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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
9.旅路と図書館ダンジョン
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205.ドヴェルグ連合①

 春休みも開けて、俺は高校3年生となった。

 それはつまり、「abundant feasibility online」のサービスが開始されて1周年になったという事だ。

 ゲーム内では、それを祝して大々的なイベントが開催されるらしい。

 内容は単純。PVPと生産物のコンテストである。

 PVPの大会は以前あったクラン対抗イベントと違い、1対1やパーティー戦が主らしい。

 生産物コンテストについては武器や防具はもちろん、料理や家具のコンテストまで多岐にわたるようだ。

 

 ゲームの内外では各部門で活躍しそうな有名プレイヤーを上げていたり、プレイヤーが秘匿している情報がどれだけ出てくるか等、様々な事柄で盛り上がっている……らしい。


 ……まぁ、俺には関係ないのだが。


 ゲームが盛り上がっている一方、俺はと言えばAO入試の日程を消化していた。

 志望校の説明会へ赴き、事前に指定されていたレポートを提出。

 このレポートが合格となれば、5月の下旬ごろに数日に分けて小テストのような試験を受ける。

 以前より準備していたので、それ程焦る必要はない。しかし、念の為にこの時期から集中して勉強する事にした。

 

 春花も気を利かしてか、俺の前でゲームの話をしない。

 そもそも、会う事が減っているのでゲームのイベントに集中しているだけかもしれないが……。


 ……………………。


「時間になりました。用紙を裏返してください」


 俺は志望校のホールで最後の試験を終えた。

 試験は難しいものではなかったが、全ての日程が終わると解放感を覚える。

 後は結果を待つばかりだ。

 

 試験会場から家へと帰ってきた俺は、少し休憩を挟んでからゲームにログインする。

 マイエリアで目を覚ました俺は、従魔達と挨拶を交わしてから外へと出た。

 出た先は、ドヴェルグ連合国。


 AO入試の勉強に集中する前。イニシリー王国でアイテムを買い込んだ後、シャーロット師匠の工房を経由してやってきたのだ。

 何故かと言えば、ドヴェルグ連合国が知識の国に近いからだ。

 近いと言ってもイニシリー王国やアールヴ皇国に比べてであるが。


 既に旅の準備を整えている俺は、そのまま門へと向かう。

 今は6月も中旬に差し掛かっており、1周年イベントは1ヶ月以上前に終了している。

 ゲーム内は落ち着きを取り戻している……かというとそうでもない。

 道中には多くのプレイヤーを見かける。

 春花に聞いていたが、ドヴェルグ連合国でもユグドラシルへ行く方法が見つかったらしい。

 しかも、アールヴヘイムより渡航の条件が緩いらしく、多くのプレイヤーが集まっているそうだ。


 俺はそんなプレイヤー達を他所に厩へとやってきた。

 厩の中でも、特に広いスペースのある場所で従魔達を呼び出す。

 全員を呼び出す事は出来ないので、ベルジュ・エラゼムにはお留守番してもらう。

 何もない空間からカレルの巨体が現れる。魔法陣のある厩の柵ギリギリだ。

 周りの物を壊さないようにカレルを誘導しながら、厩を後にする。


 街の外に出てきた俺は少し道の外れたところへ移動した。

 俺はカレルに大口を開けてもらい、ハーメルにその中へ入ってもらう。

 ヌエは空へ舞い上がり、シラノはカレルに並走するのでそのまま。それ以外の従魔はスキル「使徒化」を発動した俺と共にカレルの上へ移動する。


 しばらくはこの陣形での旅となる。

 ただし、レベルや旅先での相性をみて連れていく従魔を交代していく予定だ。

 この旅で従魔が増える事があった場合は、即戦力なら旅のローテーションに追加するが、そうでは無い場合は……残念ながら待機となるだろう。

 

