200.シークレットクエスト再び
所用を済ませた俺は再びログインした。
今度こそシークレットクエストの報酬を確認するべく、白亜の鍵を取り出そうとする。
その時、ある物が目に入った。
禁書庫の鍵 どこかの国にある、閲覧を禁止されている本が納められた書庫の鍵。
耐久値 ∞
譲渡不可・ロストなし
クローレン・オリコットのシークレットクエストをクリアした時に手に入れたこの鍵。
ノーヒントな事がヒントという前提で、禁書庫という情報しかないならその単語が重要であると予想した。
その為、あらゆる本が集まるという知識の国で使う物だと判断したのだ。
しかし、“ある国”、“ある場所”と書いておきながら、それを見つけた場所がその“ある国”や“ある場所”であるというのもよくあるパターンではある。
使用する場所を明記されていなかったので、いつでも使えるようにアイテムボックスに入れたままにしてあった。
白亜の鍵を取り出す時に禁書庫の鍵も一緒に取り出す。
同じ言語で発生しているクエストなので、もしかしたら情報を引き出せるかもしれないと思ったのだ。
まぁ、何か起きたら儲けものだろう。
従魔達に留守番を頼みマイルームから総合ギルドの転移の扉へ転移した俺は、白亜の鍵を持った状態で転移の扉を使おうとしてハタと気づく。
今現在俺の周りにはプレイヤー・住人問わず多くの人が行き来している。
もしここで特殊なエフェクトが発生すれば、注目されるのは確実だ。
もっと人の少ない場所、時間帯で行うべきか?
そんなところがあるのかわからない。
そもそも転移の扉を指定されている時点で人目に付くのは避けられないか……。
俺は特殊なエフェクトが出ない事を祈りつつ、転移先を指定するウインドウの「白亜の鍵」を選択する。
「メッセージを受け取りしものよ。汝が何の祝福を受けるに値するか確認させてもらおう」
転移した直後、辺りを確認する間もなく正面から声をかけられる。
声の聞こえた方に視線を向けると、何時ぞやの光の人型がいた。
人型のセリフから、また試練という名のクイズゲームが始まるのかと身構える。
しかし、今回は様子が違った。光の人型が俺に向かって右腕を構えると、俺のログ画面が勝手に開きスクロールを始める。
ログ、ワールドレコード、エピローグ全ての画面が次々と表示されていく。
しばらくしてログの最終ページまで行くと、ウインドウが閉じた。
「旅人としてしっかりと役目を果たしているようだな。そして司書として次点でテイマーとして世界と関わる事が多いようだ。ならば……」
光の人型は片膝をつき、両手を組んで祈るような姿勢を取った。
すると、俺と光の人型の頭上から光が降り注いだ。白色の光の中に金色の綿毛が揺らめく。
俺の視界が金色の光に包まれる。
視線を落とすと、俺の体が全体的に発光しているのがわかった。
俺を包む光は徐々に強くなっていき、何も認識できない程辺りを明るく照らす。
どれくらい直立不動でいたのかわからない。
視界が回復してきて、辺りの様子が見えてくるとあまりの光景に目を細める。
俺の視界に入ってきたのは圧倒的な白だった。
どうやら、大きな図書館のような場所に移動したようなのだが、天井・壁・床は勿論、机・椅子・本棚・本棚に収められている本に至るまで、全てが真っ白だった。本の背表紙にタイトルすら書かれていない。
天井から照らす光を受け伸びている影のおかげで、辛うじて物の位置を把握する事ができるというありさまだ。
あまりの光景に呆然と佇んでいると、床が緩やかに煌めきだす。
黄金の光は俺の足元を始点として、真っ直ぐ正面に伸びていく。まるで“進め”と言っているようだ。
俺はその光に従い、ゆっくりと踏み出す。
光る床に沿って本棚の間を進んでいくと、やや開けた場所に辿り着いた。
開けた場所の中央には純白の丸いテーブルに純白の椅子が2つ。その片方に腰を掛け、ティーカップを傾けている男性? がいる。
背中に光輝く何対もの翼を背負う姿は、まごうことなく天使だ。
色白の肌。金色の瞳。右目にはモノクルを付けていた。
髪型は藍色の長髪を首辺りで一度まとめており、その上には黒い学子帽が乗っている。
天使? と思われる男性は俺の存在に気づき、ティーカップを下ろした。
「祝福を受ける資格を持つものよ。そこでは話しづらい。こちらへ来なさい」
俺は天使と思われる男性に勧められるがままに、空いている椅子に腰かける。
それを確認した天使と思われる男性が指を鳴らす。すると、どこからともなく湯気の立ち昇るティーカップが飛んできた。
ティーカップは俺の目の前で静止し、ゆっくりとテーブルの上に着地する。
「よく来てくれた。我が主が招き入れた者よ。私は神の補佐。君達には天使といった方が分かりやすいだろう。個体名はウィスエル。主に知識に関する事柄を管理している」
「……お招きいただきありがとうございます。私の名前はウイング。職業は司書とオラズ・テイマーです」
「そこまでかしこまらなくてもいい。唐突に呼ばれて困惑していると思うが、本当に祝福を与えるために呼んだだけなのだから」
俺が驚きながらも自己紹介をすると、ウィスエルはニコニコしながら語り始める。
ここは創造神インフの元、世界の様々な事を管理する場所。その中でも司書系に属する職業を管理する部屋であるという。
天界にはこのような部屋は職業・スキルなど、この世界の事柄の数ほどあるそうだ。
「そして、その中でも我が主の意を汲んだ行動をとり、尚且つ自力でここに辿り着いた者には祝福を与える事になっている。」
創造神インフの意を汲むというのは、シークレットクエストの説明文にあった通りだ。
こちらの条件は積極的に活動するプレイヤーなら、それほど難しくないと思う。
しかし、自力でここまで辿り着くというのは相当困難な気がする。
俺も以前のシークレットクエストを受けていたから、すぐにピンときただけだ。
ここで自分が“禁書庫の鍵”を握りしめていた事を思い出す。
俺はウィスエルに見えるように握りしめた拳を開く。その様子を不思議そうに眺めていたウィスエルは掌に乗る鍵を見て合点がいったような表情になる。
「確か君は我が主の余興に招かれたのだったな。ならば、ここへの道を見つけたのも楽だったかもしれない」
先程人型が確認した俺のプレイログは、ウィスエルにも共有されているようだ。
ウィスエルの反応を見るに他のシークレットクエストを知っていれば、このクエストを見つけやすくなるらしい。
……というかウィスエルの反応を見るに運営=創造神インフなのか?
もしくはシークレットクエスト全般が創造神インフの管理下にあるのかもしれない。
「どういう目的でそれを手に握っていたのか、何となく察する事ができる。しかし、それについては自分で調べる事だ。せっかく主が用意した余興なのだ。私が水を差すわけにはいかないよ」
どうやら、この鍵について詳細を知っているようだが、教える気はないようだ。
創造神インフ(運営?)が用意した余興を、神の補佐が邪魔をするわけにはいかないと言われれば納得するしかない。
「さて、前提は話し終えたな。そろそろ本題に入ろう」
そういったウィスエルは再びティーカップを口に運ぶ。
本日もう1話投稿します。




