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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
7.エルフの皇国
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153.ワールドクエスト

 すべての取引が終了した俺はアート達に礼を言い、工房を後にする。

 次の目的地までは馬車でゲーム内の時間で20日以上かかるため、できるだけ早く出立したい。

 マイエリアで待機している従魔達と合流した俺は、そのまま馬車の発停所へ向かう。


 ……………………。


----------



アートの工房



「アートさんよく同じ宝石持ってましたねー? 飽き性なアートさんなら同じ宝石を手に入れた時は違う形に加工するじゃないですかー」

「そういえばそうっすね。何か別の依頼を受けた時の残りとかっすか?」


 ウイングが去った後も生産クランの3人はそのまま世間話に花を咲かせる。


「あー、あの宝石が沢山手に入った時に練習で加工しておいたもんだ。練習で作ったもんでも出来のいい奴は取っておくようにしてんだよ。今後もウイングが俺をひいきにしてくれるんなら、もう少しストックしておいた方が良いな」

「えっ! あの値段で売った物が練習用っすか……。ドンハールさんにバレたら、やばいんじゃないっすか?」


 アートの発言にイトスが苦言を呈す。


「いやいや、あの宝石は珍しくないまでも品質の良いもんだぞ。それを高レベルの細工師が綺麗にカットしたもんだ。少なくとも暴利じゃないし、練習で作ったもんだから多少安くしてるぞ」

「ていう事はー、綺麗にカットするとあの値段になる宝石を練習に使ったってことですか? それはそれで恐ろしいですねー」


 そんな話をしているとアートが突然、思案顔になる。


「どうしたんすか?」

「いや何、ウイングのフォローオラズだっけ? あれに俺の特殊アーツによる加工を施したら楽しそうだなと思ってな」

「あー、そういえば冬のイベントで面白いアーツを手に入れたとか言ってましたねー」

「今度、提案してみたらどうっすか?」

「そうだな。次依頼が来た時にでも聞いてみっか!」


 そして話題は次の事柄に移る。


「アートさんって今エルフの国にいるんですよねー」

「おう! そこの孤児院でウィンタークエストを受けたんだ」

「なんかー、エルフの国で進展があったとかなかったとか聞いたんですけどー」

「あー……。それなー……」

「どうしたんっすか?」


 歯切れの悪いアートの態度にイトスが疑問を投げかける。


「ハイエルフの情報を手に入れるには、皇族に聞くのが手っ取り早いみたいな話は聞いたことあるか?」

「それはもう、真っ先に出た上位種族の情報ですから有名な話ですよねー」

「でも、国が緊張状態っすから、なかなか謁見できないって話じゃなかったでしたっけ?」


 イトスの発言にアートは頷く。


「そこでだ。遠回りになるかもしれないが、図書館から探りを入れる事になったんだよ。ほら、ハイエルフの情報が最初に出たのもイニシリー王国の大図書館だっただろう? それならエルフの国の大図書館にならもっと詳しい情報があるんじゃないかって」

「まぁ、当然といえば当然の流れっすね」


 アートの説明にイトスが頷きながら相槌を打つ。


「で、だ。調べていくうちにハイエルフの特徴みたいなもんはわかってきたんだが、肝心の上位種族へ至る手段がわからなかった。そこで、プレイヤーたちが目を付けたのが立ち入り制限のある部屋だ」