 カレルの背に着地した俺は背負っていたリュックサックからジェイミーを下ろす。

 俺は「調教術」のアーツ「精神感応」を使用してカレルに指示を出した。カレルの体躯が大きすぎて、このアーツを使用しないと指示一つ伝えるのも難しいのだ。

 俺の指示を受けたカレルはゆっくりと街を離れるように進み始める。


 カレルは進みだしこそ遅かったものの、ある程度加速してくれば普通の馬車よりも早い。

 ただし、小回りは効かないらしいので、戦闘時は俺達で守る必要があるだろう。

 俺はシラノに周囲の警戒を指示してから、運営からのメールを確認する。


 このメールは1周年記念イベントの終了直後に来たものである。

 どうやら、重大発表があったらしく受験生であるクラスメイトも話題にしていたほどだ。

 その内容というのは以下の通り。


1.レベルキャップを100まで解放

2.今後()()()()()()()の上限を開放する予定は無い。

3.エピローグクエスト関係の情報を公開

4.新種族「ハーフ」の追加

5.今後のアップデート予定の一部公開


 1つ目はある程度予想できた事だが、問題はそれ以降。

“今後レベルキャップの解放は無い”。この宣言は、サービスが始まって1年のゲームでは異常な早さだと思われる。

 確かに体感時間の延長がある為、実質3年間なのだがそれでも早いはずだ。


 これにはレベルキャップに近いプレイヤー達から不満も続出するのではないかと思うが、そうでもないらしい。

 その理由は、残り3つの発表にある。


 まず、俺も出現させているエピローグクエストについて、追加情報の公開。

 1つはプレイヤーが予測していた、難易度の高いクエスト程発生条件が緩いというもの。

 そして、エピローグクエストをクリアして手に入れた「新たなる可能性」で新規アカウント作成する場合、スキルを一部引き継げるらしい。


 本来キャラメイクで選べるスキルは5つであるが、「新たなる可能性」を手に入れたキャラクターから追加で3つ程スキルを選べるそうだ。

 もちろん、上位スキルや職業スキル等は選べない。そのうえ、レベル10に到達しているスキルに限られる。

 それでも、開始時の手間をある程度軽減できるのは大きいはずだ。


 この情報の公開に合わせて種族「ハーフ」が追加された。

 新種族「ハーフ」は課金アイテム・エピローグクエスト報酬問わず、「新たなる可能性」で新たなアカウントを作成する時に選択できる。

 種族「ハーフ」は文字通り2つの種族の混血であり、指定された2つの種族の特性を獲得できるらしい。

 「ハーフ」である為に本来の特性より得られる効果は低くなるようだが、組み合わせによっては大きな力になるだろう。

 「ハーフ」の上位種族については、進化可能とだけ発表されている。

 2つの種族のうち、どちらかの上位種族になるのか、「ハーフ」ならではの進化先があるのか……。「新たなる可能性」の所有者がほとんどいないので、今後の検証次第といったところだ。


 そして最後。今後のアップデート予定についてだが、この情報こそ今回の目玉だろう。


 現在プレイヤー達は全て、イニシリー王国の始まりの町からスタートしている。

 しかし、「新たなる可能性」を手に入れるプレイヤーが増えれば、新規参入組と合わせて始まりの町がプレイヤーであふれるはずだ。


 そこで、イニシリー王国とは別の初期スポーン地点を新たなマップごと追加するらしい。

 追加されるマップの規模は明記されていないものの、かなり大規模となるようだ。

 この新マップ実装の際は、新種族・新ジョブ・新モンスターに至るまで、超大型アップデートになると明言されていた。


 この発表にプレイヤー達は沸き立ち、現在はエピローグクエストの発見及び攻略に勤しんでいる。

 俺もオラズ・テイマーのエピローグクエストを開放しているが、クリアするのは不可能に近い。

 「司書」の職業エピローグか本に纏わるエピローグクエストなら……といったところだろう。


 通知の内容を読み終えた俺はメール画面を閉じると、アイテムボックスからアールヴ皇国で貰った本を取り出す。

 俺は近くにいるジェイミーに何かあれば声をかけるように指示した後、エルフ語で書かれた本のページを捲り始めた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前話で盛大にネタ振りしておいてからの華麗なスルー、本を読むためにという目的がぶれないの好き。 [一言] だが大会入賞の賞品が珍しい本だったならば? いやそれでもないか、わざわざ大会にでな…
[良い点] カレルが本当にモグってした! いや、いやいやいや、四次元ポケットみたいなのがお腹に付くのかなと思ってたら本当にモグって!
[良い点] 普通なら焦点があたるであろう1周年イベが全カットなのがこの作品らしくてすきですw ウィングくんの行動方針としても参加する意義ないですから一貫してると言えますね
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