表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
7.エルフの皇国
171/268

158.司書ギルドで②

 コペルさんが立ち話もなんだという事で、個室に案内される。

 ここまで案内してくれたニーベルさんは、他の職員を手伝うという事でカウンター裏の本棚へと向かっていった。

 案内された部屋は、以前イニシリー王国で本の修復クエストで利用したような部屋だった。


「結論から言えば、司書ギルド的にそれ程大きな損害は無いと言っていいだろう」

「えっ?」

「厳密にいえば、建物さえ直せば図書館を再開できるといったところか」


 お互いが椅子に腰かけたところで、コペルさんがそんな事を言ってきた。

 コペルさんの話によると、このアールヴ皇国は昔から治安の悪い地域だった為か本の盗難や立ち入り禁止エリアの侵入未遂等、様々なトラブルが頻繁に起こっていたそうだ。

 その為、本の盗難や図書館への攻撃に対して対策がなされていた。


「ここの図書館は、他の図書館で使い古された物や新人職員が練習で写本した本ばかりが納められていたのだ。そして、今回のように本を失う事態が発生した時のために、この司書ギルドにも大量にそのような本が保管されている」


 周りの職員たちが忙しそうにしているのは、図書館再開のためにギルド内の蔵書を確認しているためだろう。

 イニシリー王国の図書館では、古くなったり傷ついた本はお婆さんの古本屋に回されていたが、ここではそのまま司書ギルドが保管しているようだ。

 俺はその話を聞いて、明らかにおかしなところがあったので質問してみる事にした。


「俺が聞いた話では、ここの図書館が全焼したのは二十日くらい前の事のはずですが、なぜ今だに瓦礫の撤去をしていないんですか? 先ほどの話では建物さえ再建できれば、図書館を再開できるとの事でしたが……。それに危険図書はどうしているのでしょうか? ああいった本は写本というわけにはいきませんよね?」

「まぁ、当然の疑問だな」


 コペルさんもその疑問を予想していたようで、当然の疑問だと頷く。


「簡単に言えば、その危険図書を守るために瓦礫をそのままにしている」

「危険図書を守るためですか?」

「そうだ。図書館の地下に危険図書を保管している部屋があるのだが、瓦礫を撤去してしまうと地下室の入り口が野晒しになってしまうんだ。そのような状態になれば、出入り口の警護をするために多くの人員を割く必要が出てくる。それならば、瓦礫で塞がった今の状態をキープしていた方が都合がいいのだ」


 コペルさんの言い方だと危険図書が納められている部屋の状態は心配していていないようだ。

 普通ならデリケートな危険図書の状態は最優先に確認したいはずだが、よほど地下室は堅牢に作られているのだろうか?

 しかし、それでは今回の放火事件が解決するまで図書館の再建が行えないと思うのだが……。

 俺がそこまで考えたところで、コペルさんは含みのある笑い方をする。


「君が今、何を考えてるかわかるよ。確かにこのままではいつまで経っても図書館を建て直す事は出来ないだろう。それでなんだが、君に一つ依頼をしたいと思っている」

「……クエストという事ですか?」


 何やら、話の流れが怪しくなってきた。

 アールヴ皇国に着いたばかりで、ここと総合ギルドぐらいしか行ったことが無い俺に何を頼もうというのか?


「その通りだ。なに、話の流れからもわかると思うが、今回の放火事件を解決してほしいのだ。最悪、犯人の特定だけでもいい。報酬は地下室に入るための紹介状でどうだろうか?」

