186.物語の中(急)
アールヴ皇国のワールドクエストをクリアして十数日。春休みが目前に迫った頃。
俺は皇都ルナを離れていく馬車に揺られながら、アールヴ皇国での出来事について思い返していた。
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2度目のアールヴヘイム訪問を経て、皇国からもらえる報酬を全て受け取った。
皇太子には滞在の延長を打診されたが、そろそろ本来の目的に戻りたかったのでこれを固辞している。
アールヴヘイムを始めユグドラシルにある書物には興味はあるが、土地を手に入れた事でいつでも戻ってこれる事が決め手となった。
皇宮を後にした俺は本来の目的を果たすべく、司書ギルドへとやってきていた。
プレイヤー達の関心はすっかりアールヴヘイムに移っており、司書ギルド及び図書館近辺は落ち着きを取り戻している。
司書ギルドに顔を出した俺をコペルさんが笑顔で出迎えてくれた。
「来てくれてありがとう。ようやく報酬を渡せるね」
「はは……」
俺が司書ギルドからもらえる報酬は以下の通りだ。
1.危険図書を読める紹介状
2.金銭
3.廃棄予定の書籍
紹介状については3度目になるので特に思う事は無い。
金銭については司書ギルドの立場もあるという事で、アールヴ皇国と同額を支払ってくれるという話だったが、金額を減らす代わりにもらえる書籍の量を増やしてもらった。
「それにしても、皇国からもらう土地はあそこでよかったのかい?」
「あそこというか、あの建物があるからいいんですよ」
アールヴ皇国から報酬として土地をもらう事になった俺は、皇都の外周付近にある土地を選択した。
俺が選んだ土地には読書家の獣人が住んでいたそうで、本を保管する為に直射日光を避けつつ風通しの良い場所に建てられていた。
流石に本や家具の類は残っていなかったが、埋め込み式の本棚がある書庫や書斎となる部屋があるのは大きい。
逆に空き地を選択して自前の図書館を作り上げるのも面白そうだったが、そういった事は本来の目的を達成してから目指してもいいだろう。
今はそれ以上に優先しなければならない問題があった。
今回の件でアールヴヘイムと司書ギルドから大量の書籍を報酬としてもらっている。
マイルームにある本棚に入りきらないのは勿論、保管庫も大きく圧迫していた。
そんな時に本を保管する用意が整っている建物が手に入るというのだ。
飛びつかないわけがない。
「そんなに焦らずともアールヴ皇国に土地を手に入れたのだから、受取の用意ができてから戻ってくればよかったのではないかな? 好都合というか何というか、あの放火事件の影響で図書館周りは空き地が多いことだし……」
「皇国を中心に活動するならいいかもしれませんが、その予定はありません。それに予定を大きく超過して皇都に滞在しているんです。それに見合った報酬があったとはいえ、そろそろ次の目的地に向かいたいです」
「そうか……」
残念そうに言うコペルさんに俺は問いかける。
「アールヴヘイムで手に入れた本についてですが、本当に渡す必要は無いんですか?」
「ああ、今回は特別な処置がとられる事になったんだ。事は個人の問題ではないからね」
今回の報酬で手に入れた書籍は譲渡・貸し出し不可だ。
手に入れた当初は、珍しい本を大量に手に入れた事に舞い上がって思い至らなかった。
クエストクリアした後に我に返った時は、どうすればいいか混乱したものだ。
この場合はどうすればいいか不明だったので、アールヴヘイムから帰還してすぐにコペルさんに確認を取った。
司書ギルドは俺とは別にアールヴ皇国と取引をしていたようで、俺よりも多くの写本を報酬としてもらっているそうだ。
俺の持っている写本は全て重複しているそうなので、俺が司書ギルドに写本を提出する必要は無いらしい。
しばらく一般公開されないそうなので、取り扱いは注意してほしいとの事だ。
「そうそう、これが約束の紹介状だ。すぐに行くかね?」
「はい。よろしくお願いします」
コペルさんは話が一区切りついたので、本題の紹介状を渡してきた。
俺はコペルさんと共に図書館の奥へと向かう。
建て直された図書館は2階建ての木造建築であり、新築特有の木の香りが鼻孔をくすぐる。
図書館は全焼する前と同じ構造で再建されたそうだが、無事な状態を見た事が無いので不思議な感覚だ。
俺はコペルさんと共に、図書館の奥にある個室まで移動する。
個室の床には黒く焼け焦げた石造りの扉があった。
見るからに重そうであるが、コペルさんは苦も無く扉を持ち上げる。よく掃除されているのか煤等が舞う事は無い。
俺はコペルさんと共に、石造りの螺旋階段を降りていく。
コペルさんが言うには、この辺りに使われている石材は司書ギルドの建物に使われている物の原料であり、強度もあり火にも強いとの事。
「図書館そのものを同じもので作ればいいのでは?」
「その意見はもっともだが、高価なうえに重いのだ。この大きさの建物には使えない」
そんな話をしつつ、目的の部屋に降り立つ。
部屋は大きなホールになっており、数冊の本が等間隔で並べられている。
思い入れのある風景を再現する本、読み終わるまで目を離せなくなる本など一見そこまで危険とも思えない本が並ぶ。
しかし、近寄って確認してみると注意書きが恐ろしい事になっていた。
風景を再現する本は幻覚で再現する物ではなく、特殊な空間に読者を閉じ込めるとある。
目を離せなくなる本は著者の怨念が宿っているとあり、おどろおどろしい内容を休憩も挟まずに読み切らねばならないという。
俺は例のごとく他の本はスルーして“読む人で内容が変わる本”を手に取り、ページを捲る。
“
モンスターのスタンピードで家族を失った少年アルフ。
原因を調査するため剣士ギルドで修業した後、仲間探しの為に旅に出る。
月日は流れ、あるパーティーのリーダーとなった少年は本来の目的に向かって動き出した。
久しぶりに故郷の土を踏む彼に待ち受けるものとは……。
≪条件を満たしました。チェーンクエスト あなたの選択は? (3) を受けますか?
