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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
1.彼がゲームをする動機
15/268

14.少女の依頼とひらめき

旧27.28です。

 テイマーギルドを後にした俺は総合ギルドで受けたクエストをクリアしに向かう。

 ちなみに内容はこんな感じ


指輪を探して 依頼者 ナンカ

 おかあさんのだいじなゆびわをさがしてください

報酬 エイコンの実 たくさん


 明らかに年少者の依頼だろうし報酬もどこにでもある木の実らしいが、依頼として成立しているので貢献ポイントが入るうえ、ハーメルのエサも手に入る。まさに俺の為のクエストといえよう。

 それに年下の扱いは慣れているほうだと思う。


 さっそく依頼者のもとに向かう。場所は昨日溝掃除した居住区らしい。指定された場所に向かうとそこそこ大きな水路がある区画に出る。そこにうろうろしている小学生くらいの女の子を見つけたので声をかける。


「少しいいかな? 君が総合ギルドに依頼を出した子かな?」


 俺がそういうと女の子はバッと顔を上げた。


「あの依頼を受けてくれたんですか? お願いします。お母さんの指輪を探してください!」


 依頼書の印象よりしっかりしているが、焦っているのか落ち着きがない。


「落ち着いてくれ、そんな状態じゃあ探し物も見つからないだろう」

「チュウーーーーーー。」

「わぁ。か、かわいい。あっ、そうですよね!深呼吸します」


 そう言って落ち着いてきたようなので話を聞いてみると、女の子の名前はナンカ、どうやら母親が買い物中に自分の指輪がないことに気づいた。買った時の道を引き返して探したが、見つからなかったそうだ。

 口では仕方ないと言っているが、かなり気落ちしているそうだ。

 どうやら父親が最初にプレゼントしたものらしく、常に身に着けていたようだ。

 悲しそうな顔している母親を見てナンカは自分が探し出そうと家を飛び出して探し回っていたそうだ。 結局、小さい女の子1人でできる事には限界があり、見つけられなかった。

 そこでギルドに依頼をしてみたが、なかなか手伝ってくれる人は来なかったと泣きそうな顔で話してくれた。


 ……確かにあの報酬だと受ける人はなかなかいないだろう。

 それに探す範囲がどこまでかわかりにくいので、どれくらい時間がかかるかわからない。


「ところでなんでこの辺を探していたんだ? 買い物中なら商店街とかを探すべきじゃないかい」

「指輪をなくした日にお母さんは買い物中までは指輪がついていたの。でも帰り道にある水路に買った果物が落ちちゃったんだって。それを拾おうとしたときに落としたかもしれないっていってたの」


 なるほど、それならこの辺でうろうろしていたのも頷ける。ただそうなると落とした位置からだいぶずれている可能性もある。

 それに水路の水はきれいだが砂が沈殿しているようなので指輪だと埋もれている可能性が高い。

 さて、どうするか。俺がそう考えているとナンカが不安そうに見上げてくる。

 せっかく依頼を受けたのだし、小さい子が困っているのだからどうにかしてやりたい。

 そこまで考えていると不意にハーメルを視界にとらえる。

 どうやら水の中に沈殿する砂や泥を眺めているようだ。

 その瞬間、俺はひらめく。俺の手札ならだいぶ早く解決できるかもしれない。


「ナンカちゃん。解決手段を見つけたかもしれないから。一度総合ギルドに戻るよ」

「ほんと!わかった。待ってるね!」


 先ほどの不安そうな顔は無く期待に目をキラキラさせていた。

 これは期待を裏切れないな

 俺は苦笑しながら総合ギルドに引き返すのだった。


 ……………………。


 俺は総合ギルドに戻りカウンターに向かう。

 出る前にいた人たちはいないようだ。とりあえず空いているカウンターに向かう。

 男のギルド職員に声をかける。


「すいません。少しよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょうか?」

「実はあるクエストをこなしている時に必要な道具がありまして」


 そう言いながら溝掃除で使った道具を思い出す。

 その中で俺が借りたいのは泥を詰めたゴミ袋だ。

 その説明のなかでゴミ袋に入るものが制限されているので落とし物をえり分けられるとあった。

 あの水路の砂や泥をゴミとして処理して指輪を探し出そうと思ったわけだ。

 俺はギルド職員に探し物クエストで使うことを説明した。


「わかりました。そういう事情があるのでしたらかまいませんよ」


 そう言ってゴミ袋を出してもらえたので受け取る。

 ナンカのところまで足早に戻る。


「おかえり、お兄ちゃん!」


 なんかお兄ちゃんに格上げされていた。何気に退路を塞いでくるあたり策士かもしれない。


「目当てのものを借りられたからさっそく、作業を始めよう。ハーメル、かなり働いてもらうことになると思うが、これも好物の為だと思って頑張ってくれよ!」

「チュウーーー」


 ハーメルが両手を上げて答える。そうしてスルスルと俺の肩から降りて水路のそばによる。


「ヂュウーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 かなり気合の入った鳴き声を上げる。するとハーメルの体が少し光る。

 その光が水面を覆い泥に到達する。

 俺は水路にゆっくり入り、光が覆った範囲の外からその泥を慎重に持ち上げる。

 すると大体1メートルくらいの範囲の泥がゆっくり持ち上がる。


「わーー。すごい、すごい」


 ナンカの声が聞こえるが、今はそれどころではない。ゴミ袋の口を開け慎重に泥を入れる。

 全部入るが特に何も残らない。


「うーむ。このあたりにはないみたいだな」


 俺の考えはこうだ、まず公共の水路なので泥や砂を巻き上げてしまうと他の人に迷惑をかけてしまう。 そこで水路の中の泥をハーメルの持つ「泥術」スキルにあるアーツ「泥固め」で固める。

 それを慎重にゴミ袋に入れていく。指輪があればこの時に残るはずなのでそれで捜索は完了というわけだ。

 ただし、これにはハーメルのMPが問題になってくる。もともと、泥固めを1回使えるぐらいのMPしかない。このゲームではMPの回復方法は主に2つある。

 休憩しながら自然回復を待つか、アイテム・スキルによる回復である。

 ハーメルは最大MPが少ないので全快まで回復するのは早いが、疲労は溜まるようで、すでに疲れが見える。


「とりあえず、ハーメルが回復するまで休憩だ」

「はーい」


 希望が見えたからかナンカの声も明るい。


「チュウ!」


 ハーメルもまだまだやる気だ。


…………


 休憩をはさみながら同じことを繰り返すこと5回、泥を入れ終わったところでハーメルの状態も確認する。


「チ、チュウ……」


 もう立ち上がるのもしんどいようで水路の端に寝そべっている。

 今日はこの辺で切り上げるべきか。そう俺が考えていると。


「あ!それーーー」


 急にナンカが声を上げてゴミ袋を指す。

 俺もそれにつられてゴミ袋を見る。するとゴミ袋の口の部分にきらりと光るものがついていた。


「お母さんが付けてるの見たことある。たぶんこれだよ!」


 そう言ってきらりと光る指輪を手に取った。


「お兄ちゃん、ありがとう!」


 そういって走り去っていった。


「お、おい」


 俺が止める間もなく見えなくなってしまった。

 さて、クエストは完了したはずなのだがこのまま報告していいのだろうか?

 一度、総合ギルドで確認してみるか。

 俺はバテバテになったハーメルをそっと持ち上げると、その足で総合ギルドへと向かった。


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