共和国は樹人が中心となっている国だ。
この国は林業と木工が盛んであり、高級品から安価な物まで様々な家具が生産されているという。
それと様々な樹木が育てられている為か、昆虫系と鳥系のモンスターが非常に多い。
もし縁があれば、飛行できる従魔を増やすのもありだろう。
ただ、聞いた話では紙類を食べる虫モンスターがいるらしいので、この国を通る間は読書し辛いかもしれない。
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪オラズ・テイマーのレベルが上がりました。≫
≪従魔ジェイミーがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「風魔法」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「火魔法」がレベルアップしました。≫
≪従魔カレルがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムの練度が一定に達したため、スキル「氷魔法」がレベルアップしました。≫
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「う、うっとうしい!」
「くーん……」
「クー」
「(;’∀’)」
関所を抜けてしばらく進むと、赤茶けた芝? が広がる荒野に突入した。
アカシアのような木が点在し、倒木付近に見えた影は狼……雰囲気的にコヨーテだろうか?
遠目にはバッファローやインパラのようなモンスターも見える。
さらに進んでいくと大型のトンボや蝶のモンスターに遭遇した。
しかし、どれもそこまで強いモンスターではないので苦戦はしないだろう。
問題は小型の虫モンスターである。
かつてハーメルをテイムした時、知らず知らずのうちに弱いモンスターを屠っていた。
あの時は泥の中で生活しているモンスターだったので、気づかなかったなと思うだけだった。
しかし、弱いモンスターが空中で群れている場合は大変である。
特に羽虫のようなモンスターが虫柱を形成している近くを通る場合は、注意が必要だ。
危機意識が低いのか、近くを通ると平気でこちらに突っ込んでくる。
攻撃力も無く手で払っただけで倒せてしまうモンスターなのだが、纏わりつかれると鬱陶しいことこの上ない。
紙を食べるモンスターを気にして読書もままならないところに、辺りを飛び回る虫モンスターの羽音はストレスでしかないのだ。
「カレルは虫モンスター、平気なのか?」
「ガガー」
「何の事? だって(* ̄- ̄)」
カレルはその巨体ゆえに羽虫程度どうという事は無いらしい。
俺はカレルに申し訳なく思いながらも、カレルの体内空間に避難する事にした。
ヌエ、ジェイミー、ベルジュも虫モンスターは嫌だったらしく、俺と一緒に体内空間に避難している。
カレルだけだと住人やプレイヤーに攻撃される可能性があるので、カレルの上にはエラゼムに乗ってもらう。
俺が使徒化して何とか持ち上げる。付与魔法で自らのステータスを強化して何とか担ぎ上げる事ができた。
何かあれば、体内空間に入ってきてもらう予定である。
ようやく一息ついた俺は、先程までのストレスを忘れるかのように読書に没頭していく。




