197.管理人? 探し結果
「毎度ありがとうございました!」
テイマーギルドには似つかわしくない言葉が俺の背中にかけられる。
それも仕方ないかもしれない。
今後必要になりそうな物をまとめ買いしたのだ。
アールヴ皇国からの報酬で余裕はあるとはいえ、ゲーム内で1番の散財をしたかもしれない。
俺は急いで総合ギルドに戻ると、転移の扉でアールヴ皇国の屋敷へと転移する。
転移した部屋は、リア達が掃除したのか、転移する前より綺麗になっていた。
歩く度に舞っていた埃はきれいに無くなっており、心なしか部屋が明るくなっている。
俺はカルロとメリーを連れてホールに向かう。
「リア! マムラー! ジャック! ちょっと来てくれないか!」
俺が呼びかけると、2階にいたらしい3体が階段からやってくる。
3体は俺の後ろにいるカルロとメリーを視認すると、俺達とやや距離のある場所で制止した。
……急に従魔を増やしてしまったが、大丈夫だろうか?
先程もジェイミー達から逃げ回っていたばかりだ。俺ですら性格を把握していない2体とうまくやっていけるのか、急に心配になってきた。
どうも今までテイムしてきた従魔達がうまくいっていたから、その辺りの感覚が鈍いようだ。
リア、マムラー、ジャックにカルロとメリーを紹介する。
霊象モンスターの3体は新しく来た2体に近づくような事はせず、遠巻きに探るような動きをする。
カルロはメリーと霊象モンスターの間で視線(目は無いが)を漂わせてオロオロしているように見えた。
「ここにいる5体にこの屋敷の管理を任せたいと考えている。しばらくは定期的に見に来る予定だから、何かあれば言ってほしい」
俺の発言を聞いて、メリー以外の従魔達に緊張が走る。
……さっきからメリーは特に反応を示してないな。
「メリー?」
俺の呼びかけに反応したわけでは無いようだが、メリーはカルロを置いて3体に近づいていく。
メリーの行動に何か思うところがあったのか、リアが恐る恐る前に進み出た。
2体が相対した事で緊張感はピークに達する。
まぁ、双方の容姿に迫力は無いのだが……。
そこにいる者達が固唾を飲んで見守っていると、メリーが右手を差し出す。
リアは困惑しながらも、その手を取った。
軽く上下に振られるのを見て、俺の口から息が漏れる。
他の従魔達もホッとしたような様子だ。
まだ探り合うようなぎこちない交流ではあるが、仲良くやろうという意思がある事はわかった。
俺は従魔達の様子を見守りつつ魔給の水晶を置ける場所を探す。
屋敷内を回った結果、ホールにあった台に置いておく事にした。
おそらく彫刻のような物を置いていた物と思われる。
台の上にクッションを置いて、その上に水晶を置く。
これで設置扱いになったようで、水晶の中心部が仄かに輝きだす。
「ん?」
水晶のチェックをしていた俺の肩が叩かれる。
振り返れば、マムラーが目の前にいた。
マムラーは俺が渡したハタキを掲げ、ハタキを持っていない方の手でカルロ達を指さす。
どうやらカルロ達の道具を用意してほしいようだ。
俺はカルロに用意していたモップを渡す。
全員で屋敷の清掃をしてほしいと指示をしたところでログイン時間が限界に来ていたので、従魔達に声をかけてからマイルームでログアウトした。
……………………。
所用を終えて、再びログインする。
ゲーム内の時間で3時間。
うまくやっているだろうか……。
マイルームでアイテムボックスと保管庫のアイテムを入れ替えてからアールヴ皇国の屋敷へと向かった。
……俺の心配は杞憂だったのだろうか。
俺の目に飛び込んできたのは宙に浮く箒と塵取りだった。
ホールを見渡せば、天井辺りをマムラーとジャックが飛び回り、カルロが床をモップがけしている。
