157.司書ギルドで①
2019.12.18 看破スキルの下りを少し変更しました。
「あの……。どちら様でしょうか?」
どれ程時間が経過しただろうか。
俺が目の前の光景に唖然としていると、後ろから声をかけられた。
声をかけられたことで飛んでいた意識が急速に戻ってくる。
そのまま声のした方に視線を向けると、司書のギルド職員と思わしき服装をしたエルフの男性が立っていた。
自信のなさそうな表情とスラッとした細身の体型を猫背に曲げている彼は、頼りなさそうな印象を受ける。
「……ああ、すみません。自分はプレイヤーのウイングと言います。俺は大図書館に用事があったのですが、総合ギルドで場所を聞いたときにここが大変なことになっていると聞いたので確認しに来ました」
「成程。あっ、じ、自分は司書ギルドの職員でニーベルと言います。現在はこの大図書館回りの掃除をしているところです」
彼はそういいながら、うず高く積まれた炭の山を指さした。
やはり俺の前にうず高く積まれているこの焼け焦げた瓦礫の山は、大図書館の成れの果てという事か……。
総合ギルドで聞いた話では、俺が魔物使いの国を出ようとしていた頃に、この辺りでボヤ騒ぎが発生したらしい。
この大図書館だけでなく至る所で火の気が上がり、いくつかの建物は真っ黒な瓦礫と化してしまったそうだ。
森の中にあるアールヴ皇国では、火の取り扱いは厳しくルールが定められている。
当然、火災が発生した時の対処法なども決まっていたらしい。
しかし、今回の火災では多くの建物が全焼する事態となってしまった。
どうやら全焼した建物には、意図的に火の回りが早くなるように細工が施されていたらしい。
おそらくアールヴ皇国の法律をわかっていて、消火される前に全焼させたかったものと思われる。
このことから、今回の火災は放火であると断定されているそうだ。
「か、確認したいのですが、ここに収められていた本はどうなりましたか?」
「あー、えっと。それについてお話しする前に、あなたのギルドカードを確認させていただいてもいいですか?」
「……確かにこのような状況ですからね。わかりました」
俺がここに来るまでに見た限りでは、燃えていた建物はこの大図書館以外、どれも一軒家と思われるものばかりだった。
以前の状態が分からないので確信は持てないが、犯人の目的は大図書館を灰にすることだった可能性が高い。
そんな状況で現場にやってきて、蔵書の事を確認する俺は怪しさ満点だろう。
犯人は現場に帰ってくるというのはお約束な話だ。
「ひとまずギルドカードの確認はできました。そ、それと司書ギルド所属の……それも高ランクの方だったんですね」
「ん? ああ、一応Bランクではありますね」
「すみません。気分を害されたかもしれませんが、こ、これも仕事なんです。炭の瓦礫となった図書館にわざわざやってくる人ってそれほど多くないので、だ、誰か来たらギルドカードの確認をするように支部長に指示されてて……」
ニーベルさんは確認が終わると同時に、しどろもどろになりながら言い訳じみたことを口にする。
状況を考えればギルドカードを確認することはおかしなことではないし、別に怒ってはいない。
特に怖がらせるような顔の作りでもないはずなんだが。
「そんな慌てなくても、確認を取られたことに怒ったりしませんよ。この状況を見れば仕方のないことだとわかりますし……」
「す、すいません。詮索されること自体を嫌う人もいるので……。あっ、ここの蔵書がどうなったかでしたよね? こ、ここではあれなので、司書ギルドまで来ていただいてもいいですか?」
俺はニーベルさんに案内されるまま、俺達がいた位置とは図書館跡地を挟んで、向かい側にある建物までやってきた。
その建物はこの国で見てきた建物と違い、外壁をコンクリートのような素材で包まれた2階建ての建物であった。
ニーベルさんと共に建物の中に入ると、正面にカウンターのようなものがあり、その奥に本棚のようなものが見える。
数人の職員を見かけるが、皆忙しそうに本棚の整理をしていた。
「支部長ー。お、お客さんでーす」
「煩い! そんな大きな声を出さんでも聞こえるわ!」
「す、すみませーん」
俺が一通り建物の中を観察していると、ニーベルさんが大声を上げた。
その声に反応して本棚の影から、一人のご老人が顔をのぞかせる。
ご老人は俺たちの傍までやってくると、静かな建物の中で大声を上げたニーベルさんを叱り始める。
周りの職員は見慣れた光景らしく、少し視線を向けるも、すぐに作業に戻っていった。
「まったく、大声出さんでも近くにいる奴に呼んできてもらえば良かろうに」
「すみませーん」
「あの、よろしいでしょうか?」
何やら孫を叱るお爺さんよろしく長々とした説教タイムに突入しそうだったので、止めに入る事にした。
「む? そういえばニーベルがお客さんと言っておったな。いやー。すまん、すまん。外を見てもらえばわかると思うが、ここ最近忙しくて気が立っていてのう……。儂はここの司書ギルドで長を務めておるコペルだ」
「いえいえ、お気になさらず。俺はプレイヤーのウイングと言います。実はニーベルさんに図書館に収められた本はどうなったか聞いたところ、ここに案内された次第で……」
俺がそこまで言うと、ご老人改めコペルさんは先ほど説教されて縮こまっているニーベルさんに視線を向ける。
「ニーベル。ここまで連れてきたという事は、問題ない人物という事でよいな?」
「は、はい! ウイングさんのギルドカードも確認しましたが、特に偽装されたような痕跡もありませんでした。そのうえ、司書ギルドのランクもBであり、事情を説明しても問題ないだろうと判断しました」
「ふむ。ウイング殿は司書ギルドのBランクか……。どこかの図書館で紹介状をもらったことはあるか?」
「はい。イニシリー王国の王都とパラティの首都トルトゥーラにある大図書館で職員の方からいただきました」
コペルさんが紹介状を見たいという事で、アイテムボックスから2枚の紹介状を取り出す。
俺の手にある紹介状をしばらく凝視したコペルさんは、数度頷いた後。
「嘘はついてないようだのう」
と呟いた。
俺は今の言葉の意味が分からず、ニーベルさんに視線を向ける。
「え、ええっと。支部長は高レベルの看破スキルを持っていまして……。お、おそらく紹介状が本物かどうか調べたんだと思います。紹介状が偽装した物ならば、看破スキルが反応しますから……」
「すまんな、何分あのような事が起こったばかりなのでな。こちらも警戒せんわけにはいかんのだよ」
「確かにこのような事があった後では、警戒しない方が職務として問題がありますからね」
「本来は起こる前に止められれば、最高なんだがのう……」
俺としても、しっかりと守ってほしかった。
そんな思いが顔に出ていたのか、俺の顔を見たコペルさんが苦笑する。
「どうやらウイング殿は信用に足る人物のようだし、蔵書について教えよう。ここから先は他言無用で頼むよ」
「わかりました」
ようやく本題を聞くことができそうである。




