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読書好きが始めるVRMMO(仮)  作者: 天 トオル
5.Dランクダンジョン攻略と第二回イベント
125/268

117.ピラミッド攻略と1日目終了

「何なのー! もー!」


 しばらくして、ピラミッドの下の方から声が聞こえてくる。

 俺は声の聞こえた方に視線を向けた。

 そこでは両肩をヌエに掴まれて運ばれているハルが、怒った顔をしながらこちらに近づいて来ていた。


 ヌエは俺たちがいる辺りの手前でハルを下ろす。

 ピラミッドに空から近づく場合、一定の高さにいなければ攻撃されないのは、先ほどまでの検証でわかっている。

 ヌエも俺より下の地点で着地した。

  着地して早々足早に俺の前まで来たハルは俺に文句を言ってきた。


「お兄ちゃん! 時間が無いのはわかったけど、あんな方法で連れてこなくてもよかったでしょう!」

「悪いな。ハルたちと話した後に、ピラミッドの上から音が聞こえてきたから時間が無いと思ったんだ。それにハルたちの提案では、ハル1人がいれば問題なさそうだったからな。少し強引な手段を取らせてもらった」


 俺がそういうと、いまだ納得していない表情だが、ひとまず追及はやめてくれた。


「それで? お兄ちゃんが言っていたことは本当なの?」

「確証があるかと言えば自信は無いが、ここから先は“熱”で侵入者を検知している可能性が高い」


 そう。俺が先ほどまでの検証で考え付いた結論はこれだ。

 サーモグラフィーのようなもので検知して、相手を捕捉している可能性が高い。

 理由は俺たちの行動に対する迎撃システムの反応だ。


 まず、俺自身が結界を抜けて突入した時であるが、普通にレーザーが飛んできた。

 次に石を結界内に投げ込んだときもレーザーにより攻撃された。

 これだけだと監視カメラのようなもので検知しているように見える。

 しかし、問題はこの後だ。


 俺もこの時点では監視しているシステムに看破スキルのような能力があり、隠れて進むプレイヤーを認識しているものだと考えた。

 そこで視界そのものを奪い、その中を問題なく進めるヌエに頂上まで飛んでもらう作戦を取ったのだ。

 しかし、結果は失敗に終わりヌエとハーメルは慌てて帰還することになった。


 この一連の検証の中で気になる点が3つ出てきた。


 1つ目は投げ込んだ石であるが、最初に攻撃されてからいまだ結界の中にある。

 それなのに追撃が無いことだ。

 結界内の異物を排除するならばこの反応はおかしいことになる。


 2つ目はブラックミストに反応を示さなかったことだ。

 石に攻撃をしなかっただけならば、動くものだけを追っている可能性も考えられる。

 しかし、俺が放ったブラックミストが結界内に侵入してもレーザーが飛んでくることが無かった。

 このことから動くものを追っている可能性とともに、魔力的なものを追っている可能性も消える。


 最後にブラックミストで発生した霧の中にいるヌエたちの位置を正確にとらえたことだ。

 石への攻撃が最初だけだったのは、俺が握ったことで体温によって温まっていた可能性が考えられる。

 もしかしたら、看破系スキル以外にもヌエの特性である夜行性のような視覚阻害を無効にする能力があるかもしれないが、そこまであったらもはやごり押しするしかないかもしれない。


 もう少し時間が在れば正しいルートの存在を探したかもしれないが、俺達より先に来ているプレイヤーがいる今の状況では時間がおしい。

 エラゼムがいればそのまま突入させても良かったが、甲冑では足元を見ながらの移動は難しいと考えて置いてきてしまった。

 

