121.お疲れな二人
短めです。
ログアウトした俺はキッチンに赴き、牛乳を一杯飲む。
前回のイベントもそうだが、いつも以上に体感時間を延長しているからか、かなりの疲労感がある。
俺が一息ついていると春花がリビングにやってきた。
春花に声をかけようとしたが、少し躊躇した。
どこにしまっていたんだと驚愕するほどのお菓子を両手いっぱいに持ち、それをリビングにあるテーブルにぶちまけていた。
そのまま近場にあるお菓子からバクバクと食べ始める。
クランの主要メンバーとしてプレイヤーたちに指示を飛ばしたりしていたから、疲れているようだ。
俺は黙って糖分補給に勤しむ春花のそばに牛乳を注いだコップを置いておく。
春花はそれに気づくことなく一心不乱にお菓子を食べている。
俺はため息をつきながら、夕食の買い出しに出かけるのだった。
……………………。
夕食の買い出しを終えて帰宅した俺はリビングにいる春花の状態を確認する。
どうやら、出かける前の状態は脱したらしくテーブルに置いてあったお菓子の山は消えており、ぐったりとした春花が顔を突っ伏していた。
物音で俺が帰ったのに気づいたのか、ぐったりとしたままこちらに顔を向けてくる。
俺が持っている買い物袋を見て申し訳なさそうな顔をするが体を動かす気力もないのか、顔以外は動かない。
俺は気にするなと言って夕食の準備を始める。
夕食の準備が終わるころには、どうにか復帰した春花とともに席に着く。
「ごめんね、お兄ちゃん。夕食の準備を全部やってもらって……」
「それは別にいいんだが、そんなにぐったりして体調でも悪いのか?」
「大丈夫だよ。ただ、イベント中やイベント後のプレイヤー達との話し合いで疲れただけだから……」
どうやら無制限に募集した弊害か、プレイヤー同士の小競り合いがそれなりにあったらしい。
イベント自体は楽しめたようだが、集団の指揮を執るという不慣れな事をしていたからか疲労困憊になってしまったんだとか。
ログアウトした後、疲れた頭を癒すべく秘蔵のお菓子たちをバカ食いしていたそうだ。
夕食を食べ終えた俺たちは食器を片付ける。
春花が片づけは一人でやるといったが、疲れているなら無理するなと、一緒に片づける事にした。
片づけ終わった俺は自室に戻り、タブレットの電源を入れる。
すると、以前のイベントの時のようにメールが来ていた。
内容も一緒で、ランキングに入っているがプレイヤーネームを公開するか確認するメールだった。
もちろん今回も匿名希望にした。
メールを返信した後、abundant feasibility onlineの公式サイトを開くとイベントについての情報が更新されていた。
俺は個人ランキングのページを確認してみる。
しかし、匿名希望にしたので自分がどのランキングの何位なのかわからない。
前回のイベントのように司書としてランクインしたわけでは無く、テイマーの匿名希望として載っているのだろうと予測はできた。
しかし、テイマーの匿名希望は司書のときと違い何人かいるので、どれが俺なのかはわからなかった。
俺は早々に自分を探すのは諦めて、クランランキングの方を探す事にした。
クランランキングを確認するとハルたちのクランはそれなりに優秀だったようで、いくつかのランキングで上位にランクインしていた。
特筆すべきは迎撃数ランキングだ。2位と大差をつけての1位だった。
このランキングは2日目に自陣に侵入してきた敵プレイヤーをどれだけ倒したかで順位付けされている。
やはり、地下通路とピラミッドの迎撃システムのコンボは強力だったようだ。
これのおかげかわからないが、総合順位もトップ10に入っている。
しかし、クランランキングの報酬はクランルームのオブジェクトがほとんどで個人の報酬については書かれていない。
……これではクランに仮所属しているプレイヤーのメリットが少なくないか?
まだクランのシステムが始まって間もないという事もあって、仮所属のプレイヤーも多い。
これではプレイヤーたちがクランを抜けにくくなってしまうのではないだろうか?
俺は少しモヤモヤしながらイベントページをスクロールしていく。
すると、クランランキングの最後のページに個人への報酬について書かれていた。
今回のイベントの報酬はランキング報酬の他に、イベント内の行動で手に入れたポイントをアイテムに交換できるようになっているらしい。
その時、所属しているクランがランキングに入っている場合、さらに使えるポイントにボーナスが入るようだ。
ポイントや交換できるアイテムについての詳細はメンテナンスが終わった後、最初のログインの時にメールでお知らせが来るらしい。
俺が所属しているハルのクランはかなり優秀な成績なので、ボーナスの方は期待できるだろう。
個人で稼いだポイントがどれくらいかわからないが、何かしらのランキングに入っているようなので低くは無いはずだ。
俺はタブレットの電源を切り、ベッドに潜り込む。
何はともあれ今日は疲れた。春花ほどではないが俺もイベントで頭が疲れている。
報酬に思いをはせるのは明日にして今日はぐっすり眠る事にしよう。
毛布をかぶった俺はゆっくりと瞼を閉じ、意識を手放すのだった。