YES/NO≫
前回同様、これまでのあらすじを読み終えると選択肢が現れた。
俺がYESを選択すると、視界は闇に包まれる。
「…………きゃあぁぁ⁉」
俺を出迎えたのは女性と思われる悲鳴だった。
遠くの方から聞こえているようで、前方の方から煙が上がっている。
≪彼はどう行動する?
1.全員で確認しに行く。
2.他のメンバーを待機させ。アルフだけで確認する。
3.危険は冒さず、一時撤退。
4.斥候の男に先行してもらい、情報収集してもらう。≫
前回の流れ通りなら、アルフの故郷に向かっている最中だろう。
問題はこの悲鳴が故郷から聞こえているのか、道すがらのトラブルなのかという事だ。
もし道すがらのトラブルなら故郷で問題が起こっていた場合、ここで道草を食うのは愚策になる恐れがある。
そこで気になったのは4番目の選択肢だ。
おそらく俺が前回選択した結果が反映されているのだろう。
この選択肢なら状況を確認した後、行動選択できるかもしれない。
俺は4番目の選択肢を選ぶ。
アルフがパーティーメンバーそれぞれに指示を飛ばす。
斥候の男は黙って頷くと、姿が掻き消える。他のメンバーは、物陰に身を潜めながらゆっくりと煙の上る場所に近づいていく。
しばらくすると、斥候の男が慌てた様子で帰ってきた。
「おい! お前の故郷で魔物の群れがっ!」
斥候の男が言い終わるより先に、アルフが全体に向けて号令をかけた。
パーティーメンバーは驚きつつも、無言で頷く。
パーティーは斥候の男が先導する形でアルフの故郷へと急いだ。
アルフ達が集落に辿り着くと、いつか見た光景が今まさに作られつつあった。
森から溢れ出てくるモンスターに追い立てられ、逃げ惑う人々。
火が全体に燃え移り、倒壊していく建物。
逃げ遅れて倒れこむ住人に飛び掛からんとする狼を視界にとらえた時、アルフが飛び出してその凶牙を受け止める。
≪彼はパーティーに何と指示する?
1.水魔法で消火しつつ避難誘導を!
2.風魔法でモンスターを押し返せ!
3.合体技でモンスターを殲滅しろ!
俺は迷わず1を選択した。
流石に住人を巻き込みかねない状況で、攻撃魔法を指示するのは気が引ける。
前回の選択で闇魔法を選んでいれば足止めを指示できたかもしれないが、その場合は水魔法が無くなるのでどちらともいえない。
俺が選択した通りにアルフが指示を飛ばす。
ショートカットの少女が水魔法で消火活動をする傍ら、他のメンバーで住人の救助を始める。
俺が前回選択したメンバーの職業が悪かったのか、救助活動にかなりの時間を要していた。
何が悪いかと言えば、溢れ出てくるモンスターを抑える手段が限られているのだ。
斥候の男を盾使いにしておけば、守りながら避難できたかもしれない。
先程の選択肢で思ったように、闇魔法使いがいれば攪乱による時間稼ぎができたはずだ。
俺はやきもきしながら状況を見守る。
消火した建物から住人を助け出し、溢れ出るモンスターと相対する。
アルフ達はボロボロになりながらも、住人たちの避難を完了した。
ここでようやく女性陣2人の合体技が発動し、モンスターを一掃する。
溢れ出るモンスターの大半を倒した事で、アルフ達は一息つく余裕ができた。




