166.協力者?
2020.2.21 たくさんいただいた感想を確認し、再度読み返した結果、主人公の行動がおかしくなっていた為、修正しました。
次の話の為に主人公の内面描写を削りまくった結果、主人公が集団に囲まれカツアゲされたような話になっていたので、少し思惑の交差するようなやり取りに変更しました。
プレイヤーではなく住人が多いエリアを重点的に聞き込みしていくが、レポートと衛兵達の話以上の情報が集まらない。
強いて言うならば、重要参考人達は悪いやつではないが少し思い込みが激しい性格だったという情報ぐらいか。
ただ、情報が集まらないという事実が俺にある疑念を持たせた。
皇国が放火事件について情報規制していて、解決させないようにしているのではないかと。
理由は孤児院の院長と皇都の外周を警備している衛兵の反応だ。
孤児院の院長は前任の院長について皇族に口止めされていた。
外周にいた衛兵も余計な事を言わないように、予め決められていた文言を言っていたように感じる。
どちらの組織も運営しているのは、アールヴ皇国だ。
さすがに皇国が放火したとは思いたくないが、放火犯が捕まっていない状況を続ける事で何かしらのメリットが発生している可能性はある。
ただ、その事にコペルさんが気づかなかったのだろうか?
最初に会った時は少し疲れているように見えたとはいえ、皇国が犯人探しに協力的でない事くらいは察せると思う。
……ダメだ。
何となく誰かの描いたシナリオ通りに動かされているような気がする。
まぁ、そのシナリオに乗っかって事件が解決できるならいい。
しかし、それを判断するには情報が少なすぎる。
だが、これ以上住人達に話を聞いても有力な情報が手に入るとは思えない
…………。
考えがまとまらないまま、総合ギルドの前まで来てしまう。
正直、ここに来るのはもう少し後にしたかった。
しかし、住人への聞き込みでこれ以上の成果が見込めない現状、後はプレイヤーに協力を頼むしかない。
俺は覚悟を決め、総合ギルドの中へ入っていく。
中には多くのプレイヤー達が、クエスト処理の為にカウンターに並んでいた。
いきなり声はかけず、まずは辺りの様子を窺うことにした。
俺はカウンターに並ぶ列を避けつつ、張り出されているクエストを確認してみる。
クエストは他の地域で見た物と大差ないラインナップに見える。
ただ、お手伝い系クエストの中に“プレイヤーは許可証持ち限定”という条件があるものが多い。
……プレイヤーが治安の悪化の一因とはいえ、異様に締め付けが厳しい気がする。
そうしてクエストの内容を確認する俺の耳に、周りにいるプレイヤー達の会話が聞こえてきた。
「俺も他のクランメンバーみたいにアールヴ皇国後回しにすれば良かったかな?」
「そうだな。最初に許可証もらえた奴ら以外はスゲーやり難いからな」
「NPCの好感度高いやつがもらえてたから、お手伝いクエストとか受けて好感度上げたいところだが、それすら制限されているからな~」
ふむ、この辺の話はアートに聞いた通りだな。
「そういえば聞いたか? 今さら放火事件を調べているプレイヤーがいるって話」
「ああ。聞いた、聞いた。何て言うか、ご愁傷様?」
「事件当初はそこそこ情報も集まったけど、その後、全然進展してないしな。つうか、事件当時もプレイヤー達がさんざん調べたんだけどな」
うっ、もう俺の事が噂になってるのか。
しかし、残念な奴を語るような流れに不満を覚える。
ここに残っているという事は、君らも問題解決に動いていたのではないのか?
