164.協力者
俺はフレンドリストからアートを選択してメールを送る。
すると、数分と待たずして返答があり、すぐに会ってくれるという。
待ち合わせ場所に総合ギルドの裏手を指定されたので、そこへ向かう事にした。
「おう! 久しぶりだな。話があるってことだが、その前に俺のエリアに来てもらえるか?」
「? ああ、俺も大っぴらには話しにくい内容だしな」
という事で、こそこそと転移の扉まで向かった俺達は従魔も含め、そのままアートのエリアに転移する。
転移の扉に向かう途中、やや同情的な視線を浴びながら……。
アートはエリアに飛んだことを確認すると、俺に向き直る。
「すまんな。少し他のプレイヤーに絡まれたことがあってな。アールヴ皇国内では極力目立たないようにしてるんだ」
「それは……。そうすると、俺が頼もうとしている事も難しいかもしれない」
「どうしたんだ?」
俺はここで聞いたことは口外しないことを条件に、司書ギルドの依頼と孤児院について説明する。
そして、今回の事件の協力者としてアートを推薦したいという事も伝えた。
「……なんかとんでもない事を聞いちまった気がする。そのドジったプレイヤーには心当たりがある。俺に絡んできたプレイヤーだろう」
「やっぱり?」
なんでもその絡んできたプレイヤーが孤児院で問題を起こしたプレイヤーらしい。
失敗を取り返そうと、よく孤児院に顔を出していたアートにどうにかとりなしてもらおうとしたようだ。
その頃には、プレイヤー達の立ち入りを禁止した施設が告知された後だったそうだ。
アートも立ち入りを制限されていたので、逆に文句を言ったらそそくさと退散したらしい。
「それ、他の奴には言ってないよな?」
「子供たちの口からアートの名前を聞いたから真っ先に頼もうと思ってな。まだ他の人には言ってない」
アートは難しい顔をして考え込む。
おそらく子供たちの事と今後発生すると予想されるトラブルを天秤にかけているんだろう。
「……ウイングはプレイヤーの現状をどこまで知ってる?」
「そうだなー。プレイヤーが住人達によく思われていないというのは漠然と聞いた」
「やっぱりそうか。それならあまり公言しないことを勧める」
「え?」
今プレイヤーたちのほとんどがこの許可証を求め躍起になっているそうだ。
俺はとても簡単にもらえたこの許可証の為にだ。
「どうして?」
「それは許可証が配られた初めの頃、許可証をもらった事を公開したプレイヤーに他のプレイヤーが群がったんだ。ワールドクエストの根幹に関われるチケットでもあるからな」
その騒ぎはすぐに沈静したが、協力し合う空気ではなくなってしまったそうだ。
許可証をもらったプレイヤーはその仲間と他に許可証をもらったプレイヤー達で固まるようになったらしい。
「特に司書ギルドの許可証は協力者という名目で、条件付きの許可証をもらえたからな。余計目を付けられる恐れがある」
「ああ、それで……」
コペルさんが協力者を紹介してほしいといったのはこの為だろう。
そして、全てのプレイヤーの申し出を断った理由もわかる。
司書ギルドに群がったプレイヤーは司書ギルドの許可証をワールドクエストのチケットくらいにしか思っていなかったのだろう。
そういった思惑が透けて見えるプレイヤーには依頼できないよな。
「なら、俺はなんですぐに信用されたんだろうか?」
「司書ギルドのランクが高かったからじゃないか? もしくは図書館の事を心配していたからとか? 他のとこでもらった紹介状も見せたんだろう?」
どうだろう。危険図書のせいで放火事件が起きたから、かえって問題にされる可能性も考えられる。
「俺も聞きたいんだが、なんで俺に声をかけたんだ? こういってなんだが、俺とお前ってそこまで話したことないだろう」
「そうなんだが、集まった情報を整理すると、そこまで悠長な事は言ってられないんだ」
先ほど出てきた問題を起こしたプレイヤーもそうだが、そろそろプレイヤーの一部が爆発寸前のような気がする。
俺の少ないフレンドの中でアールヴ皇国にいて、すぐに連絡の取れたプレイヤーがアートだったというわけだ。
それに……。
「子供たちが寂しそうにしていたからな。俺と一緒に孤児院行ってほしいんだ」
「ああー、それなんだが……」
アートはアイテムボックスから俺が持つ許可証と同じような封筒を取り出す。
「実は俺、皇国から許可証はもらっているんだ。さっきも言ったが、プレイヤーの一部がピリピリしてるだろう? こんな状況で俺が孤児院に行くとそいつらを刺激しちまうかもと思って行ってないだけなんだ」
「そうだったのか……」
そうすると、協力者選びは振出しに戻る。
いや、一応協力者として紹介する必要はあるかな?
俺が思案していると、アートから声をかけられる。
「孤児院の事は了解した。今度ちびっ子どもの顔を拝みに行くとしよう」
「ああ、よろしく」
相談事も終わったので、そろそろお暇しようと腰を上げる。
「ああ! ちょっと待ってもらえるか?」
「ん? ああ。わかった」
アートは工房の方に向かい保管庫を漁り始め、カット済みと思われる石を1つ持ってきた。
「もし大丈夫なら、これを従魔達に装着してみてくれないか? この宝石はやるから」
そう言って渡された宝石は白く濁っているが、光の加減で青みがかった色合いに変化している。
形は楕円形のカボションカットである。
「この宝石は?」
「月長石……ムーンストーンといった方がわかりやすいか? この辺りで偶に手に入るんだよ。それは俺がウィンタークエストで手に入れた特殊アーツで加工したもんだ。特にプラスになる効果ではないが、お前のスキルで従魔に装着するとどうなるか知りたいんだ」
ウィンタークエストで手に入れたアーツか……。
渡された月長石を対象にして魔石晶従魔術を発動させると、魔法のレベル3まで付与する事ができそうであることが分かった。
俺はアートに再度、確認を取った後、月長石を対象にエンチャントを発動する。
月長石の色合いから相性が良さそうなのは、光か闇、もしくは空間魔法だろうか。
空間魔法は未だエンチャントをしたことが無いので、ちょうどいいだろう。
俺は月長石へレベル3のエンチャントしてみる事にした。
フォローオラズ 小 (ムーンストーン)(カボションカット)
エンチャント ・・・空間魔法LV3
※他プレイヤーに譲渡不可・エフェクト付与有り
ちゃんとエンチャントできたか確認するために、フォローオラズを鑑定したのだが、答えを見てしまった気がする。
ちょっと申し訳ない気分になりながら、未だフォローオラズを装着していないグリモに装着してみる。
グリモの装着が完了すると、ブックカバーの表紙に当たる部分が盛り上がっている。
……今度、グリモのブックカバーを作ってもらう時は、この辺りに穴をあけてもらおう。
俺は床にエイコンの実を置いて空間魔法を発動してみる。
すると、エイコンの実が俺の手元に来る直前に耳元で何やら物音が聞こえた。




