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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
7.エルフの皇国
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159.話を聞き……

「よろしく頼む」


 話し合いが終わった俺は、コペルさんに見送られつつ司書ギルドを後にする。

 走ってきた道を引き返し、総合ギルドの転移の扉からマイルームへ移動しログアウトした。

 司書ギルドでかなりの時間を消費してしまい、ログイン時間の限界がきてしまったためだ。


 ゲームからログアウトした俺はキッチンへ向かい、夕食の準備を始める。

 俺は鍋を火にかけながら、先程ゲーム内での出来事について思い出す。

 ようやく気持ちが落ち着いてきたからか、今さら沸々と怒りが湧いてくる。

 ゲーム内では大図書館が放火された事実が衝撃的だったので、怒りを覚える余裕すらなかった。


 正直、アールヴ皇国内で起こっている紛争を甘く見ていた。

 正確に言えば、俺の目的とは関係ないと思っていたというべきか。

 今まで渡り歩いて来た国々はモンスターという脅威は存在していても、街の中の治安は良い所ばかりだった。

 比較的安全なルートを選択した事もあるが、今までの国は同じ目的の為に人々が集まってできた所である為か、小競り合いは有れど大きな争いは無かった。


 その為、多少治安の悪いと言われていたアールヴ皇国でも、危なそうな事案をスルーすれば大丈夫だと慢心していたのだ。

 “司書ギルドはアールヴ皇国の紛争とは関係ないから大丈夫だろう”、と。

 よく考えればわかる事だが、歴史的な問題で争いになっているアールヴ皇国において、歴史的資料などが保管されている大図書館は第1目標に設定されていても何ら不思議の無い施設だ。


 その他の地域でも、不都合な資料が納められている可能性のある大図書館はいつ狙われても不思議ではないのだ。

 それでも図書館が各地で運営できているのは偏に司書ギルドが努力した結果だろう。


 このゲーム内でいくつかの司書ギルドの支部を見てきたが、どこの支部も他のギルドや国、組織に協力的だった。

 イニシリー王国で見た王城の書庫を整理するクエストや魔物使いの国パラティでモンスターの情報整理を請け負っていたのが良い例だ。

 そういう仕事を請け負う事で友好的な関係を築きつつ、もしもの時は手に入れた情報を盾にして図書館や司書ギルドに干渉させないようにしていたのだろう。


 逆に司書ギルドも各地域で起こっている問題には不干渉を貫くことで、無暗にトラブルに巻き込まれるのを防いでいる。

 司書ギルドの総本山である知識の国の立地からもこの事が伺える。


 今回の件でもそのような考えで動いていたと思われる点がいくつかある。

 例えば、イニシリー王国で考古学者のお爺さんが持っていた手記の内容を一部削除した事だ。

 現時点で失われた言語であるエルフ語を公開すると、アールヴ皇国で起こっている紛争に間接的にかかわってしまう可能性があった為、削除したのだろう。


 それならばハイエルフの事が書かれた手記そのものを非公開にする方が良かったはずだ。

 そうしなかったのは……おそらく考古学者のお爺さんが積極的に公開する事を求めたからだろうか?

 俺の「手記を書いた人物の意を酌むべきだ」という主張に、お爺さんが賛同していたので写本の公開を強く要望した可能性は高い。

 その結果、妥協点として前半のハイエルフの部分が残り、後半のエルフ語と思われる部分が削除されたのだと思う。


 それが結果としてこの大図書館の放火に繋がった可能性があるならば、俺にも責任の一端があるのかもしれない。

 そう思うと、先程まで怒りで占められていた感情に後悔と懺悔の念が混じる。


「お兄ちゃん! 鍋! 鍋ッ!」


 俺が思考の海に潜っていると、近くから春花の声が聞こえてきた。

 言われるままに鍋を見てみるとすでに吹き零れるギリギリのところまで煮立っている。

 俺は慌ててコンロの火を止める。


「悪い。少し考え事をしていたんだ」

「も~。危ないから気を付けてね! けど、珍しいよね? お兄ちゃんが料理中にそこまで考えるのに没頭するなんて」

「ちょっとな」


 そんなやり取りをしながら何とか料理を完成させた俺は、夕食を取りつつ春花にアールヴ皇国での話をする。

 春花は図書館放火事件についてはフレンドから聞いていたようであまり驚いてはいなかったが、俺が事件の解決を依頼された事については驚いていた。


「他のプレイヤー達がどう動いているか知ってるか?」

「うーん。私たちは和の国に向かっている最中だから詳しくは知らないけど、結構危ない感じだとは風の噂で聞いたかな?」

「例えば?」

「そうだね~。ハイエルフの情報が欲しい人たちが皇宮に突撃しようと言い出したとか、犯人を探し出すためにNPCに恐喝紛いな事をしているとか」


 春花の話を聞きながら思い返されるのは、到着した当初の皇都ルナでの光景だ。

 外を歩いている者が少なく、歩いている人を見かけても物騒な雰囲気を纏っているプレイヤーや張り詰めた空気を纏う兵士ぐらいだった。

 もしかしたらあれは、放火事件そのものよりも、その後のプレイヤーたちによる行動の結果、あんな殺伐とした状況になっているのかもしれないな。


「あっ! お兄ちゃん! その司書ギルドの依頼は他の人に話したりした?」


 再び思考の海に飛び込もうとしていた俺を春花の呼びかけが引き戻す。


「ん? いや、大図書館の現状やクエストの内容を聞くのにログイン時間の大半を使ってしまったからそのままログアウトしたぞ」

「それなら、クエストについては信頼できそうな人以外は話さないほうがいいよ。どうも噂の中に「プレイヤーの中に放火犯がいるのでは?」みたいなのもあったから」


 今回の図書館放火事件がワールドクエスト絡みである事はまず間違いない。

 そして、今回の犯人はクーデターを起こした獣人サイドに与する人物である可能性が高いだろう。

 アールヴ皇国が抱える問題は種族的なものが大きく絡む関係上、皇国側だけでなくクーデターを起こした獣人サイドにもそれなりの数のプレイヤーが協力しているらしい。


 春花の協力者は慎重に選ぶべきだという意見は正しいだろう。

 事件の早期解決の為には多くの協力者を募りたいところだが、無作為に声をかけてクーデター側の人が紛れ込むと、事件解決の足を引っ張られたり、司書ギルドに保管してある書物が狙われる恐れもある。

 早く事件を解決してチェーンクエストを終わらせたいところではあるが、焦って司書ギルドにある本まで燃やされたら悔やんでも悔やみきれない。


「まぁ、俺もアールヴ皇国に着いたばかりだからな。すぐに協力者を募るようなことはしないさ。まずは1人で情報収集してみるよ」

「1人と6匹……匹? 1人と4匹と1体と1冊? でしょ!」

「はは、そうだな」


 そうして夕食を終えた俺は再びゲームにログインする。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] …主人公に罪は無いだろう! …そんな身も蓋もないことを言うなら、俺は原因は紛争をストーリーに盛り込み、種族進化の情報を中途半端に隠したことでプレイヤーやNPCを焚き付けて、さらに炎上さ…
[一言] あけましておめでとうございます。 更新ありがとう。次からようやく情報収集ですな。楽しみにしてます
[良い点] あけましておめでとうございます。 [一言] うん、やっぱりこれくらいは感情揺れてないと今までの主人公像と乖離してわけわかんなくなる。長い茫然自失の時間は終わったみたいね。
感想一覧
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