196.管理人? 探し⑤
しばらくして屋敷1階にいるモンスターの殲滅を終える。
人数差があるとはいえ、Cランクダンジョンの1階層程度なら苦戦する事は無いようだ。
前回のお試しで入ったダンジョンは戦闘よりギミックに苦労したが……。
ともあれ、残ったウッドドールは2体。
槍を持っているタイプとモップを持っているタイプだ。
テイム中に別のウッドドールが襲ってきても面倒なので、槍を持っている方を従魔達に任せる。
俺はモップを持った方のウッドドールに相対した。
ウッドドールはモップを俺に向けて構えている。
俺はジリジリと詰め寄ってくるウッドドールに対して左手を翳す。
「テイム!」
≪ウッドドールのテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
≪パーティーの上限を超えてモンスターがテイムされました。新しい従魔をマイエリア・ルームに転送する事ができます。
転送しない場合はログアウトまでに自分の持つエリア・ルームもしくはテイマーギルドに預けてください。
※パーティー上限を超えた状態が長時間続くと、新しい従魔から信頼度が下がっていきます。≫
なんとも呆気なくテイムが成功した。
ダンジョンのモンスターは基本的に感情というものが無いので、テイマー側のステータスが高ければ高い程成功確率が上がる。
従魔達はともかく俺自身は既にCランクダンジョンをクリアしているようなステータスなので、あっさりテイムが成功したのだろう。
「チュウ!」
ウッドドールをマイルームに転送していた俺の耳に、ハーメルの驚く声が聞こえてきた。
何事かと思いそちらを見やれば、槍を持ったウッドドールの姿が無い。
エラゼムは俯き、ヌエはあらぬ方向を見ている。
どうやら、ダメージを与えすぎてウッドドールを倒してしまったようだ。
俺はオロオロしている従魔達に声をかける。
「気にするな。テイムする為の戦闘は初めてだったんだ。1体はテイムできたんだから失敗じゃない。何ならダンジョンに入り直してもいい」
「……」
「クー」
俺は従魔達を引き連れて屋敷の奥にある階段へと向かう。
階段は2階へと上がる階段と地下へと降りる階段があった。
ダンジョンを攻略するにはどんどん地下へ降りていく必要があるので、降りるのが正解だ。
では2階には何があるかと言えば、ダンジョンから脱出できる転移用の魔法陣がある。
2階にいるモンスターを殲滅すると奥に魔法陣が現れ、ラビンスの総合ギルドへと戻れるのだ。
プレイヤー間では、ホラー耐性の無いプレイヤーへの救済処置ではないかと言われている。
仲間と共に入ったのは良いが、耐えられず脱出したい人向けという事だ。
俺は迷わずに2階へと歩を進める。
2階で登場するモンスターは、1階とほぼ一緒だ。
しかし救済処置の為か、基本的に奇襲するタイプモンスターは出てこない。
先程よりも楽に戦闘を進める事ができるだろう。
……フラグのつもりは無かったのだが、俺の顔目掛けてシャンデリアが飛んでくる。
俺は火魔法でそれを撃ち落とした。
従魔達に近くのモンスターを相手してもらいながら、飛んでくるインテリアの原因を探す。
すると、ウッドドールやリビングアーマーに隠れて小さな人形が動いているのを見つけた。
それが手を振ると、近くにある椅子や花瓶が宙に浮かぶ。
その姿を確認した俺は予定を変更する。
「全員、モンスター達の足元にいる人形への攻撃はするな! あれをテイムする!」
俺の指示のもと、従魔達は殲滅を開始する。
小さな体をした人形に攻撃が当たらないように、時間をかけた殲滅戦となった。
しばらくして、俺と人形が対面できる状況が出来上がる。
その人形は水色のボンネットにフリルが盛りだくさんな水色のドレスを着たビスクドールだった。
ガラス玉のような青い瞳は真っ直ぐに俺を見据えている。
「テイ……」
「チュウ!」
テイムしようとしていた俺は、ハーメルの声で咄嗟に横へ飛ぶ。
直後俺の背中側からタンスが飛んでくる。
そのままあらゆる場所から家具を引き寄せてバリケードを作ってしまう。
しかし、これならあの人形を傷つける可能性は無くなった。
俺は従魔達と共に、残ったモンスターの殲滅を優先する。
≪カースドールのテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
≪パーティーの上限を超えてモンスターがテイムされました。新しい従魔をマイエリア・ルームに転送する事ができます。
