193.管理人? 探し②
「ウッドドールは温厚な性格になりやすいんだけど、この子は特別好戦的なの。ウッドドール自体はCランクのダンジョンでテイムできるから、自分でテイムしに行く事をお勧めするわ」
「そうですか……」
俺はキレーファの話を聞いて少し肩を落とす。
確かに迷宮都市で温厚な性格のモンスターは需要が無いのかもしれない。
もしくは温厚な性格のモンスターが、他の支部で需要が高いという事も考えられる。
気落ちしている俺の横で、キレーファは再びリストのチェックを始めた。
パラパラとページを捲りながら、いくつかのページに付箋のようなものを挟んでいく。
「あなた、幽霊とか怖いかしら?」
「……いえ、特に心霊現象に対して怖いと思ったことは無いです」
「それなら、おすすめのモンスターがいるのだけれど、見てみる?」
「お願いします」
あくまでシャーロット師匠が管理を任せていたから、ウッドドールを探していたのだ。
別に建物と本を管理できるモンスターなら、ウッドドールに拘る必要は無い。
俺はキレーファに案内されて、別の部屋へ移動する。
「おおう、この部屋は随分と雰囲気が違いますね」
「ふふ、そうね」
その部屋はお化け屋敷というには生ぬるい光景が広がっていた。
何やら叫び声をあげて飛び回る幽霊……ゴーストだろうか? バンシーの可能性もあるな。
光の玉が浮いているようにしか見えないオーヴ。
エラゼムとはまた違った雰囲気の鎧を纏った? リビングアーマー。
そういった心霊現象そのもののようなモンスターが、縦横無尽に跋扈していた。
「ゾンビのような肉体を持つ霊象モンスターは、また別室で預かっているわ」
「ゾンビは目的に沿わないので、遠慮したいです」
「わかってるわ。本に腐肉が付着するようなモンスターは勧めないわよ」
作業はできるかもしれないが、結果現状を悪化させるようなモンスターは遠慮したい。
そこで、ふとある事が気になった。
「あの、先ほどの部屋にもリビングアーマーがいたと思うのですが?」
「あら、知らないのかしら? 一部モンスターの特性について」
俺はキレーファの発言を聞いて、納得する。
この辺りは魔物使いの国で、読んだ書物に記されていた。
無生物が基礎となるモンスターは、発生する原因がいくつかある。
1つはエラゼムのようにダンジョンで発生する場合。
2つ目はグリモの様に異常な魔力が作用してモンスターが発生、ないし無機物がモンスターに変化する場合。
このどちらかの場合、種族特性は「魔法生物」となる。
しかし、人やモンスターの魂が何かに宿る。人やモンスターの強烈な思いが無機物に作用して誕生した場合は「魔法生物」とはならない。
そのようにして誕生したモンスターは霊象モンスターという括りになる。
第一回イベントのシークレットクエストで出会ったウサギ型のスケルトンがこれに近い。
この場合は種族特性として、「心霊」「怨霊」等の種族特性になる。
後は妖気を元に発生する場合もある。
この場合は「妖怪」「物の怪」のような特性になるらしい。
どれも種族名はリビングアーマーとなるが、生態? に違いが出るという。
食性、長所と短所。
それ以外にも進化先にも違いが出るらしい。
書いてあった本には、テイマーはこれらの違いをよく理解しておくようにと締めくくられていた。
俺はキレーファに部屋の入り口で待っていてほしいと言われたので、おとなしく入り口で待機する。
キレーファはリストを元に何体かのモンスターを集め始めた。
しばらくして、数体のモンスターを引き連れてキレーファが戻ってくる。
「この辺りがあなたへお勧めする子達かしら?」
キレーファが連れて来たモンスターは以下の通りだった。
・ファントム
ハロウィンでみるような白い布をかぶったお化けのような見た目をしている。
顔には真っ黒な目が2つに口角の上がった黒い口があるが、感情により変化する以外は使われていない。
重い物は持てないが、高いところに浮遊していけるので高い本棚の整理に重宝しそうだ。
・シルキー
見た目は小さい女の子がメイド服を着たような幽霊。
メイド服を着ているので一応女の子とわかるが、顔は輪郭のみである。
戦闘力は皆無で非力。しかし、種族特性のおかげで家事スキル全般の成長率が高い。
ちなみに男のシルキーもいるらしく、その場合は執事服をきた男の子のような見た目だそうだ。
・オーヴ
掌サイズの光の玉。
触れても熱さは無く、むしろひんやりとしている。
作業らしい作業はできない。
しかし、飛び回らせる事で光源として利用する事ができる為、館の光源として勧められた。
この部屋で最も数が多い。
「今、勧められるのはこれくらい。霊象モンスターは食べ物を必要としないわ。その代わり、相性という観点で見るとデリケートなの。火や日。光や聖属性に弱い傾向が強いわ。苦手というだけで完全にダメというわけでは無いけど注意が必要ね」
それ以外でもモンスターごとの欠点が多く、あまり初心者向きではないそうだ。
この辺りのモンスターを紹介してくれるという事は、一応キレーファから見ると俺は初心者の域は脱しているらしい。
「霊象モンスターは維持費がかからないからとても安いわ。ただし、発生条件的に希少価値が高く性質的に討伐されやすいから、こうしてテイマーギルドが多数保持しているのは稀ね」
「かなりいるように見えますが?」
キレーファが言うにはいるところにはいるという事らしい。
「最近プレイヤーのクランがある国の幽霊屋敷を探索した時、外部に逃げ出した者やプレイヤー自身がテイムして売却した者が流れてきたのよ。……だからスキルやステータスの点でかなりハンデを背負っているわ」
有能なスキルや高いステータスを持つモンスターはプレイヤー間で取引され、残ったものがテイマーギルドに売却されたそうだ。
俺に勧めてきたファントムは非力なうえに魔法スキルを持たないので、戦闘に参加させる事が非常に困難である。
オーヴに至っては光る事しかできないらしく、戦闘が困難どころか潜伏や不意打ちをするのに邪魔になったそうだ。
その他にもプレイヤーのテイマーが制御しきれずに売却されたものもいる。
レイスやゴースト等は叫び声を上げ続ける者が多く、進化させるまで我慢できずに売りに来る事も多いそうだ。
そして、霊象モンスターは誕生の経緯から同種の同レベルモンスターでもステータスの振れ幅が大きく、強いステータスを持っている者ほど、我が強く制御不能に陥りやすいそうだ。
「私が連れて来た子達は性格的に温厚ないし臆病だから、あなたの目的には合致していると思うの」
俺はキレーファに許可を取り、アイテムボックスから数冊の本を取り出す。
取り出した本は大きさ、重さの違う3種類の本だ。
オーヴ以外のモンスターに、本を持ってもらう事にした。
シルキーは3冊とも持つことができたが、一番大きく一番重い本を持つ時は辛そうである。
ファントムはさらに非力なようで中くらいの2冊目で辛そうにしており、一番大きな本は持ち上げる事しかできなかった。
一応オーヴにも近づいてみたが、俺が近づいた距離だけ距離を置くように離れていく。
俺はキレーファに視線を向ける。
「同じ霊象モンスターにはそうでもないのだけど、人が近づくと逃げていくのよ」
まぁ、それならシルキーたちの手伝いをさせる分には問題ないのか?
「どうする? ここで従魔の購入はしないで、ダンジョンにテイムしに行く?」
明日も投稿します。




