208.ドヴェルグ連合④
俺はグリモに引き続き通訳してもらうよう指示した。
グリモから「(‘ω’)ノ」と返答が来たので、グリモのページに注目する。
「チュウ、チュウ、チュウー」
「少し進んだ先にさっきまでの通路と同じ大きさの空間があるみたいだよ」
「チュウ、チュッ、チュウ」
「足元に幾つか冷たい石があるって(*’ω’*)」
今俺がいる通路は元々ジメジメしてヒンヤリとした空気が立ち込めている。
それでもハーメルは強調するように冷たい石があると言った。
俺は特に冷たかった石を持ってくるようにとハーメルに指示する。
しばらくして、ハーメルが二つほど石を持って戻ってきた。
俺はハーメルから石を受け取り、観察してみる。
所々灰色の石が付いているが見た目は青く透き通っており、丸みがあった。
透き通った内側に筋のようなものが放射線状に伸びており、光の加減で煌めいて見える。宝石商のドキュメンタリー小説で挿絵に載っていたスターサファイアに似ている。
「キュキュー! キュッキューッ!」
「水の精霊が喜んでいるらしいよΣ(・ω・ノ)ノ!」
どうやら、水の精霊関係の結晶で間違いないようだ。
俺はハーメルに無理の無い範囲で取ってくるように指示する。
ハーメルは一声鳴くと、再び穴の中へ潜っていく。
往復する事数十回、大小様々な結晶を持ってきてくれた。
先程のスターサファイアのような結晶は無いものの、藍色や水色。水晶の結晶や板状の形状等、どれも水属性の精霊石だと思うのだがその見た目は千差万別だ。
後で、鉱石の本で調べてみよう。
ただ、闇属性の精霊石と思わしきものは無かった。
おそらくこの穴の先には水の精霊がいる、もしくはいたのだろう。
ログイン時間の限界が迫って来たところで廃坑を出る事にした。
ハーメルが言うには気になる鉱石はほとんど取りつくしたようだが、もう少し掘り進めばもっと精霊石が出てくる可能性は高い。
しかし、これ以上の採掘はもっと大掛かりな装備が必要になるだろう。
それこそ新しい坑道を作るくらいの準備が……。
穴掘りが得意な従魔もいないし、人海戦術も使えない。この辺りが潮時だ。
廃坑の出口で待機していたカレル達と合流した俺は町へと戻る。
今回手に入れた精霊石を調べるために、転移の扉が設置してある総合ギルドのある町まで進みたいところだが、ログイン時間的に次の町に向かうのは厳しい。
とりあえず、物品を整理すべくカレルの体内空間へ入り鉱石を大きめの袋に詰めて体内空間に置いておく。
長旅が始まって、カレルの体内空間が如何に便利であるかを痛感した。
ログイン時間内に総合ギルドに辿り着けない事が多くある。
その間に手に入れたアイテムがどんどん溜まっていく。
消耗品と取得物によりアイテムボックスが満杯になる事もままあった。
そういう時に食物や取得物をカレルの体内空間に保管しておけるのだ。
泣く泣く取捨選択する必要が無いのは大きい。
従魔用の食料をアイテムボックスに移動してから、カレルの体内空間から出てログアウトする。
再びログインした俺は露店のお婆さんに水の精霊石が手に入ったお礼をした後、町を出る。
お婆さんと話している時に、数人が走り去っていくのが見えた。
おそらく俺が取り残した精霊石を求めて廃坑へ向かったのだろう。
カレルの背に乗りながら鉱石関係の本を取り出し、今回手に入れた精霊石について調べる。
調べた結果それぞれ特性や形状は違うが、水属性の精霊石である事がわかった。
ただし、研磨が難しくフォローオラズに向かない物もあったので、その辺りはイトスかアートにでも売ろう。
そして、スターサファイアのような結晶であるが、現在俺の持つ資料では種類を確定する事は出来なかった。
ただ、放射状の筋は精霊の影響が強い精霊石に現れる事があるらしいことは分かった。
しかし、それ以外の特徴がいくつかの宝石に当てはまるので断定できない。
どちらにしろ、アートに加工してもらう事になると思うので連絡を入れておく。
