192.管理人? 探し①
ジェイミーの進化を終えた翌日。
俺は、ラビンスのテイマーギルドに来ていた。
今回はエラゼムのみ連れてきている。
カレルを仲間にした時以来久しぶりの訪問であったが、以前に比べて多くのプレイヤーでギルド内が賑わっていた。
新規プレイヤーに人気なのだろうか?
「あら? 珍しい。今さら何か用かしら?」
室内の様子を窺っていると、懐かしい声が聞こえてくる。
声のした方を見ると、ここの支部長であるキレーファが此方に向かってきていた。
俺の前までやって来たキレーファはエラゼムを一瞥して口を開く。
「あの時のリビングアーマーね。大事にしてくれているようだけど、まさか売りに来たわけじゃないわよね?」
「そうですね。エラゼムを連れてきたのは、大事にしてますよという……報告ですかね?」
「何それ?」
キレーファは俺の微妙な返答に口に手を当てて笑う。
以前と違い、随分と余裕のある雰囲気を纏っている。
どうやら、あれ以降はプレイヤーとうまくやっているようだ。
キレーファが落ち着くのを見計らい、俺は用件を伝える。
「実はまた従魔を購入したいと考えています」
「あら、そうなの。……エラゼムの様子からちゃんと戦えているのでしょうけど、自分でテイムしようとは思わなかったのかしら? その方がお金もかからないでしょう」
「一応ここに良さそうなモンスターがいなかったら、テイムしに行こうと考えています」
「そう。……いいわ。ついてきて」
キレーファは近くにいた職員に声をかけると、以前エラゼムと会った広場に案内してくれた。
そこには以前にも増して多種多様なモンスターたちがそこら中に跋扈している。
明らかにこの辺りのダンジョンに出てこないモンスターが多数見受けられた。
俺が驚いている事を感じ取ったのか、キレーファが説明を始める。
「どこまで聞いているかわからないけど、あれからいろいろあったのよ」
キレーファは語りだす。
プレイヤーが際限なく従魔を売りに来ていた時に罰金を設けたおかげで売りに来るプレイヤーの数は減った。
しかし、別の問題が発生してしまう。
ダンジョンでテイムした従魔をラビンス付近で契約解除すると、違反として取り締まられる。
しかし、ラビンスから少し離れた場所で契約解除した場合はグレーゾーンだ。
見つかれば注意されるものの、罰則が適用させるかと言えば否である。
そういったグレーゾーンを知ったプレイヤー達は、不要になった従魔をテイマーギルドに連れてこなくなった。
注意を受ける以上の不利益が無いなら、少し離れた場所で放棄してしまった方が良いとなるのは自然だ。
自らケジメをつけるならいいが、妙な情を持って止めを刺せないプレイヤーが放置していく従魔が増えていった。
そして、ウィンタークエストの終わる頃に事件は起こる。
元従魔達が群れを形成して、周辺の村々を襲い始めたのだ。
これに対しテイマーギルドを中心とした討伐隊が組まれ、鎮圧していったという。
テイマーギルドの支部長であるキレーファは、この事件を重く受け止めた。
ラビンスの支部だけでは対処できないと判断したキレーファは、テイマーギルドの本部とラビンスの総合ギルドに相談を持ち掛けたらしい。
協議の結果、事はテイマーギルド全体を巻き込む一大事業へと発展した。
特定の支部でしか行っていなかった従魔の売買をテイマーギルド全体の一大プロジェクトとして発起する事になったのだ。
まず、各国にある収容能力の高いテイマーギルドの支部ないし本部で従魔の売買を開始する。
買い取り額は安く、販売額は経費・維持費ギリギリで統一した。
そのうえでテイマーギルドの土地に設置してある転移の魔法陣を用いて、それぞれのギルドで預かっている従魔達を一定数入れ替えながら、ギルド全体を巻き込んだ売買を開始したのだ。
この策による効果は絶大で、各地で起こっていた元従魔が起こす事件は大幅に減ったらしい。
ラビンスの支部も足並みを揃えるべく、従魔の買い取りルールを以前の頃に戻したそうだ。
従魔の買い取りを再開した事で、プレイヤーによる従魔の売りも再開される。
しかし、以前の様に悲観するような事態にはならなかった。
元々従魔の販売をしていなかった支部が大半だった事もあり、売買を開始する上で最低限必要な数のモンスターが足りていない支部が多い。
ラビンスで買い取った従魔達は、各地の支部に嬉々として引き取られていったそうだ。
キレーファが言うにはラビンスのモンスターは、他の支部では人気が高いらしい。
定期的にモンスターの補充がしたいと連絡が来るそうだ
「結局、ラビンスのダンジョンでテイムできるモンスターは、ラビンスのテイマーギルドで販売しても人気が無い。……当たり前の事ね」
そう言うキレーファはアンニュイな表情をしていた。
元々ラビンスで従魔の売買をしていた目的は、ダンジョン産のモンスターが拡散するのを防ぐ事である。
そこに加え、俺のような従魔の編成に苦慮しているテイマーへの救済処置という側面が強い。
あくまでラビンスで行っていた従魔の売買は、安全対策と救済処置であったのだ。
必要であったとはいえ、テイマーギルドが従魔の売買を大々的に行う事に複雑な思いがあるのかもしれない
「長々と話をしてしまったわね。さて、あなたはどんな従魔を探しているのかしら?」
「それはですね……」
俺は今回探していた従魔の候補を伝える。
一応どういった目的で欲しているのかも付け加えておく。
俺が提示したモンスターの種類と条件を聞いたキレーファは、リストを取り出して一覧を確認し始める。
「やらせたい事を考えると1体ってわけにはいかないわよね……。ひとまず1体はこの支部にいるけど、見てみる?」
「お願いします」
キレーファに案内されて、広場の一区画に案内される。
そこにはリビングアーマー、ミミック、インテリジェンスブック? のような明らかに無生物のようなモンスターが集まっていた。
おそらく、種族特性に「魔法生物」を持っているモンスターが集められているのだろう。
キレーファに案内されるまま移動すると、壁際に目的のモンスターがいるのが見えた。
「この子がうちにいる唯一のウッドドールよ」
俺が探していたのはこのウッドドールである。
理由はアールヴ皇国で手に入れた建物の管理をしてもらうためだ。
マイルームは俺が設定をいじらない限り、本を保管するのに最適な状態をキープできた。
しかし、アールヴ皇国の建物は定期的にメンテナンスが必要なのである。
普通の人(住人及びプレイヤー)は現地の総合ギルドに依頼を出す事が多い。
専門的な機器が多い場合は、対応するギルドに依頼する場合もある。
しかし、テイマーにおいては管理できる従魔を配置するという手が使えるのだ。
実際、シャーロット師匠は自分の工房をウッドドールの進化先であるウッドドール・ハウスキーパーに管理させている。
その為、キレーファにはウッドドールを優先的に探してもらったのだ。
……しかし。
「自分で案内しておいてこういうのもあれなのだけど、この子は本の管理とかは向いてないと思うわよ?」
「……何となくそんな気がしました」
俺の眼前にいるウッドドールは俺達の存在を無視しているのか、微塵も動かない。
マネキンのような体を壁に預けて片膝を立てている姿で、肩にライフルをかけた傭兵を思わせる雰囲気を醸しだしていた。
表情がわからず迫力も無い姿のはずなのに、言葉にするのが難しい威圧感を放っている。
「前は大人しいウッドドールもいたんだけど、迷宮都市では需要が無いから他の支部に送っちゃったのよね」
俺の心情を察してか、キレーファが小さくため息を吐いた。
明日も投稿します。




