189.修行①
馬車を乗り継ぐ事、数回。俺はアールヴ皇国の皇都ルナから、イニシリー王国の迷宮都市ラビンスに戻ってきていた。
目的はダンジョンランクをCランクにする事と従魔達のレベル上げだ。
特に旅の最中に仲間にしたジェイミー、シラノ、ベルジュのレベル上げは急務である。
すぐにでもダンジョンに向かいたいところだが、その前にある人物から会えないかと連絡が来ていた。
「すまないね。約束してからだいぶ時間が経ってしまって」
「いえいえ。刀に注文を付けたのは自分なので、むしろ我が儘を聞いてくれて感謝しています」
俺はエラゼムを連れて、和風クランのクランルームでクランマスターであるノブナガさんと再会している。
当時、幽鬼だったエラゼムの情報と引き換えに刀の入手を依頼していた。
俺がアールヴ皇国にいる頃には刀の入手は可能な状態だったらしいが、後から刀のスペックに注文を付けた事でこの時期まで延びてしまったのだ。
ノブナガさんは早速とばかりに、アイテムボックスから約束の物を取り出す。
鬼鋼の大太刀 大牙
東の島国に住む鬼人族が作る金属で作られた玄色の刀身に赤鉄色の刃を持つ大太刀。刃渡り10尺 (約3.3m)、幅2尺 (約60cm)を誇る。
耐久値 2500
ダメージ量 700
重量 90
妖気感応……重量-20
ノブナガさんは取り出した刀を俺に差し出す。
俺はエラゼムから魔鉄鋼の巨斧を回収して、鬼鋼の大太刀を装備させる。
大きすぎて腰に差す事は困難なので、背中に背負ってもらう。
エラゼムの身長よりも長かったが、何とか引きずること無く持ち歩けそうだ。
「一応、言われたスペックに見合った物ができたと思うよ。まぁ、付与効果の意味は無いかもしれないけど。……あの後エラゼムに妖気の種族特性は生えてないよね?」
「そうですね。一応、あの後一段階進化して幽鬼から夜叉に進化しましたけど、妖気や霊魂みたいな特性はつきませんでしたね」
「だよね」
妖気感応は、この特性を持っていると指定されただけ重量を軽減する効果がある。
種族特性の妖気は獣人 (妖狐)を選んでいたハルが持っていた。
エラゼムも種族的に持っていても不思議ではないが発現はしなかった。
和風ギルドでも幽鬼から様々な進化をさせているそうだが、“後天的に”妖気を手に入れた個体はいないという。
「できる限り攻撃力を高くとお願いしましたが、今ってどのくらいの物が作られているんですか?」
「うーん。一応、その大太刀のダメージ量はトップ層が使用している物と遜色ないレベルかな? まぁ、プレイヤーの中でもパワーファイターが使うレベルの重量級だし、付与されている効果が少ないから攻略組が使う物からは一枚も二枚も落ちるだろうけど……」
現在、様々な方法で装備品に追加効果を付与する方法が発見されている。
しかし効果の高い付与をする為には、入手困難な素材をトップレベルの生産職が加工する必要があるらしい。
装備を安く抑えるには、付与効果を切り捨てるか素材を自ら用意する必要があるそうだ。
「……それでメールで言っていた事は本当かな?」
「ええ、ここで出しますか?」
「ああ、今は人も少ないから騒ぎにはならないだろう」
俺はアイテムボックスから世界樹の細枝及び葉、月光石、シラカバのような木材等などアールヴヘイムで採取できる素材を一通り取り出す。
これらは2回目のアールヴヘイム訪問に同行した時に、採取する権利を行使して収集したものだ。
世界樹の細枝や葉は定期的に世界樹の枝から落ちてくるらしく、地面に落ちている物を拾うのは問題ないらしい。
ちなみに、枝から落ちてきているので細枝と呼んでいるが俺の胴体程の太さはある。
月光石は、簡単に言えばアールヴヘイムで其処ら中に転がっていた石だ。
