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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
6.魔物使いの国
151/268

141.ウィンタークエストと無一文

 俺の足元で興味津々に見上げてくる子供アザラシをなでながらクエストの内容を確認する。


 クエストの詳細では豪雪の影響で各地の水温が下がり、本来もっと寒い地域に生息しているモンスターが迷い込んでいるとあった。

 そのようなモンスターたちと調教術で仮契約して生息地(もしくはその付近)に返してあげましょうとの事。

 一応倒すことも可能だが、調教術を持っているなら助けた方がいいとも書いてあった。


「キューー! キュ!」

「ギュー……!」


 クエストの内容を確認した俺は改めてアザラシ親子に目を向ける。

 親アザラシは相変わらず俺を警戒しているようだが、子供アザラシの方は撫でられているのが気持ち良いのか目を細めている。


 正直倒すのはそう難しくないだろう。

 親アザラシの方は大分衰弱しているようだし、子供アザラシも強いようには見えない。

 しかし、これほど人懐っこい子供アザラシと衰弱している親アザラシを倒すというのも罪悪感が半端ない。


「ギュー……」

「キュ? キューー!」


 親アザラシの方から苦しそうな鳴き声が聞こえてくる。

 どうやら衰弱している親アザラシの容態が良くないようだ。

 子供アザラシも俺から離れて親アザラシの方へと向かう。


 俺はこのクエストは見送ろうかと考えていた。

 現在、転職クエストの最中である俺にアザラシ親子を送り届ける余裕はない。

 しかし今の親アザラシの様子からここで俺が助けなければ、遠からずこの親子はポリゴンに変わってしまうだろう。


「キュー、キューー!」


 自分ではどうしようできないとわかった子供アザラシは再び俺の元へやって来て助けを求めてくる。

 俺がこのクエストを受けて親子アザラシをテイムすれば最低限俺のマイエリアにリスポーンするので命は救えるだろう。

 

 腹を決めた俺は子供アザラシを抱き上げると、親アザラシに近づいていく。

 親アザラシはもう顔を上げるのも辛そうだったのでしゃがみ込んで、目線の高さを合わせる。


「俺はお前たちを救う事ができるが、すぐに住んでいたところに送り返すことは難しい。それでもいいというなら一時的に俺の従魔になることを受け入れてくれないか?」

「ギューー……」

「キュー!」


 しばらく親アザラシと見つめ合っていると、抱きかかえていた子供アザラシが俺にヘッドバットをかましてきた。

 ほとんどダメージは受けなかったが、突然の衝撃で子供アザラシを手放してしまう。

 俺の手から離れた子供アザラシは親アザラシに身振り手振りで何かを伝えようとしているようだった。


 何となくだが、子供アザラシが親アザラシを説得しているように見える。

 ほどなくして親アザラシの方が折れたのか力なく頭を垂れた。

 説得を終えた子供アザラシはやり遂げた顔をしてこちらへ振り返る。


「キュー!」

「テイムしてもいいんだな?」

「ギューー……」


 どうやら親アザラシの了承も得られたようなので、クエストの受注をすることにした。

 開きっぱなしのウインドウからYESを選択した俺はアザラシ親子をテイムする。

 この従魔契約はクエスト限定の契約のようで戦闘に参加させることはできず、ステータスも限定的にしかわからないようだ。

 イベント期間中にクエストクリアできなければ、自力で帰るために契約が解除されてプレイヤーの前からいなくなってしまうらしい。

 以下が親子アザラシのステータスである。



NAME「親アザラシ」   ウイングの従魔(仮)

種族「???セイル・リーダー ♀」 種族特性 「水棲」「鈍足」「脂肪」

 HP 800  


状態 飢餓(重度) 衰弱(重度)



NAME「子アザラシ」   ウイングの従魔(仮)

種族「???セイル ♂」 種族特性 「水棲」「鈍足」「脂肪」

 HP 400  


状態 飢餓(軽度) 衰弱(軽度)



