表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
7.エルフの皇国
165/268

152.細工師とフォローオラズ

「あんたが依頼主ってことでいいんだよな?」


 笑顔で近寄ってきたエルフの青年は俺に視線を合わせて話しかけてきた。

 そして、俺が口を開くより先に隣にいたイトスが返答する。


「そっす。こちらテイマーのウイングさんっす! ウイングさん、こちらはアートさんと言って今回紹介する細工師の人っす」

「ご紹介に与ったアートってもんだ。厳密にいやーPNプレイヤーネームはア-ト1128っていうんだが、面倒だろうからアートでいい。事前に依頼内容は聞いているが、ずいぶん珍しい依頼だな?」


 エルフの青年改め、アートはそう言って右手を差し出してきた。

 俺は差し出された右手を握りながら自己紹介をする。


「俺はイトスの紹介の通りテイマーをしているウイングといいます。今回は特殊な依頼を受けていただきありがとうございます」

「おう! ていうか、そのかたっ苦しい言葉遣いはやめてくれないか? さっきイトス達と話してたくらいの感じでいい。俺の方が年上っぽいがそれほど離れていないだろうしな」

「……わかった。今後とも同じような依頼をすることになるだろうし、俺もそっちの方が楽だね」


 俺達の自己紹介が終わると、さっそくとばかりに生産クランのホールからアートのルームへ移動することになった。

 ここで詳細を話してしまうと、俺の上位職についての情報が周囲に駄々洩れになってしまうからだ。


 コットンも話は済んでいたらしく、俺達が移動するのに合わせて生産クランを出ていった。

 俺はアートとフレンド登録を済ませた後、自分のマイエリアに戻り従魔達を待機させる。

 その後、アートから招待が来たので転移の扉を潜り、彼のルームに転移した。


 転移した先ではアートに加え、イトスとミーシャが俺を待っていた。

 この2人については装備を作ってもらう関係上、俺の職業の特性についてはすでに話してあるので問題ない。

 しかし、実際に職業スキルを使うところを見てみたいという事で同席することになった。


 初めて会った相手に自分の職業について話すのはリスクがある。

 しかし、ドンハールさんが太鼓判を押して尚且つ、イトス達の反応を見ても信頼に足る人物だろう。


「そんじゃ、まず依頼内容と予算、持ち込み素材の確認だな」


 アートがそういうと部屋の隅にある作業台へ案内される。

 アートのルームというか作業部屋は、煉瓦造りの内装に大きく頑丈そうな作業台が壁際に設置してあるだけの簡素な造りをしていた。


 作業台のそばまで来た俺はアートに自分の職業スキルと予算について話をする。

 正直、自分が持っている鉱石は初心者でも取れる低ランクの物ばかりなので、お金を払ってまで加工してもらう物でもない。

 ここに来る前にイトス達にも見せたが、全くの同意見だった。


「そうなると、俺へ依頼する時は素材もこちらで用意する形になるのか……。大分割高になるがいいのか?」

「そうですね。確かに安く抑えられるならこちらとしても好都合ですが、あまり採掘などする時間は取れないので、アートに予算に合わせて見繕ってもらった方が良いかと」


 アートはそこまで話をすると懐からいくつかの宝石を取り出してきた。

 赤い透明度の高い宝石やトラ柄のような石等、多種多様な宝石が様々なカットが施された状態で作業台の上を転がる。


「見本ってことで事前にカットしておいたもんだ。すでに鑑定士の職業を持つプレイヤーに鑑定してもらっているもんだからアイテムを手に取れば詳細が見れるはずだぞ。もしくはこっちの鑑定書でも確認してくれ。こいつを参考に加工する宝石のランクを決める」


 アートはそういうと数枚の紙を取り出してテーブルに並べる。

 紙にはそれぞれの石の特徴が書かれており、品質と値段。それに装飾に組み込んだ場合の付加価値・追加効果について書かれていた。


 このゲームは素材によって追加効果が発生する場合がある。

 例えば、今回俺が作ってもらった装備に使われている魔鉄鋼であるが、装備に使用するとただの鉄の装備より耐久力の上昇が多いだけでなく、魔法力も上昇する効果が追加される。


