195.管理人? 探し④
予定の決まった俺は、霊象モンスターを引き連れてテイマーギルドを後にしようとしてキレーファに止められた。
「霊象モンスターはプレイヤー達に人気なの。このまま出て行ったら注目の的になるわ。ここに設置してある転移陣を使用していいから、先にマイエリアに送っておきなさい」
モンスターの売買が開始された当初に、霊象モンスターを巡るトラブルがあったらしい。
維持費がかからず安い為、プレイヤーの買い占めがあったのだが、扱いの酷さから脱走騒ぎが頻発。
それだけならいいが、大人しかったモンスターが性質を変化させて狂暴化。住人を襲う事もあったそうだ。
テイマーギルドからしても、トラブル対策の従魔販売でトラブルを引き寄せるのは不本意だったろう。
しばらくして、支部長の許可なしに霊象モンスターの販売は出来なくなった。
個人の売買でトラブルを起こした場合は、かなり重い罰則が科せられる事になるという。
それでも維持費がかからないのは魅力的なのか、はたまた時々現れるレベルに不釣り合いな高ステータスのモンスターを狙ってか霊象モンスターの個人売買は行われているらしい。
「そんな数の霊象モンスターを引き連れたら、プレイヤー達が売ってくれって集まってくるわよ? 特にそのシルキーは危ないわね」
「……わかりました」
俺はテイマーギルドにある転移用の魔法陣を借りて、新入り達をマイルームに転送した。
マイエリアに転送すると他の従魔達と鉢合わせる事になる。
新入り達の性格を考えると、俺がいる状態で顔合わせをした方が良いだろう。
ようやくテイマーギルドを後にした俺は、総合ギルドにある転移の扉からマイルームに移動する。
そして眼前の光景に固まった。
先程の新入り達がアンティーク調のテーブルを囲って眺めているのだ。
そういえば、グリモだけはテーブルに置いてきていたかもしれない。
「( ;∀;)」
恐る恐る近づいていくとグリモも対応に苦慮しているのか、涙目? になっている。
俺はテーブルのグリモを手に取り、新入りを紹介した。
「(*’ω’*)」
グリモは状況を理解したのか、いつもの調子に戻る。
新入り達もグリモは大丈夫なようで、それぞれ挨拶を済ませた。
他の従魔にも紹介する為に、全員を引き連れてマイエリアに移動する。
待機していた従魔達を集めて新入り達と顔合わせをする。
ただ新入り達と、ジェイミーやシラノの好奇心旺盛な性格は合わない様だ。
精一杯話しかけるジェイミー達とそれから逃げる新入り達。
関係がこじれる前に、ジェイミーとシラノを抱き上げて事情を説明する。
2匹は残念そうにしながらも、新入り達に謝っていた。
俺も新入り達に謝罪する。
新入り達はややビクビクしながらも、逃げ回る事はやめてくれた。
関係の構築はゆっくりやっていく事になるだろう。
顔合わせも終えた俺は、シルキーことリア達を引き連れてアールヴ皇国の屋敷に転移する。
屋敷は本棚のある部屋以外は掃除してないので、転移用の魔法陣がある部屋も埃まみれだ。
広いホールへと移動した俺は、リア達にここで待機してもらうよう指示する。
すると、リアがススッと前に出て何かを訴えかけてきた。
箒で床を掃くようなジェスチャーを見るに、ただ待機しているならここの掃除をしたいらしい。
俺は皇都の雑貨屋で掃除用具一式を買い、リアに渡す。
リアは掃除道具からハタキを取り出すと、ファントムのマムラーにそれを渡して何か指示をした。
指示を受けたマムラーは天井をハタキで掃除し始める。
それを確認したリアはオーヴのジャックを引き連れて、床を掃き始めた。
す、すでに上下関係が出来上がっている。
……まぁ、頼もしいと考えておこう。
アールヴ皇国からマイエリアに帰還した俺は、カレルとシラノ以外の従魔を引き連れてラビンスの総合ギルドへ転移する。
今回はCランクダンジョンである幽霊屋敷ダンジョンへ挑む予定だ。
ウッドドールが出てくるのもあるが、Cランクダンジョンとしては途中で脱出する事が容易なのもポイントである。
