126.テイマーの上位職
俺の肩や頭に視線が動いているミーシャが続けて話しかけてくる。
「久しぶりですー。ウイングさん!従魔ちゃんたちはいないんですねー。残念です。最近装備の注文が無いのでハーメルちゃんに会えなくて寂しいです!」
「今の所装備の更新しなくても問題なく進めているからな。次に頼むときはCランクのダンジョンに挑む時かな? それよりどうしてここに来たんだ? 俺が言えたことじゃないが、この辺りはモフモフのモンスターくらいしかいないはずだが……」
まぁ、ミーシャならそのモフモフのためにやってきても驚きはしない。
ミーシャは俺の問いかけに先ほど俺が声をかけたモフモフの海を指さした。
「そこでモフモフに埋もれている人と待ち合わせしていたんです。そこにいるモフモフなモンスターたちの毛刈りをして羊毛をいただく約束になっているんです」
「やっぱりこのモフモフの海の中心にいるのはプレイヤーなのか……。助けなくてもいいのか?」
俺の質問にやれやれといったポーズをとるミーシャ。
「全然助けなくても大丈夫ですよー。あの人モフモフに囲まれていれば幸せって人ですから。むしろ邪魔したら大変ですよ」
「そ、そうか……」
……無理に助けに行かなくてよかった。
「しかし、モフモフが大好きならむしろ毛刈りは嫌がるんじゃないか?」
「そうですねー。好きではないそうですが、従魔たちが喜ぶので仕方なく定期的に毛刈りしているそうですよ」
ミーシャの話からすると、このモフモフに埋もれているプレイヤーはテイマーであるようだ。
しかし、これだけのモンスターを一度に動かしているのは不自然だ。
連れていける従魔はパーティー上限の影響で基本的に5体までだ。
俺のようにパーティー枠を増やすアイテムなどあれば別だが、今回のように群れと言って憚らないほどの従魔を連れていけるアイテムは無いはずだ。
俺とミーシャが話し込んでいると、件のプレイヤーがようやくモフモフの海から出てきた。
背は低く黒髪のおかっぱヘアーからは長い耳が伸びている。
小人のような身長であるが、種族はエルフのようだ。
ミーシャの方に歩いてきたので、必然的に俺を視界にとらえる。
「おいミーシャ! なに部外者を連れてきているんだ!」
「違いますよー! 知り合いではありますが、私がここに来た時にはすでにいましたよ」
「むっ、そうか。お前は私に何か用か?」
見た目から判断できなかったが、声のトーンから女性であるとわかる。
「どうも、俺はウイングと言います。ミーシャには俺の従魔達の装備を作ってもらっています」
「ほう! 従魔がいるという事はテイマーか! 私はコットンという。テイマーの上位職である羊飼いだ!」
おお! すでに上位職に転職できているプレイヤーがいたのか。
おそらく特殊なクエストで転職した上位職だろう。
順当に転職したとして、テイマーの上が羊飼いはおかしいからな。
俺達の自己紹介が終わったのを見計らってミーシャが補足を入れる。
「コットンさんは熱狂的なモフラーでして……。他のプレイヤーたちが第2回イベントに向けて準備しているさなかにこの国に来て、羊たちをNPCから譲り受けてひたすらモフっていたんですよ」
「別に誰にも迷惑かけていないのだからいいだろう! そのおかげでテイマーの上位職になれたのだから!」
コットンがミーシャの紹介に噛みつく。
ミーシャはコットンの文句を華麗にスルーして、俺の補足を始める。
「こちらの方はウイングさんと言いまして、私の最初のお客さんです。この人のおかげで従魔向けの装備を作れるようになったと言っても過言ではないんですよー!」
「私とこいつの紹介に大分格差があるな!」
「だってー、コットンさんは毛刈りの時以外従魔ちゃんたちを触らせてくれないじゃないですかー!」
ミーシャとコットンが言い争いに発展しそうだったので、横やりを入れる事にした。
「とりあえず、その辺にしてもらっていいか? コットンとミーシャは従魔達の毛刈りするんだろう。ちょっと見学してもいいか?」
「ん? そうだな。ほらミーシャ、さっさと終わらせてくれ」
「もー。コットンさんが先に絡んできたんすよ!」
ミーシャは文句を言いながらもアイテムボックスからバリカンを取り出す。
……この世界にあったんだな、バリカン。
ただ、俺が見慣れた電動の物ではなく、海外のドキュメンタリーなどで見かける手動のバリカンだ。
「メ~~……」
ミーシャがバリカンで毛を刈り取った羊はスッキリしたことで、ご機嫌に鳴く。
他の羊は自分の番はいつだというようにソワソワしている。
俺が羊たちの様子を観察していると、コットンが近寄ってきた。
「さっきは聞きそびれたんだが、お前もテイマーなんだろ? 従魔達はどうしたんだ?」
「ああ。俺の従魔はマイエリアで休んでもらってるよ。さっきまで従魔が入れない施設にいたからな。それより聞きたいことがあるんだが、なんであんな数の従魔を連れ歩けるんだ?
あっ! 無理に言わなくてもいいぞ」
俺がそういうとコットンは笑って答えてくれた。
「そのことについては簡単だ。さっきも言った通りあたしはテイマーの上位職、羊飼いになったんだ。この職業のおかげで種族特性に育毛があるモンスターを大量に引き連れることができるんだ。詳細は聞くなよ! それ以上を知りたかったら自分で羊飼いになるんだな!」
「俺は別にモフモフが好きってわけじゃないから、羊飼いは目指さないよ」
俺の返答を聞いたコットンは目を丸くして驚く。
「お前……。ほんとになんでここに来たんだ? ここは毛を売るためにモフモフなモンスターが集められた区画だぞ!」
「さっきも言ったが、用事があって出かけたんだが、そこが不発でな。時間ができたからフラフラ歩いていたら偶々ここら辺にたどり着いたってだけなんだ」
俺達が会話していると、俺の手元が震える。
どうやらグリモが紹介されないことにご立腹のようだ。
前にも同じようなことがあったが、グリモは自己主張激しいな……。
俺が苦笑したのを見て、コットンが首を傾げる。
「急にどうした?」
「いや、さっきは従魔を連れて居ないと言ったが、1体だけ連れてきているんだ。そいつが紹介しろって主張してきたからさ……」
俺は言いながらグリモのページを開いてコットンに見せる。
「(≧▽≦)」
「何だ? ページいっぱいに顔文字が書いてあるだけだが……」
「(´・ω・`)」
「うわっ! 顔文字が変わったぞ!」
「はは。グリモっていうんだけど、本の形をしたモンスターなんだ」
「ほう! ずいぶん珍しい従魔を連れて居るな!」
「(*´ω`*)」
ミーシャが熱狂的モフラーと言っていたコットンだが、今の所そんな感じはしないな。
確かに、連れて居る従魔はモフモフな毛を持ったモンスターばかりだったし、最初はモフモフに囲まれて俺の声が聞こえていなかったが熱狂的というほどでは無いように見える。
「コットンさーん! 毛刈り作業が終わりましたよー!」
俺とコットンが話し込んでいる間にミーシャは羊たちの毛刈りを終了させていた。
さて、面白い話も聞けたしそろそろ俺もお暇するとしよう。
ここを離れる前に声をかけようとコットンがいた場所に顔を向ける。
しかし、そこにコットンの姿は無かったのだった……。