 宝石にも追加効果が発生するものがあり、種類によって追加される効果もさまざまである。

 オラズ・テイマーに転職する時に「鉱物知識」を取得するほどの知識が必要だったのもこの為で、性質の合わない魔法スキルを石に付与する場合はスキルが弱体化する恐れがあるのだ。


「ここにある宝石はそれぞれ品質や特性の違う宝石だ。よって鑑定書に書いてある値段もピンキリだ。さっき聞いた予算だと、最高値の宝石がギリギリ1個買えるくらいだったか……。従魔全員分揃えるなら真ん中くらいの品質かな」


 付与さえしなければMPを消費しないので、それぞれの石を対象に魔石晶従魔術を発動して付与できるスキル・種族特性を確認していく。

 最高ランクの宝石はさすがというべきか、種族特性を付与した上にさらに魔法スキルのレベル2まで付与することができる様だ。


 俺は吟味した結果、種族特性1つを付与できるランクの宝石を準備してもらう事にした。

 今回は種族特性を付与できればいいので、宝石の種類は指定しなかった。

 予算の都合上、今回は2つの作成を依頼するにとどまった。

 アートは「そのランクなら在庫がある」と言って作業台の下にあった保管庫と思わしき箱を引っ張り出し、物色し始める。


 アートが依頼に合った宝石を探している間、再びイトス達と世間話をする。

 先ほどは従魔達についてばかりだったが、今回は主にアップデートの件についての話が多かった。

 今回追加されたランキングや課金アイテムなどでゲーム内の空気がギスギスするのでは? という見解が多かったそうだが、実際はそれほど大きな影響は出ていないという。


 ランキングは匿名希望が多くてあまり役に立ってないらしい。

 課金アイテムの方もゲームの進行に関わってくるものはほとんどなく、目玉と思われる追加アカウント用のアイテム“新たなる可能性”というアイテムらしいがすさまじく高い為、購入されるかどうかも怪しいという。


 そうこうしている内にアートが依頼と合致する宝石を見つけ出したようで、俺に二つの宝石を渡してきた。

 どちらも同じ宝石でオールドマイン・ブリリアントカットという形にカットされた黄緑色の宝石だった。

 大きさは前回フォローオラズに使用した鉱石よりやや大きく。大体掌ぐらいの大きさだった。


 早速、魔石晶従魔術の対象にすると、確かに種族特性を1つ付与できることがわかる。

 俺はアートに代金を支払うと、片方の宝石に付与を施すことにした。

 イトス、ミーシャに加えてアートも興味津々とばかりに俺の手元に注目する。


 アーツを発動すると、前にテストした時と同じように宝石が薄く発光し始める。

 しばらくすると光が消えたので、宝石の状態を確認する。



 フォローオラズ 中 (ペリドット)(オールドマイン・ブリリアントカット)

 エンチャント ・・・種族特性「器用貧乏」

※他プレイヤーに譲渡不可



 宝石を確認すると狙い通りのフォローオラズが完成していた。

 魔石晶従魔術で付与できる種族特性が「パーティー内の誰かが所持している」という条件であると聞いたときから、このフォローオラズを作ろうと考えていた。


 この種族特性の効果は「得手不得手が無く覚えられないスキルがほとんどない」というものなので、この特性を従魔達が持てば、今まで覚えられなかったスキルを覚えられるのではないかと考えたのだ。


 念の為にシャーロットさんには確認してある。

 この話をした時に「……問題ないよ」と言いながらニヤリとしていたので、本人も同じような事をしていたのかもしれない。

 しかも、一度覚えてしまえば種族特性を切り替えても問題ないらしい。


「思ったより、なんていうか……地味っすね」

「大量のMPを消費するって聞いてたからもっとドカーンとなるのかと思いましたー」

「見た目変わんねーけど、本当にアーツはうまくいったのか?」


 周りで見学していた生産職のメンバーは、思っていたほど派手なエフェクトが出なかったからか、本当にうまくいったのか懐疑的な視線をこちらに向けてくる。

 俺は大丈夫と返しながら、このフォローオラズを誰に装着するか考えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アート多分誕生日11月やろ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