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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
7.エルフの皇国
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162.孤児院

 以前、イニシリー王国で訪れたリエリアさんの孤児院と同じく子供たちの声が聞こえてきた。

 俺が孤児院の敷地に足を踏み入れると、庭で遊んでいた子供達が一斉にこちらに視線を向ける。

 しかし、こちらに走り寄ってくる者はおらず、何人かが建物の方へと駆けていった。

 しばらく待っていると、エルフの男性が子供たちに連れられてこちらへやってきた。

 見た目は壮年の優しそうなおじさんといった風体をしている。


「私はこの孤児院の院長をしています。 ガンデーというものです。今日はどのようなご用件でこちらにいらしたのでしょうか?」

「自分はプレイヤーのウイングと言います。本日は司書ギルドの依頼で……--」

「プレイヤーきらーい!」


 俺が自己紹介と目的を話そうとしたその時、ガンデーさんを連れてきた子供の一人が言葉を遮ってそんな発言をする。

 声のした方へ視線を向けると、他の子供たちもあまり歓迎しているような顔ではなかった。


「こらこら、初対面の人にそんな事を言ってはダメだよ。それにプレイヤーだからって君たちを怖がらせるような人ばかりではないだろう?」

「……はーい」


 まだ納得してはいないようだが、一応矛を収めてくれるらしい。

 相変わらず俺をにらみつけてきているが、院長の後ろに下がってくれた。


「えーと、司書ギルドから依頼を受けて放火事件の調査をしています。これ、俺のギルドカードと司書ギルドの許可証になります」


 俺は目的を伝えつつ、ガンデーさんにギルドカードと司書ギルドの許可証を提示する。

 

「それでこの孤児院の関係者が放火事件に関わっているという情報がありましたので、話を聞こうと思ったのですが……」

「やはりそうですか……」

「はい。俺は司書ギルドの方達が調査の続行が困難という事で、代理で調査を依頼されました」

「…………わかりました。立ち話するような内容ではないので、建物の中に移動しましょう。従魔達は庭に待機していただければ」


 返答まで多少間はあったものの、一応話をしてくれるようだ。

 従魔達を待機させるのも問題ないだろう。

 俺の従魔達は比較的待つことには慣れている。

 しかし……。

 俺は庭の様子を確認した後、ガンデーさんに提案をした。


「あのー。話をしている間、俺の従魔達を子供達と遊ばせててもいいですか? 従魔達もただ待機しているより子供たちの相手をしていた方が退屈しないと思うので」

「従魔達を、ですか?」


 ガンデーさんは俺の提案を受け、俺の従魔達に視線を向ける。

 やはり、急に現れたプレイヤーの従魔に子供を預けるのは不安なのだろうか?


「大丈夫ですよ。以前、他の国の孤児院でも経験があるので、子供達を傷つけたりしません」

「あ、いえ。そのような事を疑っているわけではないのですが……」

「それに子供たちは興味津々みたいですよ?」


 リエリアさんのところにいた子供達と違って、すぐに駆け寄るような事はしないが、俺の従魔達が気になるようで遠巻きにこちらを窺っているようだ。

 ガンデーさんも俺の言葉で、子供たちの視線に気づいたようで、恐縮しながら提案を受けてくれた。


「じゃあ。そういう事だから、子供たちの遊び相手になってやってくれ」

「クー」

「……」

「\(^o^)/」

「キューー!」

「………………チュウ」


 ハーメルも不承不承といったようであるが、一応了承してくれたらしい。

 変に嫌がって逃げ回ると、子供たちが面白がって追いかけまわすもんな。

 まぁ、でも従魔も増えたことだし嫌なら無理に子供の相手をさせることもないか?