精霊石の一種らしく、光の精霊魔法と相性が良いという。
それを聞いたプレイヤー達が一斉に石ころを拾い始めたので、ハイエルフ達が唖然としていた。
その他、アバンデントでも取れるらしい白い木材や少ないながらもフェンリルの爪や毛なんかもある。
フェンリルの素材は生え変わり等で出た物をいただいた。
ノブナガさんは俺が素材を出している間に、生産職のプレイヤーを数人呼び寄せていた。
生産職と思われるプレイヤーたちは、並べられた素材を興奮した様子で見分し始める。
俺はその様子を横目に、ノブナガさんとの話を再開した。
「これらの素材を預けるので刀が作れるか調べてほしいんです」
「それで作れるようなら、そのまま刀を作ってほしいと……。こちらとしてもレアな素材を触る機会ができてうれしい限りだ。もし、他の和風装備に向いていたらその時は相談させてくれ」
「わかりました」
ノブナガさん達に預けるのは、俺が持っている素材の2割程である。
この後、イトスとミーシャにも依頼するからだ。
2人にも既に相談しており、今話題の素材を使えるという事で是非やらせてほしいと返答をもらっている。
「それではよろしくお願いします」
「承った」
ノブナガさんへの相談を終えた俺は和風クランを後にする。
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和風クランを後にした俺は装備と消耗品を補充して、カレルの卵を手に入れた山登りダンジョンに来ていた。
メンバーは俺、ハーメル、エラゼム、グリモ、ジェイミー、シラノ、ベルジュである。
カレルも連れて来たかったが、今回はいろいろ試す事が目的なので行動阻害と危険察知を得意とするハーメルを連れていく事にした。
ひとまず、ジェイミーはリュックサックで待機してもらい。シラノとベルジュに戦闘してもらう。
しばらく川沿いを歩いていると草をかき分けるような音が聞こえてくる。
臨戦態勢を整えて待機していると、黒い影が木々の間から飛び出してきた。
てっきり熊のモンスターが出てくると思ったが、飛び出してきたのは鹿のモンスターだった。
鹿のモンスターも俺達を視認しても尚、止まることなく突っ込んでくる。
「チュウ!」
「ヒィー!」
ハーメルは鹿のモンスターが泥に強く踏み込んだタイミングで泥固めを発動する。
足が抜けなくなった鹿はそのまま前のめりに倒れこむ。
鹿の体が泥の中に沈み込んだタイミングでハーメルにもう一度泥固めを発動してもらい、拘束を図る。
「まずはエラゼムが刀で攻撃してみてくれ」
「……!」
エラゼムは俺の指示に従い、倒れこむ鹿に大太刀を振り下ろす。
凄まじい衝撃で泥の飛沫が舞い散る。少し焦ったがエラゼムの後ろにいたのと泥固めのおかげでこちら側に泥は飛んでこなかった。
鹿のモンスターはその一撃をもってポリゴンへと変わる。
「使い心地に問題は無いか?」
「……」
俺の問いにエラゼムは首を縦に振った。
いずれは刀を主装備にしてもらうとはいえ、しばらくは新米組のレベル上げになる。
ここで頭を振るようなら装備を元に戻すつもりだったが、大丈夫そうなのでそのまま使ってもらう事にした。
その新米たちは、一太刀で敵モンスターを倒したエラゼムにキラキラした視線を向けていた。
エラゼムは視線を気にする事無く、その場で待機している。
「チュウ!」
エラゼムばかりにキラキラした視線を向ける新米たちに不服なのか、ハーメルが存在をアピールする。
俺は苦笑しつつハーメルを労う。ハーメルを頭の上に戻した俺は3匹に声をかける。
「もし、強敵に出くわしても先輩たちがサポートするから、一度戦ってみようか」
「キュー!」
「クーン!」
「く、くーん」