「いくつか質問してもいいですか?」


 ……………………。


俺はコペルさんにクエストの内容を確認しつつ、気になる点を質問していく。

クエストの詳細は以下の通りである。



図書館放火事件の解決

 依頼者 司書ギルド支部長コペル

 報酬 危険図書保管室の入室の為の紹介状、他追加報酬有り


1.このクエストを受注しているのは現在俺だけである。理由は、この国で自由に動ける司書ギルドに所属した者が俺だけである為。


2.協力者ができた場合は、司書ギルドに報告する事。協力者の報酬は司書ギルドが別に用意する。


3.アールヴ皇国にも協力要請は出しているが、それどころではない状況なので頼りにはできない。


4.俺のクエストクリアが困難であると判断された場合、司書ギルドの本部に救援要請が出される。その場合、図書館の復旧は相当先の事になる。


5.クエストの完了が確認されたら、すぐに瓦礫の撤去が行われる。



 クエストの内容的にはこのような内容だった。

 最初クエストの詳細を確認した段階では、受けるかどうか半々といった心境だった。

 何となくではあるが、この放火事件の犯人像が見えていたからだ。


 コペルさんに放火事件が起こった状況を確認した時、職員がプレイヤーに紹介状を渡してすぐに起こったと言っていた。

 これが何の関係もないとは考えにくい。


 そのプレイヤーはハイエルフについて調べていたようで、調査が煮詰まったところで危険図書に目を付けたらしい。

 毎日図書館に通い、何とか職員に紹介状を書いてもらっていたという。

 つまり、このプレイヤーがハイエルフについて調べていたのは周知の事実だったはずだ。

 そうでなくても、この国を目指していたプレイヤーのほとんどがハイエルフについて調べていたことだろう。


 そのような状況を見て、危機感を覚えるとすればエルフと敵対している獣人達だろう。

 プレイヤー自身にその気がなくとも、結果としてエルフ達の強化に手を貸すことになる。

 もし、本当に危険図書の中にハイエルフに関する本が存在した場合、ただでさえ劣勢の状況がより悪くなるのだ。


 放火現場の検証からいろいろ細工されていたということだから、前々から計画されていたのだろう。

 それが、プレイヤーが大々的にハイエルフについて調べだしたから、このタイミングで実行したのかもしれない。


 つまり、放火事件の解決を目指せば、アールヴ皇国のワールドクエストに巻き込まれる可能性が非常に高いのだ。

 アールヴ皇国に到着した時に見たプレイヤー達の様子を見るに、あまり芳しくない状況であることは明らかである。

 正直、俺がクエストクリアを目指すより、他のプレイヤーがこの国の問題をクリアするのを待ちつつ他の国へ向かうのも有りだと思う。


 そんな俺がクエストを受ける決心をしたのは、コペルさんに最後に投げかけた質問の答えだった。


「そのクエストを受けるか決める前に聞かせてください。ここにある本はすでに使い古された本や写本の練習で出来上がった本かもしれませんが、損失が無かったなんて言ってほしくなかったです。それも司書ギルドの支部長にまで上り詰めた方なら、今までずっと本を大切にしてきたはずです。……どうして、そんな言い方を」


 確かに図書館にあった本は失う事を前提としていたのかもしれないが、間違いなくこの人達が守るべき財産だったはずだ。

 ゲームのストーリーと言ってしまえばそれまでかもしれないが、一読書家として聞かずにはいられなかった。


 俺の質問を聞いたコペルさんは一瞬目を見開いた後、震える手で自らの口元を抑える。

 どうやら本人も意図してそんな言い方をしたわけでは無いらしい。

 コペルさんは沈痛な表情をした後、後悔のにじむ声で語りだした。


「……そうだな。私がそのような言い方をするべきでは無かったな。ここの司書ギルドで働き始めてから、当たり前のように盗難や損傷の話が飛び交っていた。どうやら悪い方向で慣れてしまっていたようだ。すぐに治るかわからないが、これからは気を付けるよ。それと、不快にさせてすまなかった」


 そう言ってコペルさんは俺に頭を下げてきた。

 どうやら長い間この国の問題に悩まされていたために、感覚が麻痺してしまっていたようだ。

 俺はそんなコペルさんの様子を見て、このクエストを受ける事を決めた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の性格などを考えるに、コペルさんへの言葉はごもっとも。…そうやってコペルさん(NPC)のAIは成長する…のですかね? [気になる点] 今回の放火事件、プレイヤーが動いたことが切っ掛け…
[気になる点] >どうやら本人も意図せずそんな言い方をしたわけでは無いらしい。  二重否定ですから、『わざとそんな言い方をした』ということですよね? その後のセリフからは感覚が麻痺していて『ついそう…
[気になる点] 荒事確定だけど主人公はそこまで強いわけでもなく……誰にHELPコールするのかなぁっと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