「あー、今回は無理にとは言わないぞ? 気が進まないならどこかで待機していてもいい」

「チュウ!」


 俺の発言を聞いたハーメルは、先ほどまでのげんなりした雰囲気が一変して元気な声を上げた。

 余程、子供たちに追い掛け回されたことが嫌だったと見える。

 他の従魔達は問題ないようで、そのまま庭の方に移動を開始した。


「わーい!」

「本当?」

「遊ぶ、遊ぶ!」


 少し離れたところで、子供たちの歓声が上がる。

 どうやら、ガンデーさんの方も話が終わったようで、子供たちが従魔達に向かって駆けていく。

 最初警戒心はどこへやら、子供たちは楽しそうに従魔達に突撃していた。


「はは、気を使っていただいてありがとうございます。それと申し訳ありません。最初に警戒するような態度をとってしまって。これでは子供たちの事は言えませんね」

「いえいえ、このような情勢です。どこの誰ともわからない人物がいきなり訪問してくれば疑うのも当然です」


 そんな話をしながら孤児院の一室に案内される。

 案内された部屋はテーブルとソファが置かれただけのシンプルな部屋だ。

 ガンデーさんは俺が部屋に入るのを確認すると、扉に施錠する。


「すまないね。子供たちに聞かせるような内容ではないから」

「まぁ、そうでしょうね」


俺がソファに腰を下ろすのを確認したガンデーさんは、自らも腰を下ろし話し始めた。


「話を始める前に、もう一度謝罪を。司書ギルドの依頼で図書館の放火事件を調べているという事なのである程度知っているかもしれませんが、この孤児院の関係者が事件に関与していました。その為、関係各所から情報提供の依頼があり……--」


 ガンデーさんは言葉の最後を濁していたが、かなり強引な調査も入ったのだろう。

 子供たちの反応から、一番強引な調査をしたのがプレイヤー達といったところか。

 そうすると、腑に落ちない点がある。


「事情は理解しています。ただ、プレイヤーにいい感情を持っていない割には切り替えが早かったですよね?」


 ガンデーさんもそうだが、子供たちの切り替えが早かったのは違和感を覚える。

 俺とガンデーさんとの会話に割り込んできた子供も、一度引いた後は大人しかった。

 ガンデーさんは苦笑いを浮かべつつ、俺の質問に答えてくれた。


「そうですねー、別にプレイヤー全体に悪感情を持っているわけではないんですよ。……確かにこの孤児院に何かあると思ったのか、強引に庭の中へ押し入り子供たちを脅したプレイヤーの方はいました。ですが、私が子供たちに受け入れられる要因を作ってくれたのも、またプレイヤーだったんです」

「詳しく聞いても?」


 ガンデーさんがこの孤児院にやってきたのは、ウィンターイベントの少し前くらいだったという。

 しかし、前の院長を好いていた子供たちはなかなかガンデーさんを受け入れてはくれなかった。

 子供たちと仲良くなる為、おもちゃを作ってもらったりもしたが効果は見られず、苦悩する毎日だったそうだ。


 そんな中、手を差し伸べてくれたのがプレイヤーの細工師だったという。

 エルフの男性は総合ギルドで依頼を受け、孤児院にやってくると、瞬く間にあのクリスマスツリーを作り上げたという。


「子供たちはあの木を飾り付けてくれたプレイヤーの方を気に入ったようで、彼を連れてきた私の事も少しずつ認めてくれたんです。だから、子供たちもプレイヤーの人と一括りにするような子は少ないです。私たちの会話に割り込んだ子も、おそらく私を心配して牽制するつもりだったんだと思います」


 どうやら切り替えが早いというよりは、良いプレイヤーも悪いプレイヤーも見てきたから、ひとまず様子を見ていたようだ。

 おそらく、子供たちなりの基準があり、俺というより従魔はその基準を通ったというところかな?

 調査の進捗によっては、何度か来ることになると思うので、俺も嫌われないように努力するとしよう。


「えっと、それでは放火事件の関係者と思わしき人物たちについてお話をお聞きしたいと思います」

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