207.ドヴェルグ連合③
お婆さんから火屋水晶と採掘道具を買った次の日。俺はカレルに乗って近くの廃坑まで来ていた。
メンバーはハーメル、エラゼム、グリモ、カレル、ジェイミー、ヌエである。
ただし、今回洞窟の中に入る事の出来ないカレルと飛べないヌエには、廃坑の入り口でお留守番してもらう予定だ。
あの村の総合ギルドに転移の扉でもあれば従魔を入れ替えたのだが、無い物は仕方ない。
流石にあの規模の支部にそこまでの施設を求めるのは酷だ。
それくらい小さい村だったからこそ、品薄である精霊石が残っていたのだろう。
村の憲兵に廃坑について聞いてみたが、洞窟内で出てくるモンスターは強くてもDランクダンジョン相当だという。
そのうえ、精霊石で小遣い稼ぎをしようという住人が定期的に間引いているそうなので、遭遇頻度も少ないそうだ。
これなら、パラティのように強力なモンスターが襲撃に来る事は無いだろう。
廃坑は町から少し引き返したところの丘にある。
入り口は小遣い稼ぎに来る住人が整備しているようで、簡易的な休憩所のようなものがあった。
厩のような場所もあったが、カレルの巨体は入らない。仕方なくヌエと共に厩の近くで待機してもらう。
俺は光魔法を発動させて光源を確保してから、他の従魔を引き連れて廃坑へと入る。
中に明かりになるようなものは無く、松明があったであろう金具が等間隔で並んでいるのみだ。
ただ、取りつくされた廃坑をさらに採掘している為か、大きな通路の外壁は不規則に凹みができている。
お婆さんの情報ではここが廃坑になってからしばらくして、精霊が住み着いたと言われている。
住み着いた精霊の魔力に充てられてか、透明度の高い鉱石が程度の低い精霊石になるのだという。
稀に精霊の魔力が結晶化した高品質の精霊石も採掘される事もあるそうだ。
坑道を道なりに進むと徐々に道幅が大きくなっていく。
その壁には拳ぐらいの大きさしかない穴が無数にあった。時々、物音や気配のような物を感じる。
おそらく人為的にできた窪みをモンスターが住みかとして利用しているのだろう。
「キュー?」
しばらく進んでいるとジェイミーが何かを察知した。
警戒に当たらせていたハーメルはなにも感じ取ってはいないようだ。
他の従魔に待機してもらい耳を澄ませてみると、水滴の落ちるような音が聞こえる。
地底湖や地下水の話は聞いていないので、坑道の天井から雨水が滴っているのだろうか?
……警戒を任せていた従魔ではなく、ジェイミーが反応したとなると精霊関係の可能性がある。
水の音から考えるに水の精霊の可能性が高い。
俺はジェイミーに説明を求める。
すると俺の背中にひんやりとした空気が集まり始めた。
「キュ、キュー!」
しばらくすると、ジェイミーが右手? をある方向に向けた。
そこは坑道に掘られた横道であり、道幅は今の通路より一回り小さい。
一応全員通れるが一列にならないと進む事ができない為、戦闘になった場合は面倒な場所だ。
「あの先に何かあるのか?」
「キュー!」
「せいれいが騒いでるってー(`・ω・´)ゞ」
どうやら精霊術を用いて精霊と対話したようだ。
……どうも、精霊術の定義というか、使い方がよくわからない。
アーツはあるが、それ以外にもできる事があるようだ。
一応スキルの説明に『精霊に語り掛けて力を借りる術』とあるので、話を聞く事もできるのだろう。
ジェイミーの反応を見るに、そこまで危険なものは無いようだ。
俺達はジェイミーの案内の元、横道を進むことにした。
隊列は俺が先頭で背後をエラゼムに守ってもらう布陣だ。
道が狭く入れ替わるのが困難である為、採掘する関係上、俺が先頭なのは仕方ない。
まぁ、グリモを装備していてジェイミーを背負っているので個の戦闘力は1番高いのもある。
あとは近接戦闘特化のエラゼムが必然的に殿になったので、ジェイミーには真ん中で魔法による援護を指示した。
細い通路を進んでいくと、徐々に空気がひんやりとしてくる。
俺達が突き当りまで来た時には、じっとりとした湿り気を感じるほど湿度の高い空気が肌に纏わりついた。
服がペッタリと張り付く不快感を覚えながら周囲を見渡す。
この辺りの壁は表面を水が流れている以外は特に他と大差は無い。
「ジェイミー。どのあたりが怪しい」
「キュ……、キュ……。キュー」
「右ななめ上の方(/・ω・)/」
俺はお婆さんから購入したノミとハンマーを用いて、ジェイミーの指摘した辺りを削ってみる。
鶴嘴もあるのだが壁から水が滴っている場所なので、穴をあけて水が噴き出す可能性があるからだ。
……削り始めて1時間は経過しただろうか?