 最悪、違った場合は結界内でヒントを探すしかないだろう。

 ハルと俺がやられても下にはハルのパーティーメンバーが来ている。

 俺達が攻略できないまでも糸口を掴むことができれば、即座に連絡を入れるつもりだ。


 ハルは俺の横に立ち、このイベントのために新調したという藍色の着物の裾から巻物を取り出す。


「式神召喚! 狐火!」


 ハルがスキルを発動すると、ハルの周りに尻尾が燃えている狐たちが現れた。

 大きさはハルの顔と大体同じくらいで、ふわふわと宙を浮いている。

 狐は1匹だけでなく、合計10匹ほど出現した。


 ハルの話ではかなり初期のころから、この狐火は召喚できたらしい。

 特殊アーツらしく普通の方法では入手できないとの事。

 今回の作戦はこの狐火達に頑張ってもらう。


 俺はカレルとヌエにピラミッドの結界手前で待機するように指示する。

 今回の作戦は高温の中を移動することになるので、暑いのが苦手な2匹はお留守番してもらう事にした。

 準備も完了したところで、いよいよ結界の中に突入する。


「それじゃー。キツネちゃんたち! 準備は良いかなー!」

「「「「「「「「「「コーーーーーーン」」」」」」」」」」

「良し! それじゃー、アーツ発動! 燐火!」


 ハルがやけくそ気味に指示を飛ばすと、狐火たちは辺りに散らばる。

 ……後でもう一回謝っておこう。

 指示を受けた狐火達は一定間隔で広がった後、口から炎を放つ。

 放たれた炎は結界に入らないギリギリの辺りで、ピラミッドの壁に着弾する。

 すると、着弾したあたりから結界の方へと侵食するように炎が広がり始めた。


 ハルの話では本来はモンスターの行動範囲を制限したりする時に使うスキルらしいが、今回の目的はズバリ結界内の温度を上昇させるために使う。

 チェックポイントのあるエリアでは戦闘ができないので、この炎によるダメージは発生しない。

 しかし、炎による温度変化は起こるので、結界内の温度を人の体温より高めにしてみようというわけだ。


 狐火達の炎が結界内に広がっていくと、炎に向かってレーザーが飛んでくる。

 これで温度によって検知しているのは決定的と言えるかもしれない。

 炎はレーザーの攻撃を受けた辺りは一瞬消えたものの周りの炎が再び覆い隠す。


 その後も何発かレーザーが放たれるが、しばらくするとピタリと攻撃がやむ。

 おそらく、辺りの温度が上昇したことで検知できなくなったのだろう。

 俺とハルは狐火達を連れて結界の中へと突入する。

 狐火達の炎は放った狐火を中心に一定範囲まで広がるそうなので連れて行かないと炎がチェックポイントまで届かない。

 そのうえ、この方法で迎撃システムを無力化すると他のプレイヤーに対しても利となるので、慎重にかつ迅速に移動する必要がある。


「チュウ!」


 しばらく突き進んでいると、俺の頭に乗っていたハーメルが鳴く。

 どうやら炎で温めきれていないエリアに来てしまったらしい。

 前方からレーザーが飛んできたので全員がよける。

 ここまで来ると、作戦は第二段階に移動する。


 すでに頂上付近は目の前まで来ているが、温まるのを待っている余裕はない。

 そこで、頑張ってくれた狐火達には悪いが壁になってもらう事になっている。

 この提案はハルからされた。かわいい物好きのハルがこんな提案をしたときは面食らったものだ。


 その後に、「サモナーや式神使いはこういうのに躊躇してはいけないんだよ……」と悲哀交じりに語っていた。

 どうやら、ハルの方でもゲーム内でいろいろあったようだ。

 ……あまり深くは突っ込まないでおこう。



≪このエリアはクラン「お気楽」の陣地になりました。クラン「お気楽」に所属するプレイヤーはメールにてエリアの詳細を確認することができます。クラン「お気楽」以外に所属するプレイヤーはエリア外に強制転移されます。≫



 狐火3体が犠牲になったところで、俺たちはピラミッドの頂上にたどり着いた。

 チェックポイントにたどり着いたところで、他のプレイヤーも視界に映っていたのでかなりギリギリだったといえよう。


 ピラミッドを陣地にした後は、疲れたこともあり1日目終了まで待機することにした。

 ハルたちはピラミッドの設備を確認した後、作戦会議をすると言ってピラミッドにつながった地下通路へ入っていった。

 俺はハル達を見送ると、ピラミッドを降りた辺りで従魔たちと食事をとりながら休憩を始めるのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 早い段階からこのピラミッドにはたくさん人が集まっていて攻略しようとしていたけど、主人公はやってきて話を聞いてささっと解決してしまった。 大して難しいトラップでも無いのに、他のプレイヤ…
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