「そいつだけどな。司書ギルドの依頼を受けられたんじゃないかって噂になってるんだ」
「ほほう。それなら今さら放火を調べている事にも説明がつくか……」
「どんな条件か知らないけどな。クエストを受けた時に何かしら情報をもらった可能性はある」
あれ? そこまでバレてるのか。
まだ、住人以外には見せていないはずだが……。
……俺は今、猛烈に嫌な予感がしている。
クエストが張られている壁側からそそくさと出口へと向かうが、目の前の光景を見て自分の行動が遅すぎた事を悟る。
いつの間にか総合ギルドの出入り口には、プレイヤー達により塞がれていた。
転移の扉に視線を移しても、そこに向かうまでに何人かのプレイヤーが立ちふさがっているのが確認できた。
ただ、総合ギルドにいる全員が関わっているわけでは無い様で、急に他のプレイヤーが動き出した事に驚いている人もそれなりに見受けられる。
異様なプレッシャーが室内を支配する中、一団を代表して1人のプレイヤーが進み出てくる。
「やぁ、君が司書ギルドの依頼を受ける事ができたというプレイヤーかな?」
「……違います」
「はは、君は嘘が下手だな。それに不用心だと思うよ?」
「…………」
反論のしようも無いので、押し黙る。
「まぁ、警戒するのもわかる。確かにこんな方法で話し合いの席を設けようとしている奴は信用できないかもしれないけど……。こうでもしないと話を聞いてくれないと思ってね。それに、君にとっても悪い話ではないはずだ」
「どういう意味ですか?」
俺がそう聞くと、代表らしきプレイヤーはニヤリと笑う。
……なんというか、交渉しようとしている割には挑発してくるような印象を受ける。
「司書ギルドの依頼を受けた者は、協力者を紹介する事ができるよね? その権利で僕たちを紹介してほしいんだ」
「……多分、無理ですよ」
「ほう? 理由を聞いても?」
俺の発言に周りがざわつく中、言葉を選びに注意しながら返答する。
「確かに俺は司書ギルドの依頼を受けています。協力者になった人は紹介するように言われています」
「だったら、何も問題ないよね?」
「ですが、1人が紹介する人数に制限があります。すでにフレンドリストから協力を要請しているので、紹介できません」
実際はフレンド全員に断られているし、人数については特に言及されていない。
しかし、紹介できる人数が無制限という事は無いだろう。
それにプレイヤーの中に放火犯がいるかもしれない現状では、協力を申し出てきたプレイヤーが怪しいまである。
「……そうだな。それなら司書ギルドから情報をもらっていないか? 最悪、その情報を教えてもらうだけでもいい。そうすれば、少しくらい放火事件の解決に協力できると思うよ」
「お、おい」
代表らしきプレイヤーの発言に出入り口を封鎖していたプレイヤーの一人が割って入る。
いきなり諦めるような発言したのは、独断だったらしい。
このまま口論になるなら、その隙に脱出できそうだが……。
「教えてもいいですけど、あまり有益な情報は無いと思いますよ? それに教えたところで解放してくれる保証は有りませんよね?」
俺は詰め寄ってきたプレイヤーに視線を向けながら訊ねる。
「ああ、保証しよう。流石にこれ以上無理強いすると警告を受けかねないからね。こちらも事を急ぎすぎたようだ。ほら、そちらの君もアカBANは避けたいだろう」
「ぐっ……」
詰め寄っていたプレイヤーも、代表しているプレイヤーの発言を聞いて引き下がる。
どうやら、そのまま口論に発展とはならないようだ。
俺は自分が持っている情報を掻い摘んで説明することにした。
ただし、全ての情報を渡すつもりはない。
孤児院での情報収集で、プレイヤーたちも重要参考人までは辿り着いている事はわかっている。
おそらく、俺が住人達から得られた情報はプレイヤーたちも持っているだろう。
大筋はそれと大差ない情報を話しつつ、ほんの少しレポートの情報を混ぜて説明する事にした。
こうすることで、司書ギルドから情報をもらったのは事実だが、大した情報はもらっていないと印象付ける。
実際このプレイヤーの言う通り、協力してくれる事自体は願ったり叶ったりである。
しかし、ここにいるプレイヤー達が信用できるかは判断が難しい。
集団で囲んで逃げ道を塞いだうえで、高圧的というか挑発的な人物が交渉をしているので、第一印象は最悪である。
ただ、俺が司書ギルドのクエストを受けた事でワールドクエストが動く可能性がある。
そういった焦りからくる強硬手段という事も考えられた。
今回、少し情報を流す事で様子を見てみようと思う。
「――――……これが俺が司書ギルドで聞いた内容です」
「ふーむ」
俺が話し終えると、辺りから少し落胆したような雰囲気を感じる。
どうやら俺の知っている内容は既知のものばかりだったようだ。
大きく落胆しているわけでもないようなので、全てが知っている内容というわけでもないらしい。
大体、狙い通りの反応だろうか?
「感謝する。広まっていない情報もあったからね。こちらはこちらで調査してみるから、分かった事があったら教えるよ。何かあったら総合ギルドに来ると良い」
「わかりました」
そのやり取りを見ていたプレイヤー達は渋りながらも道を開ける。
多少周りのプレイヤー達に睨まれつつも俺は総合ギルドを後にした。
俺は今のやり取りに疲れてしまい、総合ギルドの出口付近でログアウトする。
先ほどまで会話していたプレイヤーの表情を見ぬまま……。




