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199.創世神話

“ 世界にはさらにその外がある” 



 創世神話はその一文から始まった。



“ 無限に広がるそこにはまた多くの世界が存在し、基本的には他の世界と不干渉を貫いていた。

 円い世界、平らな世界、不定形の世界。

形はおろかことわりすら、まるで違う数多の世界。

 神が管理する世界もあれば、不浄なるモノが管理する世界もある。もちろん誰も管理していない世界も。


 ある時大きな災いが起こる。

 何者も管理していなかった世界が他の世界に干渉し始めたのだ。

 原因は分からない。

 しかし、距離という概念の存在しない世界の外側では、忽ち大災害に発展していく。


 世界同士が干渉するという事は、例えわずかな接触だけでも大きなエネルギーを生む。

 干渉された世界では大災害が発生し、最悪世界の在り方そのものに変化を与えていく。

 そして、数多の世界に干渉したその世界は、干渉した時発生した莫大なエネルギーを内に留めておく事が出来なかった。

 世界そのものに穴を開けながら其処ら中に放出し始めたのだ。


 それぞれの世界を見守っていた者達は、その世界を危険視。

 この世界を抹消しようとした。

 しかし、無数の世界に干渉し、数多のことわりを内包した世界は他の世界を管理する者達の法を受け付けない。


 そこで白羽の矢が立ったのは我らが創造神インフ様である。

 創造神インフ様が何処から来たかはわからない。

 しかし、どこの世界も管理しておらず、「創造」を司る神であったインフ様は破壊と創造を繰り返しながらその世界を新生させた。

 この時エネルギーの放出で開いた穴が世界の歪みとなり、のちのダンジョンと変異していく。


 世界を安定させていく中で、インフ様はある事に気づく。

 この世界は数多の世界の理が干渉し合い、綻びを修復できない箇所が多くある事に。

 綻びは一朝一夕では、インフ様の力だけでは解決できなかった。

 本来創造とは神の御業により行うものではない。

 その世界を生きる者達が娯楽あるいは必要に駆られて新たなものを生み出す。それこそが正しい姿なのだ。

 

 そこでインフ様は他の世界に協力をしてもらう事にした。

 干渉された世界で生きる者達を自分が修復した世界に住まわせる。

 最初は理、文化もまるで違う者達あるいは生物達は諍いが絶えない。

 しかし、その者たちが何らかの交流をしていく事で様々な世界から取り込んだ理が徐々に混ざり合い、新たな理として世界に定着していった。


 創造神インフ様はある程度世界が安定したところで、種族同士が争いばかり起こしている状況を変えるために一石を投じる。

 現在我々が常日頃、話し、聞き、あるいは読み書きしている共通語を授けたのである。


 全ての者達が共通語を使い、互いの意思を伝える事ができるようになった。

 人々の交流は争いばかりでは無くなり、時には協力し対立しても舌戦で解決できるようになった事で、今日に至る文化あるいは歴史を作っていく事になる。”



 分厚い本に綴られた創世神話の内容を要約すると大体こんな感じだ。

 ところどころ整合性が取れていなかったり、脈絡が無かったりするところも多いが創世神話なんてそんなものだろう。

 アールヴ皇国のワールドクエストを考えると、しっかり記録が残っている方である。

 ハイエルフ達の話的には招かれたというニュアンスだったが、この話からするにアバンデントの方が招集した感じだ。


 神官系のプレイヤーなら最初からこの話を知っていたわけだから、他の世界の存在は知っていたはずだ。

 ユグドラシルで加熱する前から別の世界を探していたプレイヤーがいたかもしれない。

 ただ、他の世界と繋がっている事を仄めかすような内容が殆どないから、様々な種族が生活している理由としてしか見られていなかった可能性もある。

 今となっては重要な情報の宝庫なわけだが……。


「……えっ?」


 創世神話を読み終わり見返しまでページを捲った時、ある物が目に入る。

 それはとても懐かしく、しかし絶対忘れはしないもの。

 かつて見つけた時の如く、真っ白のページの真ん中にシミのような文様があった。

 今回は確信を持って、そのシミのような文字を凝視する。

 すると、予想通り読めるようになった文章が浮かび上がった。


‟汝、祝福を望む者なりや?”