……ゲームを始めて1年になるがテイムする為に戦闘を行うのは、初めての事かもしれない。
ダンジョンに入ると寒さとは違うひんやりとした空気が辺りを包んでいた。
屋敷と名前についているが最初は屋外からスタートのようで、杉のような木が連なる森林が眼前に広がっている。
その中央に道が通っており、遥か先に鉄の門のような物が辛うじて視認できた。
道の上空は大きく開けているので、ヌエに空からの偵察を頼む。
俺もハーメルに先行してもらいつつ、屋敷へ向けて歩き始める。
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔ジェイミーがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
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「クー……」
屋敷の前まで到達したが、ヌエが疲れ果てている。
あの森で何度か戦闘をしたわけだが、アールヴ皇国で強化された俺達の敵ではなかった。
スケルトンやゾンビ等は緩慢な動きの為、エラゼムの一刀により蹴散らされる。
しかし、問題は空にあった。
不気味な森のお約束ともいえるカラスやフクロウが厄介だったのだ。
個々は全く強くないのだが、群れで襲ってくるカラスは鬱陶しいし、奇襲してくるフクロウには気が抜けない。
結果、空を担当していたヌエの負担が大きかった。
これなら地上から迎撃した方が早かったかもしれない。
屋敷に入ったら飛べない事を考えると、次回潜る事があったらヌエは置いていこう。
鉄の門の前までやって来た俺は、門番と思しきリビングアーマー2体を倒す。
リビングアーマー達がポリゴンへと変わると、鉄の門がひとりでに開く。
俺達全員が中へ入ると、ひとりでに閉じていく。
閉じ切った鉄の門は俺が引っ張ってもビクともしない。
目の前には、2階建てと思わしきボロボロの屋敷。
元は赤みがかった色の壁だったのだろうが、コケやカビのせいか薄汚れた緑と茶色が混ざったような色をしている。
割れたガラスと、風に揺れるツタがなんとも不気味だ。
第一回イベント時の館は廃墟という印象が強いが、この屋敷は正に幽霊屋敷という雰囲気である。
俺はツタの張り付いた扉を押す。扉は木材が軋む音を上げながら内側に開いていく。
中からかび臭い匂いが漂ってくる。
それと共に複数の何かが動き出す音が聞こえてきた。
「目的以外のモンスターは殲滅。危なそうなら倒してしまっても構わない。ジェイミーとベルジュは俺の傍で待機だ」
「ヾ(*´∀`*)ノ」
「……」
「キュー」
「くーん!」
ジェイミーはともかくベルジュは不満げだが仕方ない。
いくらステータスが高めとはいえ、まだまだCランクダンジョンでの戦闘は不安がある。
ひとまず俺の周りで味方への支援に徹してもらおう。
しばらくして様々な場所からモンスターが現れる。
スケルトン、リビングアーマー、ウッドドールの基本的なモンスターに加え、ブックミミック、ポルターガイストのような変わり種のモンスターも出てきた。
ブックミミックは一見インテリジェンスブックにも見えるが完全に別種だ。
宝箱型のモンスターとして有名なミミックの本版である。近づくと本が開き、左右の表紙についた牙で噛みついてくる。
ポルターガイストは半透明の手である。それが浮遊しながら襲い掛かってくるのだ。
厄介ではあるが、それ程強くはない。
変わり種モンスターの奇襲に注意しながら、押し寄せるモンスターの群れを排除していく。
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
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総合ギルド等の転移の扉の仕様についてですが、個人所有の土地に転移した場合も元の総合ギルドに戻る事が出来ます。
この戻る場所については、最後に使用した転移の扉が基準です。
明日も投稿します。