 ステータスを確認すると、どちらも空腹による衰弱を引き起こしているようだ。

 親アザラシの方が重症なのは、子供アザラシに少ない食料を譲っていたためだろう。

 子供アザラシの方が小さいので、幼体なのかと思ったがどうやら親の方が進化して大きくなっているらしい。

 ひとまずカレル用のご飯を与えて様子を見る。

 2匹とも警戒する余裕もないのか無心になって貝や魚を食べていた。


 アザラシ親子がご飯を食べている間に、俺はカレル用のリュックサックと縄を取り出す。

 子供アザラシは大きさがカレルと大体同じくらいなので、リュックサックの方に入ってもらうとして親アザラシは背中に結び付けるしかない。

 親アザラシの大きさは俺の身長と同じぐらいだが、ゲーム内のステータスがあるので運ぶことは可能だろう。


 ご飯を食べ終えて多少体調が良くなった親子を運ぶ準備をする。

 子供アザラシの入ったリュックサックを前、親アザラシを背中に背負った俺はテイマーギルドに向かう事にした。

 

 テイマーギルドへ向かう道すがら、見る物全てが珍しいのか子供アザラシが興奮しっぱなしだった。

 何かが興味を引くたびにリュックサックから身を乗り出し、俺の顎にヘッドバットが決まる。

 それを見た親アザラシが背中越しに窘めるまでがセットになりながら、街道を進んでいく。


 テイマーギルドに着いた俺は親子アザラシの事を職員に伝える。

 職員さんは従魔として契約している以上、一度登録して解除した時にもう一度報告に来てもらいたいそうだ。


 アザラシ親子の従魔登録を終えた俺はもう一つの目的を済ませる。

 俺はテイマーギルドでホームオブジェクトを購入するカウンターへ向かう。

 購入するのは、ため池である。

 元々マイエリアが殺風景だったのでいつか購入するつもりだったが、お金に余裕が無かったので見送っていた。


 しかし、俺が転職クエストを完了するまでアザラシ親子が生活する場所が必要になってしまった。

 幸いアザラシ親子は淡水でも生活できるようなので、普通のため池で問題ないだろう。

 これならば、クエストクリアした後でもカレルが使用できるので無駄にはならないはずだ。


 ため池の位置などをテイマーギルドの職員と相談した後、購入手続きを済ませる。

 これで、残高はほぼゼロになってしまった。

 ミーシャに頼んでいたハーメルの忍者装備の代金を考えると、転職クエストを終えたと同時に金策に走り回らなければならないようだ。


 俺は肩を落としながら、総合ギルドからマイエリアに転移する。

 マイエリアにやってくるとエリアの隅に水が張っているのが目につく。

 俺はアザラシ親子を落とさないようにため池へと向かう。


「キューー……」

「ギューー……」


 ため池の畔までやってきた俺はアザラシ親子を下ろす。

 池は円を四分の一にしたような形状をしており、エリアの隅に近づいていくごとに深くなっていく構造をしている。

 この池には水しか張っていないが、もう少しグレードの高いものになると藻や小魚が湧くようなものもあるらしい。


 アザラシ親子は体を半分水につけて身を寄せ合っている。

 2匹とも相当疲れていたのかそのままぐっすりと寝入ってしまった。

 親アザラシは相当衰弱していたし、子供アザラシは街中ではしゃぎまわったせいだな。

 俺は寝ている2匹を邪魔しないようにしながら、カレル用だったご飯を置いていく。

 空腹で衰弱していたことを考えると定期的に様子を見に来た方がいいだろう。


 マイルームを出た俺はシャーロットさんと合流して工房へと戻る。

 早く転職クエストを終わらせて、クエストと金策をしなければならない。

 気合を入れ直した俺は再び修行へと戻るのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ホームオブシェクト引換券持っていたような……………?
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