144.パラティの首都で
「「「「明けましておめでとう (あけおめ~) 」」」」
元旦の朝、家族全員そろって初詣に来ていた。
両親は大晦日の早朝に帰って来ていて、すでに進路の確認は済んでいる。
俺も春花も家族全員そろっている間、ゲームは控える事にしていた。
よくオンラインゲームであるらしい年明けイベントとやらもあったようだが、家族団欒できる数少ない機会なので今回はスルーする。
両親は外資系の仕事をしており正月に帰ってこれるのも稀なので、次の機会はあるだろうと思っている。
「それじゃあ、翼。あなたも大学受験で大変だろうけど家の事をよろしく頼むわね」
「わかってるよ、母さん。春花にも赤点とらせないように面倒見るよ」
「もーー! この前は勉強見てもらわなくても大丈夫だったでしょう!」
「ははは、春花も高校生なんだから自分の事は自分でできるよな! 翼の方は何も心配はしていないぞ! AO入試の課題もお前にとっては趣味の延長みたいなもんだしな!」
――春花が父親の発言に冷や汗を流しているのは見逃しておこう。
初詣から帰ってきてすぐ、両親は再び遠出の支度をしていた。
本当はもう少しゆっくりしているつもりだったらしいが、父が務めている会社の方でトラブルが発生したようで緊急の呼び出しがあったらしい。
同じ会社に勤めている母も一緒についていくそうだ。
両親を見送った俺達は大晦日にできなかった大掃除を済ませる。
春花は「少しだけゲームしてからでもいいんじゃない?」と言っていたが、日が高いうちに済ませた方が楽なので春花を説得して掃除を終わらせた。
「そういえばお兄ちゃんはイベントの進捗はどうなの? 確か委員長以外のクラスメイトに頼まれてクランに所属してたよね?」
「それなんだが、途中から上位職の転職クエストが発生してな。それに時間を取られてあまりよろしくないんだよなー」
春花は俺の発言に目を丸くする。
「お兄ちゃん……。上位職の転職クエストが発生したってことはギルドの試験じゃないね。
このタイミングでそんなフラグを引くなんて間が悪いね。フラグを引いたのはやっぱり司書かな?」
「いやテイマーだ。今は魔物使いの国にいるからな。詳細は次協力する時があったら話すかもな」
夕飯を食べ終えた後は約2日ぶりのログインをする。
最後に従魔達と会話をしたマイエリアにいた。
とりあえず従魔達の様子を見ると、久しぶりにパーティーで行動するからか若干そわそわしている印象だった。
俺の修行も含めるとゲーム内では1か月くらいは別行動だったことになる。
なんだかずいぶん久しぶりな気がするな。
ウィンタークエストの内容的に常にアザラシ親子をパーティーに入れて行動する必要はないようなので、アザラシ親子をマイエリアに残し総合ギルドに転移する。
今回は当初の目的地である首都を目指すつもりだ。
首都とその付近にある街をつなぐ街道は見回りしている頻度も高く、危険度が大分低い事は確認している。
さすがに何度も同じミスをするつもりは無いので、事前にテイマーギルドで聞いておいたのだ。
アザラシ親子を発見した外壁辺りの門までやってくる。
門番にギルドカードを見せ、街の外へと出た。
この街では様々なことがあったが、ようやく当初の予定に戻ることができた。
街での出来事を思い出しながら、首都の水堀につながっている水路に沿って歩いていく。
……………………。
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
≪従魔カレルがレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
≪オラズ・テイマーのレベルが上がりました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「火魔法」がレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエの練度が一定に達したため、スキル「咆哮」がレベルアップしました。≫
≪イベントポイントが9ポイント加算されます。≫
・
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いまだ雪の降り積もる街道を進みながら遭遇したイベントモンスターを駆逐していく。
オラズ・テイマーとしての戦い方はできていないが、転職したことでMPが大幅に増えた恩恵は大きく、MPの残量を気にせず戦闘できる。
ハーメルたちも従魔同士の連携に磨きがかかっているらしく、最小限の消耗で敵モンスターを蹂躙していた。
すでに首都の外壁とその周りを囲むようにして掘られている水堀も見えている。
遠目でしっかりとは見えていないが、ヘビのようなモンスターが水堀を泳いでいるのが確認できた。
もしかしたらアザラシ親子は従魔では無かったので、あのような肉食系の従魔にでも襲われて逃げてきたのかもしれない。
門番にギルドカードを提示して、手続きを終えた俺は首都トルトゥーラに入る。
魔物使いの国パラティの首都というだけあって様々なモンスターが町中におり、どの人も1匹は従魔を連れて居る様だ。
俺は門番に聞いておいたテイマーギルドのある場所へと向かう。
流石に魔物使いの国というべきか、この首都にある最大の建物という事なので迷わずたどり着くことができた。
中には人よりもモンスターの方が多い印象だ。
ここのテイマーギルドは総合ギルドと併設されているようなので、一度マイエリアに転移する。
マイエリアに着いた俺はヌエとカレルをパーティーから外し、子アザラシと親アザラシを以前と同じ方法で背負い、再びテイマーギルドへ向かう。
大体の予想は出来ているがアザラシ親子の生息地を最終確認するためだ。
図書館で聞いてもいいが、テイマーギルドの職員に実物を直接見せて調べてもらった方が確実だろう。
アザラシ親子を背負い、テイマーギルドのカウンターに並ぶ。
親アザラシは周りに肉食系の従魔がいるためか辺りを警戒しているが、子供アザラシは様々なモンスターに好奇心を刺激されたようでテンションが高い。
周りのテイマーたちは俺達を微笑ましそうに見守っている。
「あ~! いたーー!」
俺がヘッドバットをかまされないように子供アザラシの頭をなでながら、列に並んでいると女性の叫び声が聞こえてきた。
声はテイマーギルドの出入り口辺りから聞こえてきたので、視線を向けると黒い髪をツインテールにした女性が地面に四つん這いになっている。
その様は正に「orz」といった感じで、全身から絶望のオーラを放っている。
「キュ?」
「ギュ! ギューー!」
その光景を見た子供アザラシは首を傾げているが、親アザラシは心当たりがあるようで警戒したような声を上げる。
女性の頭の向きから、俺達というよりはアザラシ親子を見て声を上げてしまったと思われる。
その女性はと言えば、その人の従魔だと思われるトラ? と思わしきモンスターに肩を叩かれながら慰められていた。
最初は声をかけようかと思っていたが、親アザラシの反応が警戒だったので躊躇する。
そうこうしているうちに俺が列の先頭まで来ていたようで受付の人に声をかけられた。
ひとまず女性の事は置いといて、当初の目的であるアザラシ親子の生息地を確認する。
どうやら俺の予想に違わず、大河の先にある海まで連れていけば問題ないようだったので職員にお礼を言ってカウンターを離れた。
先ほどの女性はいまだテイマーギルドの出入り口で膝をついている。
出来れば関わりたくは無いが、周りから「お前の関係者だろう? 何とかしろよ」みたいなプレッシャーを感じる。
俺は親アザラシをなだめつつ、女性に声をかけた。