「あっ、聞いたことあります。確か、へんな効果の付いた本が納められた部屋があるんですよねー」


 ミーシャのふわっとした認識にイトスとアートが苦笑を漏らす。


「まぁ、その認識で間違っていないんだが、そういった部屋に入るには現地の司書ギルド職員から紹介状を書いてもらわないといけないんだが……」

「ん? プレイヤーがエルフの国に入ってから、だいぶ経ってるはずだから誰かが紹介状もらっても不思議じゃないっすよね?」


 そこでアートは苦い顔をする。


「それがな、つい最近の事なんだが……………………」



----------



北条寺家リビング



 トルトゥーラで馬車に乗った俺は、一度ログアウトして夕食の準備を始めていた。

 春花は俺より帰りが遅かったためか、いまだ自室でゲームの真っ最中のようだ。


 俺が夕食の準備を終えた頃、大きな物音立てながら春花がリビングへやってきた。

 VRゲームの機器の中にいたとは思えないほど、息が乱れている。

 春花のただ事ではない様子に俺は疑問を投げかけた。


「どうしたんだ、そんなに慌てて? まさかゲーム機器が壊れたとか? それなら俺から運営に連絡してもいいが……」

「そんなんじゃないよお兄ちゃん! ついにワールドクエストがクリアされたんだよ!」


 興奮しすぎて言葉足らずの妹の発言に首を傾げる。

 とりあえず春花とともに夕食を取りながら、先ほどの発言の説明をしてもらう事にした。

 春花も食事をとっているうちに大分落ち着いてきたようで、一つ一つ説明してくれた。


 まず、ワールドクエストについてだが、これについては俺も少し聞いたことがあった。

 ワールドクエストはこのゲームの冒頭で語られた、プレイヤーのバックグラウンドに関係している。


 ゲームの設定上プレイヤーとは、この世界アバンデントを見守っている創造神インフが招いた外界から来た旅人である。

 その目的はいまだ存在する諍いや断交などによる種族間の不和を解消し、交流を深めるきっかけを与える事だ。

 そして、そのきっかけに関わる大きな事柄に直面した時、発生するのがワールドクエストである。


 その規模は事柄によってまちまちだが、基本的に1人での攻略は不可能とされている。

 春花の話では、その一つが解決されたとアナウンスがあったらしい。

 それに加えて新要素の解放があったそうだ。

 それはズバリ、「ワールドレコード」の公開だ。


 ワールドレコードとはプレイヤーが世界に与えた影響を記録するものらしい。

 ゲーム内・ホームページのどちらからでも確認することができ、横書きの年表方式でクリアされたワールドクエストを確認することができるそうだ。

 

「それで? なんのワールドクエストがクリアされたんだ? 俺としてはエルフの国辺りで起こっている紛争とかだとありがたいんだが……」

「あー、そこじゃーないんだよねー。今回クリアされたのは、ずっと断交状態にあった東の果ての島国。まぁ簡単にいえば、和の国との国交の再開かな?」


 どうやら、江戸時代の日本と同じように鎖国状態にあった島国との国交をプレイヤーが回復させたらしい。

 ノブナガさんを筆頭にした和風クランのメンバーが頑張ったのだろうか?

 東の果てにある鎖国状態の島国と言われれば、真っ先に飛びつきそうではあるが……。

 もし、クリアしたのがノブナガさん達であったなら、遠からず刀の入手が叶うかもしれないな。

 

「それで? なんで春花がそんなに興奮してたんだ?」

「それがね。和の国に入った人が掲示板に書き込んでたんだけど、和の国に入ってすぐにいくつか上位種族の情報が手に入ったらしくてね。その中に狐獣人の上位種族もあったみたいなんだよ!」


 成程。ハルの種族は獣人(妖狐)だったはずだ。

 上位種族が解放されてからかなりの時間経過していたが、ようやく自分の上位種族についてわかるかもしれないとあっては、春花が歓喜するのも頷ける。


「しかし、掲示板に書き込んだ人は不用心じゃないか? そんな情報公開したらプレイヤーが殺到するだろう?」

「そのプレイヤーも最初は公開するつもり無かったみたいだよ? だけど、ワールドレコードが公開されたでしょ? そのせいでどこの問題が解決したかわかるから情報を求めてプレイヤーが集まってくるのは確実なわけで……。それならある程度情報を公開して、集まってくる人を減らすって目論見があるらしいよ」


 つまり、上位種族の情報を公開することで、関係ない種族のプレイヤーが興味を失う事を目的にした情報公開という事か……。


「春花はこれから和の国に向かうのか?」

「そうだね。今回はいつものパーティーで和の国に向かうつもりだよ。他のパーティーメンバーも和の国特有の転職先とかに興味あるらしいし」


 夕食を食べ終えた俺は片づけを春花に任せて自室へと戻る。

 今日はそのまま寝るつもりだったが、少しログインすることにした。

 ワールドレコードが気になるのもそうだが、春花の言っていたワールドクエストをクリアしたのがノブナガさん達ならば、刀についても進展があったかもしれない。

 俺はノブナガさんに進捗を確認するべく、本日2度目のログインをするのだった。


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