 俺は予想外の文章に声を上げそうになり、慌てて口を押える。

 文章が浮かび上がるのは予想通りだが、問題はその内容だ。

 短い文章とはいえ、全て読めているのはおかしい。

 エルフ語の様にスキルが発現している訳ではないどころか、言語の名称すら知らないのだ。

 

 俺が驚いている間に事態は進行していく。

 文章を読み切ったところで、シミのような文字がわずかに発光する。

 光が消えた後には、シミのような文字があるページの上に純白の鍵が出現していた。

 俺は恐る恐る鍵を手に取る。



≪シークレットクエスト 神の祝福 の条件を満たしました。

 ‟白亜の鍵”を転移の扉で使用するクエストを開始します。

 ‟白亜の鍵”は一度使用すると、消滅します。

 このクエストはログアウトを除く途中離脱ができません。

 やむを得ず途中離脱した場合は、二度目を受ける事が困難です。

 よく考えて実行してください。≫



 鍵を手に取ったところでアナウンスが流れた。

 アナウンスの内容も気になるが、とりあえず手元にある鍵を確認する。



  白亜の鍵  素材不明な純白の鍵。転移の扉で使用する事で創造神インフの領域へ行ける。


 耐久値 ∞

 譲渡不可・使用以外でのロストなし



 わざわざ創造神インフの領域へ行けると書いている事から、アバンデントのどこかというよりは神の領域、神界や天界のような場所へ行ける鍵という事か……。

 鍵の説明文にシークレットクエストについて何も書かれていない事から、このクエスト専用アイテムでは無いようだ。

 白亜の鍵は創造神インフがプレイヤーを天界に招くためのアイテムなのだろう。


 俺は白亜の鍵をアイテムボックスにしまい、創世神話の本を国定司書の女性に返却する。

 まだ読書できる時間はあるものの、シークレットクエストの衝撃で興が削がれてしまった。

 一先ず落ち着いた場所でシークレットクエストの内容を確認したい。

 俺は国定司書の女性に礼を言い、王城を後にする。

 

 マイルームへと戻った俺は、メニューのログからシークレットクエストの内容を確認する。

 このシークレットクエストはプロローグで語られたプレイヤーの使命を果たしているプレイヤーへのご褒美という位置づけらしい。

 俺で言えば、アールヴ皇国でワールドクエストに参加したのが良かったのだろう。

 褒美の内容については、白亜の鍵を使用した先で説明されるようだ。

 注意事項としてはアナウンスでもあったようにログアウト以外の途中退出が認められていないので、シークレットクエストを始めるタイミングは熟考してほしいとの事らしい。

 こういう説明があるという事は途中退出したくなる事柄があるのか、長期間拘束されるようなクエストなのだろう。


 現在の俺はと言えば、修行と読書を繰り返す日々。

 知識の国を目指している為、逸る気持ちはあるものの途中棄権したくなるような事柄は無い。

 シークレットクエストが発生した経緯から司書、次点で神官系の報酬があるのではないかと思う。

 思いつく辺りでは聖典のような装備品か、あるかわからないが司書・神官共通の上位職か。

単純にプレゼントボックスやスキルスクロールという事も考えられる。



 

 しかし、神聖系・光系の上位職だった場合、アールヴ皇国の屋敷にいる霊象モンスター達はどう反応するか……。

 キレーファは神聖・光属性が苦手と言っていた。

 常時発動するタイプのスキルないし特性のようなものであれば、リア達との関係が拗れるかもしれない。


 ……結局報酬がどういうものかわからなければ、判断のしようがないか。

 白亜の鍵で転移して、報酬を確認してから考えよう。

 説明文的には断る事もできそうだし、報酬と言いつつ此方にデメリットのあるモノを押し付けてくる事もないだろう。


 意を決して立ち上がった時、アラーム音が聞こえて来た。

 どうやらログアウトしなければならない程、時間が経過していたらしい。

 確かに長時間ログインしていたが、報酬を確認する時間も無いようだ。

 俺はなんとも言えない気分になりつつ、ログアウトする。


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― 新着の感想 ―
[一言] ( ̄□ ̄;)!!追いついてしまった~ (//∇//)わくわくしながら、次を待ちま~す
[良い点] ワクワクしますね! >単純にプレゼントボックスやスキルスクロールという事も考えられる。 いや、可能性はなきにしもあらずですが、呼び出されてご褒美がプレゼントボックスだったら笑いますよウ…
[良い点] これはいい世界観設定。 まだまだ見ていない世界は多いとはいえ使命果たしちゃったらやることも少なくなりそうだし追加クエストくらいはあるか。
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