そしてホールの中心でリアが彼方此方に指示を飛ばし、その横でメリーが予備で渡していた掃除道具を操っていた。
あの後何があったか知らないが、うまく打ち解ける事ができたようだ。
俺が戻ってきたのを察した従魔達は作業を中断して、俺の下に集まってきた。
……俺とは少し距離を取って。
「どうやら打ち解けてくれたようで嬉しい。今後もよろしく頼むぞ」
「「「「「……!」」」」」」
全員が頷くなり手を上げるなりして、肯定の意を表明する。
ファントムやカースドールには口があるのだが、発声はできないらしい。
「さて、さっき話したと思うが、君らにはこの屋敷の管理を任せると話したと思う。掃除や見回りもそうだが、もう一つ頼みたい事がある」
そう宣言した俺は、従魔達を引き連れて書斎へ移動する。
埋め込まれている本棚には数十冊の本が納められているだけで、ほとんど何も入っていない。
俺は連れて来た従魔達に向き直り、ここにいる従魔達に事の経緯を説明する。
大量の本と屋敷を同時に手に入れたが、管理に苦慮している事。
自分の師匠が従魔に建物を管理させていた事を思い出し、自分も同じ事をやろうと考えた事。
ここにいる5体にはこの屋敷を任せたい事を伝えた。
黙って聞いていた5体はしばらくして俺を見る。
そしてそれぞれの顔を見合わせた後、俺に頷いて見せた。
どうやら、了承という事らしい。
俺は床にシートを敷いて、保管庫にしまっていた本を百冊ほど取り出す。
持ってきた本は修理の終わった本と読み終わった本が殆どだ。
本当はざっくりとアールヴ皇国で手に入れた本を管理させたかったのだが、傷んだままの物が多い。
風化する恐れのある屋敷に置いておくのは心もとないのだ。
「この屋敷に置いておく本は傷んでいく可能性がある。だから定期的に本棚から取り出して状態を確認してほしい」
「「「「「……」」」」」
そう。いきなりこれ程従魔を増やした理由はこれだ。
ゲームが始まって一年。
土地を手に入れたプレイヤーないしクランはいくらかいる。
今のところ故意や事故により物品が壊れる事はあっても、自然に壊れたという話は聞かない。
しかし、掃除をしていないと埃が溜まりがちになるというのは多数報告されている。
劣化しないと考えるのは、楽観視しているとみるべきだ。
多少傷ついた程度なら俺が修復する事ができるが、古本屋にあった本の様に紙屑判定を受けてしまうとどうしようもない。
従魔達はこれこそが本命であると理解してくれたらしく、大きく頷いてくれた。
説明を終えた俺は従魔達と一緒に取り出した本を本棚へとしまう。
2時間程して埋め込まれた本棚に隙間なく本が収納された。
それでも幾分か本が残っているので、折を見て本棚や収納用の家具を置いていきたい。
「よし、ひとまずこれで大丈夫だろう。皆ありがとう。今はここだけだけど今後少しずつ本棚は増えていくはずだ。もし、管理が大変になってきたら増員ないし皆をレベルアップさせるかもしれない。要望があれば遠慮なく言ってくれ!」
「「「「「……!」」」」」
色よい返事を受け満足した俺はテイマーギルドで購入したアイテムをマイエリアに設置すべく、転移の魔法陣でマイルームへ飛んだ。
後に俺の屋敷はアールヴ皇国でちょっとした名物となった。
皇都の外れにある寂れた屋敷。その中では夜な夜な光の玉や白い影が浮遊する本の間を飛び回り、大小様々な人形が歩き回る。
人形の足音以外聞こえない静かな空気がなんとも言えない雰囲気を醸し出す幽霊屋敷と。
紛争時に持ち主の無念が屋敷に宿ったのではないかと噂が立ってしまった。
アールヴ皇国とテイマーギルド、司書ギルドから注意を受けたのは言うまでもない。
連続投稿はこれで最後です。