アートからの返信はすぐに来た。
今は商談中との事で、折り返し連絡するそうだ。
俺は了解と返信した後、小説を取り出して読み始める。
……………………。
「これ何処で採って来た? というか1つ売ってくれ!」
転移の扉がある総合ギルドのある街までやって来た俺は、招待を受けてアートの工房に来ていた。
案件は伝えてあったので、早速とばかりに取って来た精霊石を見せている。
最初はその数を見て「運が良いな」くらいの反応だったのだが、その中にあったスターサファイアのような精霊石を見た途端発したのが今のセリフだ。
アートは俺に断りを入れてから白い手袋を嵌めると、貴重品を扱うようにそっと精霊石を持ち上げる。
様々な角度から眺め、挙句ルーペのようなものまで持ち出して念入りに見分していく。
しばらく待っていると、アートはゆっくりと精霊石を置いた。
「採ってきた場所を聞いといてなんだが、粗方取って来たんだろう?」
俺はアートに手に入れた経緯を掻い摘んで説明する。
俺の説明を聞いたアートは深く、それは深くため息を吐いた。
「残っていたとしても住人に持ってかれるだろうなー。あー、もし掘っている時に連絡が来たら人かき集めて大採掘を始めたのに! ……あ~でもその町付近に知り合いはいなかったかな? それなら住人でも採掘してもらった方がいいのか……」
「……そんなに珍しいのか?」
アートはやや呆れたような顔になりながら説明を始める。
レア度から言えば、アールヴヘイムで手に入る月光石程だそうだ。
月光石は採取する権利を持つ俺やアートからすれば、それ程珍しい物ではない。
しかし、他のプレイヤーからするとそうではないそうだ。
アールヴヘイムに行けるようになってからそれなりに経っているが、採取許可を取っているプレイヤーが少ないという。
そのうえ俺達の渡航した後に、アールヴ皇国側からアールヴヘイムでの採取に制限を設ける旨が伝えられたとか。
プレイヤーがアールヴヘイムへ向かう時は皇国の監視が付くことになってしまったらしい。
問題が起こったというよりは、最初に渡航した俺達の反応を見て必要性を感じたようだ。
すでに俺達が採取したものについては不問との事。
「権利を持っているプレイヤーは俺らみたいにアールヴヘイムでの目的を終えて、次の目的に移っている奴ばかりだ。必然的に流通量は少なくなる」
俺の場合かなりの数がアイテムボックスの肥やしになっているので実感は無いが、市場での価値はとんでもなく高いらしい。
……それと同等と言われるこの精霊石は一体。
「こいつはギヨドライト。これが近くにあると水の精霊が騒ぐらしい。水の精霊が騒いだ場所にできるとも言われてるが、まあいい。どちらにしろ、多くの水精霊がいないとできない珍しい精霊石だ。装備品への付与効果を考えると、お前のフォローオラズにしてしまうのは非常にもったいない」
素晴らしいフォローオラズになる事は保障するが、装備品にした方が効果は大きいはずだと力説された。
俺としてはフォローオラズにする気でいたので、どうしたかものかと考えを巡らす。
しばらくアートと話し合った結果、2つあるうちの一つをアクセサリーに加工してもらう事にした。
もう1つについては研磨だけをしてもらい、魔石晶従魔術でどのようなフォローオラズにできるか調べる予定だ。
報酬はフォローオラズにしにくい精霊石である。報酬としてはこれ以上ないそうで、アートはホクホク顔である。
「前にエフェクトをつけるアーツを見せたと思うが、良さ気なのつけるか?」
話がまとまったところで、アートから提案が出された。
エフェクトをつけるアーツとは、以前グリモのフォローオラズにつけた漫画的表現の事だろう。
アートが装飾品を作る時は、この提案をするのが定番らしい。
「その辺はアートに任せる。戦闘の邪魔にならなければなんでもいい。……あっ、それならこういうのはできるか?」
俺は以前ドヴェルグ連合で採掘した鉱石を取り出しながら、アートに思い付きを伝える。




