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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
6.魔物使いの国
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136.第1の課題と従魔達の予定



 翌日、朝食を食べ終えた俺はログインしてすぐにシャーロットさんの家へと向かう。

 シャーロットさんからは最初の修行では従魔達を連れてこなくてもいいという事で、全員マイエリアで待機してもらっている。

 ドアをノックして部屋に入ると、目に飛び込んできたのはうずたかく積まれた本の山だった。


「……いらっしゃい。……少し待ってて」


 部屋の奥から出てきたシャーロットさんは、本の山を見て唖然としている俺に声をかけてくる。

 シャーロットさんは以前講義に使用していた黒板に何やら書き込んだ後、俺に向き直る。


「……今日から上位職への転職に向けて修行を開始します」

「あの……。一つ質問良いですか?」

「……何でしょう?」


 俺は修行を始める前にどうしても確認しておきたいことがあった。


「この部屋に積み重ねられた本たちはいったい何でしょう?」

「……それはこれから説明します。……私からも一つ質問なのですが、あなたは読書スキルを持っていますね?」

「はい。実はもう一つの職業が司書でして……。この国に来た目的が、首都にある大図書館でとある本を読むためでした」


 俺の返答にシャーロットさんは満足げに頷く。


「……それならば、今までの弟子候補達よりいくらか修行は楽になるかもしれません」

「そうなんですか?」

「……はい。……この職業に転職するためにはいくつかスキルを取得しておく必要があります。……読書スキルを持っていればスキルの取得が容易に行えるので修行の期間を短縮することができます」


 なるほど、この高く積まれた本はそのための資料という事か……。


「……読書スキルを持っていない場合は、地道にフィールドワークによる訓練で取得してもらう予定でした」

「それでは今日の修行はスキルの習得がメインという事になるのでしょうか?」

「……そうなります。……修行を始める前に黒板に必要なスキルの一覧を書いておきました。……すでに取得しているものはありますか?」


 俺は先ほどシャーロットさんが書きだしていたスキル一覧を眺める。

 どうやら必須なスキルの他に、持っているとなお良しとされるスキルがあるらしい。

 俺は自分の持っているスキルをシャーロットさんに伝えていく。


「そうですね……。必須スキルでは調教術、付与魔法、魔物知識、種族知識。あると便利なスキルの方では基本属性魔法すべて、空間魔法、無属性魔法といったところでしょうか?」

「……すごいね! ……君は逸材かもしれない!」


 どうやら事前にここまでのスキルをそろえていた弟子は過去にいなかったらしい。

 シャーロットさんはやや興奮気味に話しかけてくるが、俺はスキル一覧を見て気になったことがあったので質問してみる。


「すいません。一つ確認したいのですが、俺が転職しようとしているのは本当に戦闘職なんでしょうか?」

「………………私が教えようとした弟子候補はみんなそう言って転職を諦めていったよ」


 やや長い沈黙の後、シャーロットさんは哀愁を漂わせながら俺の質問に答えてくれた。

 どうやら地雷を踏んでしまったようだ。

 いつの間にかシャーロットさんの足元にいた黒猫もこちらを威嚇するように鳴いている。

 俺は慌てて話の先を促すことにした。


「よ、要するにここに積まれている本を読んで不足しているスキルを習得することが修行の第1段階という事ですね!」

「……そういう事になるかな。ひとまず持っているスキルの本はわきに寄せて……」

「あっ、片づけなら俺がやりますよ! これだけの本片づけるのは大変でしょう!」


 これほどの本の量だと女性1人で運ぶのは大変だろう。

 それに、これだけの本がしまってあった部屋も見てみたい。

 もしかしたら、考古学者のお爺さんみたいに珍しい本も所蔵されている可能性もある。


 俺はシャーロットさんと協力して、修行で使わない本を片付けていく。

 本がしまってあった部屋には沢山の本棚にこれでもかと本や資料が詰め込まれており、総合ギルドの資料室並みの蔵書量を誇っていた。

 チラリと内容を確認してみたが、魔物に関する本に加えて地質学に関する本も多く所蔵されていた。

 粗方本を片付け終え、俺達は先ほどの部屋へと戻る。


「……しばらくはこの部屋を自由に使っていいから、足りないスキルの習得に努めてほしい。……私が巡回で不在の時は勝手に上がってもいいよ」

「わかりました。期限などは有りますか?」

「……特にないけど、あんまり遅いと確認は取るかもしれない」


 そう言ってシャーロットさんは奥の部屋へと引っ込んでいった。

 残された俺は先ほどより低くなった本の山から1冊を取り出して読み進めていく事にした。

 意図せず読書を楽しむ時間を手に入れた俺は意気揚々と本を読み進めていく。


…………………………。


≪司書のレベルが上がりました。≫


 しばらく本を読んでいると、先ほど奥の部屋に入っていったシャーロットさんが戻ってきた。


「……そういえばあなたの従魔は何をさせているの?」

「従魔達ですか? 俺がここで修行している間は特にさせられることも無いのでマイエリアで待機させていますが……」


 俺が返答するとシャーロットさんは首を傾げる。


「……調教術がレベル5以上なら、テイマーがいなくても単独行動をとらせることができるはずだよ?」

「どういう意味でしょうか? 俺がパーティーにいないと門を出て活動する事はできないですよね?」


 単独行動をとらせるだけなら別に調教術のレベルが5以上でなくてもいいはずだ。

 しかし、テイマーがいないと従魔であると判断されず討伐されてしまう可能性がある。

 その為、基本的に従魔はテイマーのそばを離れて行動する事はない。

 特に魔物使いの国では、テイマーとの契約が切れた元従魔が徘徊しているのでさらに間違われるリスクが高い。


「……従魔道場に連れて行かないの?」

「従魔道場ですか? それって首都にあるやつですよね?」


 魔物使いの国パラティについて調べていた時に、従魔道場なるものの存在はすでに把握している。

 魔物使いの国では今の俺のように上位職へ転職するための修行などで、従魔達を放置してしまうテイマーがいる。

 そんなテイマーたちのためにあるのが、従魔道場である。


 簡単に言えばテイマーが従魔の面倒を見られない間、代わりに鍛えてくれる施設の事だ。

 最初に料金を支払い、従魔を預ける。

 すると、預けられた従魔は一定間隔で訓練を施されて経験値を得られるという仕組みだ。

 それに、訓練の内容によってはスキルを習得することもあるらしい。

 訓練の内容はその時監督しているテイマーによって変わるようだ。


 シャーロットさんが調教術のレベルを気にしていたのは、レベルが低いと利用することができない施設の為である。

 最初から楽するんじゃない! という事らしい。


「一度、首都まで行けという事ですか?」

「……ギルド運営の道場は首都にあるけど、個人の道場ならこの街にもあるよ」

「そうなんですか!」


 どうやら従魔達を待ちぼうけにしなくてもいいらしい。

 シャーロットさんの話では積極的に宣伝などはしていないらしいが、有望なテイマーのために現役を退いたベテランテイマーが個人で道場を開いているとの事。

 師匠になったテイマーの紹介があれば、従魔を鍛えてくれるそうだ。

 従魔達もケルベロス戦の敗北での鬱憤を消化しきれていないので、ちょうどいいかもしれない。


 俺は一度、読書をやめてシャーロットさんに個人の従魔道場の紹介状を書いてもらう。

 道場の場所を確認すると、俺が出入りしている門のそばだった。

 シャーロットさんにお礼を言ってから家を出た俺は、マイエリアで休憩している従魔を迎えに行く。


 すこし、修正しました。

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