転送しない場合はログアウトまでに自分の持つエリア・ルームもしくはテイマーギルドに預けてください。
※パーティー上限を超えた状態が長時間続くと、新しい従魔から信頼度が下がっていきます。≫
苦戦したもののテイムを無事に完了した。
あの人形、カースドールはこの幽霊屋敷ダンジョンで現れる少しレアなモンスターだ。
恐ろしい名前であるがダンジョン産のカースドールは魔法生物なので、それ程恐れるようなものではない。
これが霊象モンスターだった場合はテイム非推奨であり、即時討伐が推奨されている。
名前の通り、恐ろしい呪いが降りかかるとかなんとか。
カースドールをテイムした事で2階のモンスターは全滅となったらしく、バリケードの辺りに魔法陣が現れている。
これ以上留まる理由も無いので、従魔達を連れて魔法陣を使いダンジョンを脱出した。
NAME「カルロ」 ウイングの従魔
種族「ウッドドール」LV17 種族特性「魔法生物」「木性」
HP 120
MP 130
筋力 16
耐久力 13
俊敏力 12
知力 14
魔法力 16
スキル
「掃除 LV5」「棒術 LV3」
NAME「メリー」 ウイングの従魔
種族「カースドール」LV14 種族特性「魔法生物」
HP 20
MP 260
筋力 5
耐久力 3
俊敏力 5
知力 10
魔法力 30
スキル
「呪術 LV1」「念動力 LV3」「闇魔法 LV1」
マイルームへと帰ってきた俺は先程テイムした2体に名前を付ける。
ウッドドールは有名な人形のお話の作者から。
カースドールの名前は都市伝説のメリーさんからもらった。
ウッドドールはモップを持っていた事から、掃除スキルを持っている。
屋敷の掃除にはもってこいだろう。
そして、カースドールがインテリアを浮かせていたのは念動力というスキルによるものだ。
MPを消費する事により対象にした物を浮かせて移動させる事ができる様だ。
浮かせることができる物の重さは、魔法力に依存するらしい。
このスキルは屋敷内の掃除や整理に大きく貢献できる事だろう。
俺は2体を連れて、ラビンスのテイマーギルドへと向かった。
テイマーギルドに入り、近くにいた職員に声をかけてメリーとカルロの従魔登録をしてもらう。
登録作業を終えると、作業をしてくれた職員が話しかけてきた。
「支部長から話は聞いています。魔給の水晶はいかがしますか?」
どうやら、キレーファから俺が来たら水晶を購入するか確認するように言われていたらしい。
俺は職員と相談し、予定通り中くらいの大きさの水晶を購入した。
カースドールは見た目に反して多くの魔力を必要とするようだが、ウッドドールよりちょっと多いくらいで誤差の範囲らしい。
俺はついでとばかりに、従魔用の食事について相談する事にした。
今後従魔が増え続けると、マイエリアに待機する従魔も増えていく。
そうすると、今回購入した水晶のようなものをそれぞれの食性に合わせて用意しておく必要があるはずだ。
職員は俺の質問にとても驚いていた。
上位職でCランクダンジョンに挑むようなテイマーが、今さら聞く事でも無いとか。
むしろ今まで問題が無かった事が驚きだと言われた。
従魔の数をパーティー枠までというテイマーはいるが、そういう人もこの辺りの問題は早い段階でぶつかるものだという。
やや呆れながらも、簡単に説明してくれた。
草食モンスターの場合はマイエリアで該当する植物を育てる事が多い。
農業をメインにしている人には劣るが、エサの補充が容易である。
トレントの中には採取できる実をつけるものもいるが、従魔の為に従魔を増やすのは本末転倒だろう。
魚・肉食系のモンスターは待機させるのは難しく、保存しやすいジャーキーのようなものを常備する。もしくは、従魔にも開けられる保管庫に肉や魚を保管する方法が一般的のようだ。
一応保管庫にはハーメル用の木の実やカレル、ジェイミー用の魚を補充しているが、長期的に離れる事が無かったので、俺が直接食べさせていた。
ヌエや子フェンリル達が雑食なのは幸いだろう。
あとのモンスターは食事そのものが必要ないモンスターばかりだ。
「……成程、意図せず食べ物の心配がいらない編成だったんですね。それに食べ物はそれなりに保管しているのですか。それでしたら……」
俺の話を聞いたギルド職員は、リストを取り出して何か思案を始めた。
明日も投稿します。