未だそれらしい鉱石は出てきていない。この間、コウモリ型のモンスターが顔を出したのでエラゼムの氷魔法で撃退した事を除いては何も無かった。
水の精霊が騒いでいるとの事なので、何もない事は無いと思うのだが……。
俺は一度手を止めて、アイテムボックスから鶴嘴を取り出してエラゼムに渡す。
「エラゼム。この辺りを鶴嘴で掘ってみてくれ。もし、水が噴き出すようなら横道出口まで戻って来てくれ」
「……!」
お婆さんから地下水は無いと聞いているので、大量の水が噴き出す可能性は低いだろうが一応用心しておく。
俺はエラゼムに先頭を譲り、いつでも逃げ出せる体制をとった。
エラゼムは溺れることが無いので、水が溢れてきた時は置いていく事になるだろう。
俺達がある程度距離を取ったところで、エラゼムが勢いよく鶴嘴を振り下ろす。
続けてエラゼムが鶴嘴を振り下ろしても、水が溢れ出すような事は起こらない。
しばらく掘り進めてもらうと、エラゼムが振り下ろした鶴嘴が根元まで深々と突き刺さる。
一瞬逃げ出そうとも考えたが、水が噴き出してこないのでエラゼムに鶴嘴を引き抜くよう指示した。
俺は恐る恐るエラゼムのあけた穴へ近づく。穴の先を覗くと、空間がある事がわかった。
ひとまず水が溢れる心配は無さそうなので、ノミを使って穴を広げていく。
しばらくして俺の顔が入るくらいの大きさまで穴が広がった。
穴の中を光魔法で照らすと、穴の先にそこそこ大きな空間がある事がわかる。
俺はハーメルに穴の先を確認してもらう事にした。
送り出す前に光魔法をエンチャントしたフォローオラズをハーメルの額に装着する。
ハーメルも慣れたもので、光の玉を浮かせながら穴の奥へと進んで行く。
小さな黒い影を見送った俺は調教術のアーツである「精神感応」を発動した。
「ハーメル。穴の先はどうなってる?」
「……チュウ、チュウ、チュウー……」
ハーメルは俺の質問に首を横に振る。今のところ変わった所は無いようだ。
そう思っていると、俺の手から振動が伝わってくる。
どうやら、グリモが何か言いたいらしい。
「……土じゃなくて岩でできているから、泥が少なくてやりづらいみたいだよー(._.)」
「え?」
グリモが先程ハーメルの言っていた事を翻訳したようだ。
しかし、ハーメルは調教術のアーツである「精神感応」越しに会話している。
「精神感応」はテイマーと従魔の1対1で発動するアーツだったはず……。
「グリモはハーメルの言っている事がわかるのか?」
「うん、分かるよ\(^o^)/」
「どうやって聞き取っているんだ?」
「(。´・ω・)?」
グリモは俺の質問の意図がわからなかったようだ。
「何で聞こえてないと思ったの?」 という様子である。
何か見落としているのだろうか……。
グリモは自らスキルを発動する事ができない。俺が代わりにスキルを発動する事でスキルの熟練度や経験値を得る事ができる。
スキルの習得度も同様だ。グリモが覚えたスキルを俺が使用していたものばかりである。
つまり、俺が経験している事をグリモが共有しているという事になるのだろうか?
それが数値上の事だけではなく、状態や状況も含むというのなら今回の事も説明できる。
ようは俺を通して「精神感応」越しに話しているハーメルの話を聞き取ったのだろう。
これは面白い発見かも知れない。
「チュウー⁉」
「何か見つけたみたいだよー(/・ω・)/」
ハーメルの声で思考が中断される。
今回の発見については後回しだ。
ひとまず、目の前の問題に集中する事にする。




